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『お待たせいたした。』
幻魔達が戻ると、大場は律儀に準備運動をしていた。
だが、その表情には鬼気迫るものがあった。
幻魔に割って入られた時は、呆気に取られ、流れで準備運動を始めていたが、運動しながら先程の流れを考えていると……
『一番弱いやつ?……』
『あんなチビと俺が?……』
『てか、あのコスプレ忍者野郎はなんだ?』
『なんか、段々ムカついて来たぞ!』
と、ムカムカが、高まってきた頃、幻魔達が戻ってきたのだ。
『テメー、いつまで待たせんだ!コラ!』
『ひっ!』
鬼気迫る大場に、大袈裟だと思えるほどのリアクションで後ずさりした田之浦だったが、それを目にした武人は、『おや?』と思った。
田之浦は怯えている。明らかに怯えているが、なんとなく違和感を感じた。
『なんだろう?』
そんなことを考えているうちに、畳を敷いた特設試合場で両者が対峙し、幻魔がレフェリーよろしく仕切っていた。
『ここには格闘用グラブもないので、顔面への攻撃はなし。勝負はどちらかが戦意喪失するか意識を失った時点で決する。』
『そ、そんな……』
と言いながら、田之浦はアワアワしていたが、武人にはそれすら演技っぽく感じられた。
『よろしいか?』
『おう!これに勝ったら次はテメーだ!』
と、幻魔に対するムカムカも如実に表した大場は、腕をグルグル回しながら、試合場の端まで戻った。
反対側の端に戻った田之浦は目を合わさないように畳を見ながらオドオドしている。
そんな様子を目にした大場は、自分が負けるなどとは全く思ってもいない。
先程までは怒りに身を任せていたが、こんなやつを相手に本気になったら情けないという思いもよぎっていた。
そんな時、『始め!』と言う声がかかった。
その瞬間、『わ~~~っ!』
というヤケクソ気味の声を出して、の○太よろしく両手をグルグル回しながら、田之浦が突進していった。
完全に舐めている大場は、『なんだこいつ』と思いながら余裕で見ていると、田之浦は大場を巻き込んで派手に転んだ。
『何やってんだ、あいつ。』
『そんなやつ早くぶっ倒して下さいよ。』
『大場さん油断しすぎですよ。』
等と言う声が上がるなか、大場が『てめえ!』と言って立ち上がろうとした瞬間、大場は白目を向いて倒れた。
田之浦はゆっくりと立ち上がると、両手を上げた。
『勝者、田之浦殿!』
何が起こったのか分からず、ポカンとしていた大場の取り巻き達は、ハッと我に返ると、
『てめえ!何しやがった!』
『俺達が相手だ!』
と、なだれ込むように試合場に入ってきた。
その瞬間、回りにいた忍者達がさっと風のように動くと、大場の取り巻きは全員が倒れて気を失っていた。
『田之浦君すごーい!』
『何やったの?』
と、照れて頭をかく田之浦を取り巻く女子部員達も、先程田之浦が腕をグルグル回しながら突進した時は、
『何やってんのよ、恥ずかしい。』
『の○太か!』
等と言っていたのに、現金なものである。
武人と忍者達は、それぞれ倒れている男達の後ろにまわると、活を入れていった。
『う~~ん……』
と、目を覚ました大場から離れるとき、武人は大場の服の一部に黒い点が着いていることに気付いた。
『?』
目を覚ました大場は、頭を振った後ゆっくりと回りを見渡して、仲間達も同じように倒れていたのを確認した。
そんな大場の前にきた幻魔が
『これでも忍術は無駄でござるか?』
と聞くと、大場はプルプルと頭を振った。
一時間後。
折角敷いた畳を使い、後半の忍者教室は体術の講義に移っていたが、武人は幻魔を呼んで、先程の顛末を聞いていた。
幻魔の説明はこうだった。
まず試合の前に催眠術で田之浦から恐怖を取り除き、自信を与えた。
勿論、それだけで大場に勝てる訳もなく、自信を持たせた上で、表面上は怯えて見せる。
そして、転んだふりをして油断した相手に密着すること。
その上で、確実に急所を突き気絶させる事を決めた。
これまでの忍者教室で急所とツボは表裏一体であり、突き方によっては気絶させることも可能であるとは習っていたが、正確にその急所を把握することは難しい。
そこで、佐助の出番だ。
大場を倒したタイミングで突くべく急所に、潜伏していた佐助が吹き矢の墨で印をつけるという作戦だったらしい。
『なるほど。あれがその目印か。』
武人は先程見た大場の服の黒い点を思い出した。
『全く、忍者ってのは……』
とあきれながら事務所に入ると、
『武人さん、これでいいですか?』
と、大場達が入部届けを持ってきた。
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