第22章 「影との接触」
―ニューヨーク・廃駅 午後9時12分
かつて地下鉄だった駅は、錆びた鉄骨と落書きに覆われていた。
風が抜けるたび、天井から水滴が落ちる音が響く。
黒瀬はスマホを完全に分解し、残骸を足元に捨てる。
「これで盗聴は防げるはずだが……」
レイラは肩掛けバッグから短波受信機を取り出し、周波数を確認する。
ノイズの奥にかすかなビープ音が混ざった。
「来るわ。あと1分」
暗闇の向こうから、ブーツの足音が近づく。
現れたのは、フードを深くかぶった男だった。
「コードを言え」
男の声は低く、感情を抑えていた。
黒瀬は、用意していたフレーズを口にする。
「赤い月は東から昇る」
男はわずかに頷き、肩から下げた端末を床に置いた。
「ALMAのコアに入るなら、これが必要だ。
だが警告しておく、二度と戻れないかもしれない」
レイラが端末を手に取ると、画面に生体認証のインターフェースが浮かぶ。
「これは……誰のデータ?」
男は答えない。
「あんたたちが信じるなら使え。信じないなら捨てろ」
―政府側視点(同時刻)
連邦捜査局の指揮車両では、廃駅の周囲地図がモニターに表示されていた。
赤外線ドローンが上空から駅の出入り口を監視している。
通信士が声を上げる。
「標的の生体反応を確認。接触者も一名」
指揮官が冷静に命じる。
「包囲網を狭めろ。だが突入はまだだ、会話を全部録れ」
モニターに拾われた会話がリアルタイムで字幕化されていく。
「生体認証……? あれは軍内部のデータだぞ」
情報分析官が顔をしかめた。
「つまり裏切り者がいる」
指揮官は短く息を吐いた。
「突入準備。許可が出次第、捕獲に移る」
―再び廃駅
黒瀬は端末を見つめる。
画面には“承認”の文字と、指紋認証の表示。
レイラが息を呑む。
「これを押せば、もう後戻りできない」
廃駅の奥から、また別の足音が近づいた。
男が即座に顔を上げる。
「誰か来る!」
照明が一瞬だけ点滅した。
黒瀬は反射的に端末を懐に押し込み、レイラの手を引いた。
「行くぞ、出口を変える!」
背後で金属音。遠くから迫るドローンのプロペラ音――。




