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振り向いて窓の外を見ると、反対側の歩道で店の看板等をなぎ倒しながら暴走する一台の乗用車がいた。
そしてその先には恐怖で固まってしまっている小さな女の子がいる。
『危ない!』
店内のあちこちから悲鳴に似た声が上がる。
轢かれる!
と誰もが身構えた時、黄色い何かが暴走する車の前を横切り、女の子をさらっていった。
暴走する車はそのまま電柱に突っ込み、大破して止まった。
『源太?』
さっきまで隣に座っていた源太がいない。
武人は、百合を店に残して外に出ると、事故現場に駆け寄った。
大破した車の中では40代位の男性が泡を吹いて気を失っていた。
車からはモクモクと煙が上がる。
回りからも人が集まってきて、車の男性を救出しようとするが、ドアまで歪んでいて開かない。
武人はキョロキョロと回りを見渡すと、建物の陰で泣きじゃくる女の子の頭を優しく撫でながら、『もう大丈夫だからね。』と声をかけている源太を見付けた。
『源太!』
『はっ!』
つむじ風のようにやって来た源太に、
『この人出せるか?』
と聞くと、源太は『はっ!』と返事をしたあと、ドアに手をかけ、足でボディを押しながら、メリメリとドアを剥がしていく。
やがてドアを剥ぎ取ると、今度は挟まっている足を抜くために、ハンドル部分を上に引き上げてから、またメリメリと壊していく。
そして余裕が出来るとイスのリクライニングを無理矢理後ろに倒してから男性を引き抜いた。
源太はその男性を車から離れた所まで担いで行くと、建物の陰に寝かせた。
すると、回りの店からも人が出てきて、店に備え付けてあるAEDを使って救命措置を始めた。
そうこうするうちに車からは火の手が上がり、完全に炎に包まれてしまった。
到着した消防車が消火活動を始め、救急隊員が源太の救出した事故車の男性を救急車に乗せる。
暴走する車を避けようとして転び、軽傷を追った人は何人かいたが、大きな怪我人は他にはいなかった。
騒然とする現場にはいつの間にか報道関係のカメラも入っていた。
事故車や、車が暴走した歩道などを映したり、回りにいる野次馬に話を聞いたりしていた。
そのうちの一人のリポーターが小さな女の子から話を聞いている。
『あのお兄ちゃんが助けてくれたの。』
そう言う女の子が指差す先を見ると……
何やら黄色い忍者がいる。
リポーターは、ネタだ!とばかりに源太に駆け寄る。
回りでその様子に気付いた他のリポーター達も源太の姿に気付くと、こぞって駆け寄ってきた。
『あなたがあの女の子助けたって本当ですか?』
『その格好は何ですか?』
『コスプレイヤーさんですか?』
『挟まっていた事故車の運転手を救出したのもあなただって聞きましたが……』
源太は向けられるマイクに圧倒されて『いや……あの……』と後ずさる。
すると、いつの間にやって来たのか康人がリポーターと源太の間に入ってきた。
『彼の衣装や活動に関しては、マネージャー兼派遣部隊月光の社長である私に聞いて下さい。』
『何ですか?あなたは?』
『私はこの人に話を聞いているんですよ。』
『邪魔しないで下さい。』
と、けんもほろろだ。
『源太!撤収!』
『はっ!』
次の瞬間、風のように源太は消えた。
『あれ?』
『どこ行った?』
『消えた?』
キョロキョロしているリポーターに、
『お前らには今後一切取材はさせん!』
と、言い残して康人はその場を離れた。
傍らでその様子を見ていた武人は、康人の後を追った。
『いいのか?おやじ。』
『なぁに。次からはちゃんと俺を通して話を聞くだろ。そうじゃないと二度と取材が出来ないと思うだろうからな。プロローグとしては上出来だ。』
おやじ。本気で売り出すつもりだな。
武人は確信した。
……あれ?
百合がカレーショップの窓越しに外の成り行きを見守っていると、いつの間にか目の前で源太が残りのカレーにパクついていた。
百合が目を丸くしてそんな源太を見つめていると、武人が戻ってきた。
『源太、さっきもそうだけど、いつの間に着替えたんだ?』
『変わり身の術ですよ。武人さん。』
そう言いながら、源太は残りのカレーを平らげた。
『変わり身の術って、手裏剣とかかわすのに、木と入れ替わったりするやつじゃないのか?』
『それは移り身の術との複合技ですね。』
『それは、みんな出来るのか?』
『はい。初歩の忍法なので。』
『忍法なのに術なのか?』
『忍法も忍術も技の名称は術で統一されてます。あ、理由は聞かないで下さい。僕も分かりませんから。』
源太はそう言うと、屈託のない笑顔を見せた。
『こんな変身みたいなこと出来るんじゃ、ヒーローオタクの親父が活躍しろって言うわけだ。』
武人はそう言って苦笑いした。
『あら、いいじゃない。みんな折角修行してたのに、活躍の場がないって思ってたんでしょ?』
百合に話を振られた源太は、
『はい。特に勘介さんはこっちに来る前は口癖のように言ってました。』
と言ってからグラスの水を飲んで一息ついた。
『源太さんだって活躍できたら嬉しいでしょ?』
『はい。力を使った後のカレーは格別ですから。』
『もっと食べる?』
『いただきます!』
なんとなくズレたやり取りをしている二人を見ながら、不安を感じる武人だった。
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