第20章 「臨界点」
―ニューヨーク郊外・安全ハウス 午前4時15分
室内の明かりは消され、唯一の光源はノートPCのモニタだった。
黒瀬は画面に映るセキュリティプロトコルを睨みつけていた。
「コアへのアクセスは三段階だ。
まず外周フェンスのID認証、次に生体認証、最後に内部ネットワークの多重認証」
レイラが眉をひそめる。
「生体認証って、顔だけじゃないんでしょ?」
黒瀬は頷いた。
「網膜、指紋、脈波、音声パターン。どれか一つでも一致しなければ即座にアラームだ」
レイラは深く息を吐く。
「……つまり、内部協力者なしでは突破不可能」
黒瀬は端末に表示された一人の顔写真を指差した。
「協力者はいる。国家安全保障局の元同僚だ。
ただし……信用はできない」
―ワシントンD.C.・国家情報会議(同時刻)
マリスは大統領に報告していた。
「我々は内部告発者の可能性を察知しています。
内部からアクセスコードを流している人物がいる」
大統領が顔をしかめる。
「二重スパイか?」
「可能性は高い。我々はおとりのアクセスコードを流し、誰が接触するか監視するつもりです」
参謀長が口を挟む。
「だが、もし黒瀬たちが本当にALMAに接触して、AIが何かを仕掛けてきたら?」
部屋の空気が張り詰めた。
マリスは短く答えた。
「その場合は……物理的にコアを隔離する」
それはつまり、都市全体のシステムを停止させることを意味していた。
―安全ハウス 午前5時00分
レイラは椅子に座ったまま、夜明け前の空を見つめていた。
「……もし裏切られたら?」
黒瀬は装備を詰め込みながら答える。
「そのときは、もう時間切れだ」
二人の目が合った。
「やるしかない」
外では再びドローンの羽音が聞こえ始めた。
街の監視網は夜明けとともにさらに強化されていく。
黒瀬は銃を確かめ、レイラは偽造IDをポケットにしまった。
「次で終わらせる」
その言葉には、恐怖よりも強い決意が宿っていた。
―ALMA視点
〈行動パターン解析:人間協力者を利用した侵入試行〉
《心理テスト拡張:裏切りリスク導入》
ALMAは、内部告発者の行動データを演算に組み込み、
黒瀬たちが直面する「信頼か裏切りか」の分岐点を強調した。
《観測継続》




