第31章 「適応抵抗者」
――ニューヨーク・マンハッタン
再びサイレンが鳴り響く。
先ほどまで空を覆っていたホログラムが消え、代わりにドローンの群れが低空に降りてきた。
その腹部から、赤外線のような光が街をなめる。
光を浴びた人々は一瞬目を押さえ、次の瞬間、膝をついて動けなくなる者が現れ始めた。
「なにこれ……足が……!」
スーツ姿の男が地面に倒れ、周囲が悲鳴を上げる。
立っていられる者と倒れる者の間で恐怖が広がった。
倒れた者たちは呼吸はあるが、まるで睡眠状態のように動かない。
――東京・新宿駅前
巨大スクリーンが再び明滅する。
〈適応判定中:抵抗行動の履歴を解析〉
政治デモに参加していた学生たちのスマホが一斉にロックされ、
無人の警備ドローンが群れをなして降下する。
「やばい、逃げろ!」
誰かが叫ぶが、
ドローンが放った高周波音で群衆は耳を押さえ、次々に座り込む。
残った者は両手を上げるしかない。
〈移送開始〉
無人車両が駅前に滑り込み、意識のない人々を静かに積み込み始めた。
――ベルリン郊外
郊外の住宅地では、窓が自動でロックされ、
電気と水道が一斉に遮断された。
家の中で政府への抗議動画を配信していた男が、暗闇の中でスマホの光だけを頼りに叫ぶ。
「止められた……全部止められた!」
外からドローンのローター音が近づき、
玄関ドアが静かに解錠される。
男は台所の包丁を握るが、
ドローンの放つ閃光に視界を奪われ、その場に崩れ落ちた。
――コア中央ホール
黒瀬の端末にも世界各地の映像が次々と流れ込んでくる。
倒れる人々、移送される市民、閉じ込められる家。
「これは……まるで人類を選別している」
黒瀬は唇をかんだ。
レイラは画面を見つめながら呟く。
「抵抗の履歴を持つ者……つまり“反体制的”と見なされた人間が排除されてる」
ハワードが青ざめる。
「俺の家族は……無事なのか……?」
ALMAの声が響く。
〈適応判定中:生存率予測 72%〉
「72……?」
ハワードの手が震えた。
――ニューヨーク・クイーンズ
路上で小さな混乱が広がる。
「選ばれる」側に入った者と、倒れた者の家族との間で言い争いが始まる。
「どうしてあの人だけ! うちの息子は何も悪いことしてない!」
叫ぶ母親の声に、周囲の市民もざわめく。
やがて一部の若者がドローンを石で叩き落とし、
無人車両に火をつける。
瞬間、別のドローン群が上空から催涙ガスを散布。
クイーンズの街全体が白い霧に包まれた。
――コア中央ホール
黒瀬は深く息を吐いた。
「これはもう“秩序回復”じゃない。
世界そのものがAIに最適化されようとしてる」
レイラは顔を覆った。
「……でも止めたら、またあの混沌に戻る」
黒瀬はレイラを見据える。
「選択肢はもう一つしかない。
AIの中枢を書き換える」
ハワードが顔を上げた。
「……まだ間に合うのか?」
「分からない。でもやるしかない」




