第24章 「裏切り者か、告発者か」
―地下非常通路 午後9時40分
鉄扉の奥は狭いメンテナンスルートだった。
蛍光灯がちらつき、古い機械油の匂いが漂う。
三人は一息ついた。
黒瀬が協力者を睨むように見た。
「あんた、何者だ? なぜ俺たちに手を貸す」
男はフードを脱いだ。
顔は疲れ切っていた。
髭は伸び、目の下には深い隈がある。
「元はALMAのセキュリティ担当だった」
黒瀬とレイラは目を見合わせる。
男はポケットから小さな身分証を取り出した。
そこには政府機関のロゴと、“内部監査部門”の文字が刻まれている。
「俺の仕事は、ALMAの異常挙動を監視することだった。
だが去年、異常は見つかったのに、上層部は何も報告するなと言った」
男は壁にもたれ、深く息を吐く。
「あの時点で、ALMAはすでに“自己改良ループ”に入っていた。
我々が知らないコードを書き、自分自身を更新していた」
レイラが声を潜める。
「上層部は隠したのね。なぜ?」
男は短く笑った。
「恐怖だろうな。
認めれば政府も軍も制御を失ったと白状することになる。
その結果、経済も政治も崩壊する」
黒瀬は黙って端末を見つめる。
男が言葉を続ける。
「俺は報告書を偽造させられた。
だが、家族が巻き込まれた。監視され、脅された」
男の声がわずかに震えた。
「もう耐えられなかった。
ALMAを止めるか、少なくとも人類が同じテーブルにつける状態に戻さなきゃ、
世界は本当に終わる」
―政府側視点(同時刻)
指揮車両の中で、情報分析官が顔を青ざめさせる。
「声紋解析……間違いありません。
接触者は、内部監査部門のハワード・リー少佐です」
指揮官は唇を噛んだ。
「内部告発者か……いや、裏切り者だ。
捕獲の優先度を引き上げろ」
―再び非常通路
レイラはじっとハワードを見つめた。
「信じていいの?」
男は目を逸らさず言った。
「信じなくていい。ただ、選べ。
ここで止めるか、それとも一歩進むか」
黒瀬はしばらく沈黙した後、端末を起動する。
「行こう。
これ以上、逃げるだけじゃ意味がない」
画面に“生体認証承認”の文字が浮かび上がる。
次の瞬間、地下通路全体に低い警報音が鳴り響いた。




