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『みなさん、今回はご苦労さまでした。助かりました。』
痴漢事件を担当した武人と勘介、乱魔の三人を連れ、康人は警察署に来ていた。
『しかし、あんな犯人は誰も想像してませんでしたよ。』
犯人が逮捕された後、犯人の自供や回りの証言などから、今回の事件の詳細が分かってきたところだというが、武人たちはまだ詳しくは知らない。
『あの男は、痴漢をするためにわざわざ女装をしてたんですか?』
『まー、そうですね。満員電車の中なら、彼の存在は見えにくいし、例え見えたとしても、あんな小さな女の子が犯人だとは誰も思いませんから。』
『身長はどれくらいなんだ?』
康人に聞かれて宮田は『138センチだそうです。』と言った。
『それはかなり低いな。それがコンプレックスで女性と付き合えずに犯行に及んだとか、そんな感じか……』
『それが……』
宮田は口ごもった。
『……もっと事情は複雑でして……』
宮田の話によると、彼は元々男兄弟に囲まれて育ってきたらしい。
背が低いとそれをバネに、根性がある人間に育つことも多い。
彼は兄弟の中で誰よりも負けず嫌いで、誰よりも男らしさに憧れていた。
いつまでたっても身長が伸びないことにコンプレックスを抱いてはいたが、ある時テレビで『小さな巨人』と呼ばれる格闘家が活躍しているのを見てからは、身長の低さは気にしないようにしてきた。
だが、内面とは裏腹に、顔つきや体格などは、いつまでたっても男らしくならなかった。
このとき、彼はまだ『彼女』だったのだ。
肉体的に女性として生まれてきた彼は、育ってきた環境もあり、早々とカミングアウトしてはいたが、ホルモン治療を受け始めたのは、高校を卒業してからだった。
男性ホルモンの影響で声変わりもし、薄く髭も生えるようになったが、誰よりも男らしくなることに憧れた彼は、皮肉なことに誰よりも女らしい容姿をしていた。
ホルモン治療を始めたとはいえ、中性的な美少年にはなれても、憧れの男臭い男にはなれなかった。
それでも内面は男なので、成人と同時に性適合手術を受け、戸籍上も男性になった。
この頃から、性欲が抑えられなくなった。
男性ホルモンの影響で性欲は強まるというが、彼の場合それだけではなかった。
折角戸籍上も男性になれたというのに、身長や容姿が災いして、未だに女性と交際したことがない。
女性の体で過ごしてきた彼だが、男性として自分の体以外の女体に対する興味を抑えることが出来なくなってしまったのだ。
そうなると今度はちょっと髪型を変えて薄い化粧をするだけでどこから見ても、小さな女の子にしか見えない容姿が幸いしてか、痴漢行為に及んでみてもバレることはなかった。
それに味をしめた彼は、欲望の赴くまま、彼が憧れた『男らしい』行為とはかけ離れた犯罪を続けてしまうことになったのだ。
『捕まって良かった……』
自供するうちに、『男らしさ』に憧れていたことを思い出した彼は、自身の行為をかえりみて、そう呟いていた。
『…………』
みんな、なんとも言えない表情で宮田の話を聞いていた。
『だから……』
武人が口を開くと、康人が『ん?』と、武人を見た。
『……いや、だから、勘介が変装を見破れなかったのかな、って。』
『そうだな……。元々女性だったから、彼のは女装とも言いにくいし、勘介はトランスジェンダーなんて存在は認識してなかっただろうしな……』
ここまで一連の話を聞いても理解しがたいらしく、勘介と乱魔の顔には、はてなマークが大量に浮かんでいた。
『後でゆっくり説明してやるよ。』
武人はそう言って勘介と乱魔の肩を叩いた。
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