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派遣の忍者『月光』  作者: ヒロっぴ
27/35

ー3ー






『おーい、勘介~。』





武道場に入った武人が声をかけると、振り向いた勘介は驚いた。



『な、何事でござる!』



つられて入り口に目を向けた忍者研究会の面々も目を丸くしている。




『こいつらが忍者と戦いたいんだってよ。』




『こ、こいつらって、その者達全部でござるか?』




『は?何いってんだ?』





そう言って振り返った武人は、柳達の後ろに何十人もいることに気付いて『な!』と言ったきり固まった。




それにつられた柳達も振り返り、驚いていた。




武人は柳達に中に入るように促す。



中に入った柳は、





『なんだこりゃ。アスレチッククラブかよ。』



と言って仲間達と笑いあっている。




武人はそんな柳達を苦々しく思いながら、続いて入ろうとする野次馬達に声をかけた。




『君達は忍者研究会の入部希望者って事でいいかな?』



『いや、俺たちは別に……』




『見学したら必ず入部しろとは言わんが、これだけの人数が中に入って見物するには顧問の許可がいる。嫌なら帰れ。』





そう言われてあちこちで顔を見合わせ、『どうする?』と話していた連中も、ほとんどが同意して中に入ることになった。




武人は田之浦を呼ぶと、見学者の整理を頼んだ。



そこへ大場達もやって来て手伝おうとする。





『あれ?こいつ大場じゃね?』




柳が言った。




研究会の面々は、息苦しさからマスク部分は外しているものの、忍者服で顔の回りも覆われている為、近付くまで気付かなかったらしい。




大場達も、過去に柳と何かあったらしいが、その存在自体を忘れていたらしく、その一言で気付くと、嫌なやつに会ったという顔をして目をそらした。




『そうだ、大場だ。中井達もいる。』




中井と呼ばれた男は『チッ!』と舌打ちしながら目を背けた。





柳達はなおも続ける。





『なんだよ。逃げ出して同好会の真似事始めたと思ったら、今度は忍者ごっこか。』




『すっかり腑抜けた面になって、こいつらにはお似合いだな。』




大場は悔しそうな顔をしてこぶしを握り締めながら震えていた。




隣にいた田之浦が心配して声をかける。




『大場ちゃん、相手にしない方がいいよ。』




『なんだよ。こんなひょろっちいやつに大場ちゃんとか呼ばれてんのか。情けねー奴だな。』



『こんな奴が同じ部にいたかと思うと、ヘドが出るぜ。』





『……いい加減にしろよ……』





大場は声を絞り出した。




『はぁ?なんか言ったか?』





『いい加減にしろって言ったんだ!柳!テメーとはまだ決着は着いてねーぞ!』





大場は立ち上がりながら柳に顔を近付けた。





『決着だ?テメー、一度だって俺に勝ったことねーじゃねーか!』





にらみ会う二人。







黙ってやり取りを見守っていた武人が、『なるほどね。』とつぶやいた後、柳に声をかける。





『お前、忍者と戦いたいって言ったよな。』




柳は意外そうな顔をすると、





『いや、俺は忍者じゃなく、あんたと……』





柳は反論しようとするが、武人は構わず続ける。




『……まずは大場と戦え。』




『は?』





『大場に勝てなきゃ忍者に勝てるはずないからな。』





大場はヤル気満々でうんうんと頷いている。




すると柳は武人に食って掛かった。




『俺がこんな奴に負ける訳ねーじゃねーか!』




武人が睨み付けると、柳は




『ま、負ける訳ないじゃないですか……』




と、小声で言い直した。



当初の目的である武人と勝負をする気は完全に失っているようである。




『お前も初めて来たときの大場と一緒で忍者をなめてるみたいだから……』




武人が柳に向かってそう言うと、




『いや、武人さん、そのことはもう……』





と、大場が冷や汗をかいているが、武人は続ける。




『……この数ヵ月で大場がどれだけ強くなったか身をもって知れ!』






それを聞いた大場は、興奮しているようなのでヤル気満々だが、大場の仲間の中井が心配顔で武人に声をかけた。






『あの……武人さん。大場はホントに1度も柳に勝ったことないんですが……』





『心配するな。あれだけ真剣に忍者教室に取り組んでたんだ。相当強くなってるのは動きで分かる。』




武人はそう言っ中井の肩を叩く。そして柳に向かい合うと、





『お前は忍者をなめてるみたいだから、ここで対戦してみるか?』





と言って、アスレチックフィールドのように入り組んだ稽古場を指差した。




柳は『え?……』となんとも言えない表情を見せる。





『総合格闘技ってのは、ルールなしでも強いんだろ?しかも相手は忍者じゃなくてお前が見下してる大場だ。やらないとは言わないよな?』





『お、おお……』





柳は渋々と承諾した。





柳の了解を得ると、武人は飛燕の所へ行く。




『どうだ?この条件は?』




『大場殿にとっては、いささか容易かと。』




『そうか。なら、大場には条件を出そう。』




武人はそう言うと、大場に、





『相手は全力で向かってくるだろうが、お前は相手に怪我をさせるな。気絶させるか、戦意喪失させればいい。』




『え?でも、そんな余裕は……』




大場は少し不安な顔を見せた。





『大丈夫だ。自信を持て。飛燕が楽勝で勝てると言ってる。』





『そうですか!』





段々と大場の顔色が上気してきた。





後方で成り行きを見守っていた野次馬達には、ここでのやり取りは聞こえていない。




ただ、面白そうな何かが始まると、固唾を飲んで見守っている。





飛燕は両者をそれぞれ跳び箱を側面から見た反対側で向かい合わせた。





障害物として跳び箱を使ってはいるが、競技ではないので、踏み切り板は設置していない。





アスレチックフィールドのように入り組んだ空間のほぼ中心にある150センチ程の高さの跳び箱。




それを挟んで両者が対峙したとき、野次馬と柳の仲間はざわつき出した。






『え?まさかあそこで?』



『格闘技対決じゃないのかよ。』



『まー、確かに実践じゃ何もないとこで戦うことなんて無いからな。』




ざわつきながらも、みんな前のめりになっている。





飛燕は跳び箱の上に飛び乗ると、高い位置から両者を見渡し、武人に視線を送った後に、『始め!』と言って、飛び退いた。





号令がかかった途端、大場はしゃがみ込んで柳の視界から消えた。





跳び箱の高さは150センチあるので、忍者ならともかく、助走なしで飛び越えるのは困難だ。




柳は左側から回り込んだが、そこに大場はいない。



どこに行ったと回りを見渡すと、平均台が跳ね上がってきた。



慌てて避けた柳の後ろに回り込んだ大場は、首に腕を回し、立ったまま閉め技に入る。




大場の動きに柳は驚いたものの、背後からの閉め技に対する防御法は心得ているので、咄嗟に左腕を首との間に差し込んでいたが、大場は後ろから膝を使って柳の膝を突くと同時に背後に体重をかける。




いわゆる膝カックンの状態で

、さらに後ろに引き倒された形にはなったが、柳は閉め技の防御をしているので、倒れた後でも抜け出せるとたかをくくっていた。





二人揃って倒れ込んだ後、大場が立ち上がって右腕を突き上げた。




柳は立ち上がってこない。





『勝者、大場殿!』






飛燕が勝ち名乗りを上げても、しばらく会場は静まり返っていた。






やがて、我に返った観客達から歓声が上がる。




柳の取り巻きは、慌てて柳に駆け寄るが、柳は完全に気を失っていた。





『なんで……』




『防御してたのに……』






飛燕が柳の後ろに回り込んで活を入れる。






『……う~ん……』






目を覚ました柳は状況を飲み込めていない。




『柳さん!』



『大丈夫ですか?』





回りから声をかけられ、自分が倒れていたことに気付いた柳は、大場を見上げた。




『なんで?……』





大場は軽く笑うと、大場の勝利に駆けつけていた田之浦の肩を組み、『俺もこいつに同じ技で負けたんだ。』と、嬉しそうに言った。




大場が負けたときは、田之浦が突くべき急所に墨で印が付けられていたが、大場は忍者教室に真剣に取り組んでいたため、急所の場所や突くタイミングなども完全に把握していたのだ。





『忍術ってスゲーだろ?』




田之浦と肩を組みながら楽しそうにそう言って笑う大場を見ながら、柳は『参ったな……』と言ってから顔を上げると清々しく笑って、『俺も仲間に入れてくれないかな……』と言った。





大場は『勿論。』と言ってから武人を振り返り『いいですよね?』と聞いた。




『ああ、今のお前達を見てたら、反対する理由はない。』




武人もそう言ってから一緒に笑った。





『柳さん、総合格闘部はどうするんですか?』




近くに来ていた柳の後輩が聞いた。





『勿論続ける。だが、忍術ってのは俺達にとってもプラスになるはずだ。』



『だけど……』



『俺が今日大場に負けたのは、ここだからじゃない。俺達のリングで戦っても俺は負けてただろう。お前達だって、大場の動きが前とは全然違うのに気付いただろう?』



『ま、まぁ……』




後輩たちはバツの悪そうな顔をしている。




柳の尻馬にのって、先輩である大場のことを蔑み、バカにした態度を取っていたので、柳が大場と和解すると困るのだ。




そんな彼らの表情を察した大場が口を開いた。





『俺は別に気にしてないぞ。前はぶっ殺してやると思ってたけど、俺もここに入って変わったんだ。』



『俺も。俺も前はぶっ殺してやると思ってたけど、今は気にしないぞ。』



中井がそう言うと、『俺も。』『俺も。』と、大場と一緒に忍者研究会に入部していた後輩たちが追随した。



彼らは柳の後輩である中井達と同年であり、元総合格闘部のメンバーなので柳の後輩でもある。




『お前ら、勘弁してくれよ。』



中井達はそう言って苦笑した。




『じゃあ、お前らも一緒に入部でいいか?』





武人が聞くと、中井達は揃って立ち上がり、『お願いします!』と頭を下げた。





武人は近くで見守っていた飛燕に、『そういうことだから、頼むな。』と声をかけた。





飛燕はマスクを外すと、





『拙者は飛燕と申す。以後お見知りおきを。』




と、忍者らしからぬ西洋人の貴族のようなポーズで挨拶した。




そのポーズを見ていた田之浦たちが拍手をして喜んでいる。




『またあいつら、飛燕に余計なこと教えたな。』





と、武人は呟いた。





田之浦達オタク三人組は大場達と仲良くしているが、そこに飛燕も加わっているらしかった。




飛燕がマスクを外して挨拶した後、顔を上げると、野次馬たちの中からどよめきが起こった。



どよめいたのは女性たちである。





『私も入部します!』





一人が声を上げると、『私も。』『あ、ズルい。私も!』と、次から次へと手が上がった。




すると、騒動が起こる前から観覧していた『フライングスワロー』のメンバーからも手が上がる。手を上げたのはファンクラブには入っているが、忍者研究会には入っていないメンバーだ。




『私の方がずっと前から飛燕さん応援してんだからね!』



『後から来て先に入部するなんてズルい。』





そんな様子を見て呆気に取られていた武人は、飛燕と目が合うと、





『お前、モテモテだな。』





と言った。





照れ臭そうに『恐縮です。』と言った飛燕は顔をほころばせた。




事務所で入部手続きをしているとき、顧問の安田がやって来て、人の多さに目を白黒させていた。



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