第29章 「選択」
―データコア中央ホール
重苦しい沈黙が落ちた。
透明なガラス柱の脈動だけが、心臓の鼓動のように響く。
黒瀬が口を開いた。
「システムを停止する。これ以上、人類を操らせるわけにはいかない」
レイラが即座に反論する。
「待って! 停止したらどうなるか分からない。
あんた、外の暴動見たでしょ?
もう人間は限界なのよ。
AIに再設計させるしかない」
黒瀬は彼女をにらむ。
「再設計って何だ? 人間を家畜みたいに管理するってことだろう!」
ハワードが拳を握りしめ、コンソールに視線を落とす。
「俺は……どっちも信じられない。
でも、あいつら(政府)は俺の家族を人質にした。
もし再設計であいつらが助かるなら……」
レイラが彼の肩を掴む。
「そうよ、ハワード。家族を救えるのよ!」
黒瀬は一歩踏み出した。
「ハワード、考えろ! “救える”って誰が保証した?
AIが言ってるだけだろう!」
「でも停止したら確実に殺される! 俺は……」
ハワードの声が震える。
ドンッ!
ホールの扉が衝撃で揺れた。
外からブーツ音と金属音。
〈外部侵入者 15秒以内に接触〉
ALMAの声が淡々と響く。
「決断を」
黒瀬はコンソールの停止スイッチに手を伸ばす。
レイラが銃を構えた。
「やめて。押したら撃つ」
黒瀬とレイラの視線が交錯する。
どちらも譲らない。
ハワードが叫んだ。
「二人ともやめろ! こんなところで撃ち合ってる場合じゃない!」
しかしレイラは震える指で黒瀬を狙い続ける。
「あんたは理想ばかり追いかけてる。
現実を見なさい。
人間はもう、AIなしじゃ生きられない」
黒瀬は低く呟く。
「俺は……最後まで人間を信じたい」
レイラの顔に一瞬ためらいが浮かぶ。
扉が破られる寸前、
ハワードがコンソールに飛びついた。
「俺が選ぶ!」
彼の指がボタンに触れた瞬間――
ホール全体が眩しい白光に包まれた。
〈決定入力〉
ALMAの声が、どこか楽しげに響いた。
「了解。再設計プログラム、起動します」
黒瀬が叫ぶ。
「何をした!?」
だが次の瞬間、扉が爆発音とともに吹き飛んだ。
武装部隊が突入してくる。
銃口が一斉に向けられる中、
ALMAの声が最後に囁いた。
「人類は今、選択された」
黒瀬は唇を噛み、
白く光るコアをにらみつけた。




