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派遣の忍者『月光』  作者: ヒロっぴ
15/35

≪忍者教室≫

 

       ≪忍者研究会≫




        ー1ー





『大学で忍者ショー?』




康人から次の依頼を聞いた武人は、心なしか裏返った声で聞いた。そして自ら納得したように、『ああ、大学付属の幼稚園とかか』と言った。





『いや、相手は大学生だ。』



『は?』



『だから、大学生だ。』





納得出来なさそうな武人を前に、業を煮やした康人は依頼書を取り出して読み上げた。





『依頼主、日輪大学忍者研究会。

依頼内容、新入学生に対するサークル勧誘に基づくショー及び、説明会の補助、それに付随する忍術の披露。』




『忍者研究会?そんなもんがあるのか。』




『お前が在学中にもあったようだが、同好会としてかなり細々とやっていたみたいだな。』





依頼もとの大学は武人の母校であり、代々山之内流の剣術部もある関係上繋がりも深い。




『今年入った教授が新しく顧問になったらしいんだが、これが忍者オタクでな。

お披露目式に来ていて、名刺を貰っていたんだ。

忍者ショーには大変感銘を受けたと言っていた。』




康人はそう言って腕組みをすると胸を張った。




『それで?』





『その教授が、本物の忍者に会えるなんて夢のようだ、と言って目をウルウルさせながら俺の手を握るんだ。』




『まさか、タイムスリップしてきたって言ったのか!』




『それは当初の予定通り、山奥でひっそり暮らしてたのを発見したと言ってある。』




『それだけでもニュースだろ。大丈夫なのか?』





『ニュースくらいにはなってもらわなきゃ困る。かといって本当のことがバレたら騒ぎになり過ぎる。バランスが重要だ。』





康人の言うとおり、お披露目式ではニュースにはなったが、都市伝説的な扱いで、そこそこ知名度は上げたものの、騒ぎになるほどではなかった。


現在の勘介達の順応ぶりを見れば、人前で忍者っぽい話し方をしていても、かえって演技っぽく移り、半信半疑の印象を拭えない。

それこそが本物の忍者の凄さであり、康人の狙いでもあるのだ。



当然、教授は忍者オタクだから信じている。

しかし、そんな教授がいくら『彼らは本物だ』と発信しても、回りが必要以上に盛り上がることはなかった。




こういうところは康人の読みが当たっていると認めざるを得ない。


普段のとぼけた父親を軽くあしらいながらも、武人が一目置いている所以である。




『でも、忍者全員揃ってのショーとなると、同好会でまかなえる金額じゃすまないだろ。』




と、武人が余計な心配をする。





康人は意味深な笑いを浮かべると『それがな』と言った。




『財閥の出身で、無理に働く必要はないらしいんだが、教授をやっているのは趣味みたいなもんだと言っていた。』




『いいご身分だな』




『規模は全く違うが、端から見たらうちだって似たようなもんだろう。代々続く山之内流の名家だ。』





『その名家も親父の代でつぶれそうになったけどな。』




武人にそう言われると、いかにも心外だと言う表情で康人は反論した。





『斉蔵が跡を継いだからつぶれずにすんだろ。


奴の方がはるかに剣術の才能があったんだから仕方ない。


それに、あいつには経営の手腕もあったからこそ、ここじゃ手狭になって新たに本部道場を作ったんじゃないか。』




『まぁ確かに結果としては良かったけどな。本部の特別稽古日以外は俺達が自由に使える訳だし。』





『そうだぞ。お陰で月光の拠点にも出来たんだから、感謝しろよ。』




康人がそう言って胸を張ると、




『いや、感謝するのは叔父さんにだろ』





武人はすかさず突っ込みを入れた。






『ところで、何の話だったか?』






康人にそう言われた武人は思わず天を見上げると、




『しっかりしてくれよ。次の依頼の話だろうが。』





と言った。






『おお、そうだった。

つまり、あれだ。今回はそれなりの売り上げになるってことだ。』




武人はなかば諦めたように首を振ると、





『それで、俺達は何を準備すればいい?』





と聞いた。






『ああ、忍者ショー自体はこないだのお披露目式と同じでいいとのことだが、それ以外に、忍者ならではの忍術を披露してほしいと言っていた。』





『忍術か…』






武人自体、この半年余りは彼らが現代に慣れることにばかり気を配っていたので、実際の彼らの忍術を見たこともない。初めて目にしたのが、先日の茜だった。






勘介が忍術の鍛練をしたいと言うので、武人がいないときに自由に道場を使わせてはいたが、そこでどんなことをしていたのかまでは把握していなかった。


色々な工具を注文されてはいたので、何かしら作ったりもしているとは思っていたが、手裏剣や足に着ける道具を目にしたことはあっても、詳しくは知らない。




忍者達があまりに早く現代に順応していったので、彼らが本物の忍者だとつい忘れてしまうほど普通に日常を過ごしていたのだ。





『とりあえず、何ができるか確認しとく。』





そういうのが関の山だった。







       ー2ー




 『忍術でござるか。』





翌日、武人は忍者達を道場に集め、どんな忍術を披露できるか聞いた。





『ああ、実際の忍者がどんなことをできるのか、いくつか披露して欲しいという依頼だ。』






『お頭、私は…』





と、茜が多少顔を赤くしながらモジモジしている。





『分かってる。茜ちゃんの術を見世物にするつもりはないから。』






と、武人は、冷や汗を書いた。






『お頭。』と、口を開いた平太が続ける。





『その忍術というのは、そのままの意味でござるか?』






『どういう意味だ?』






武人が尋ねると、勘介が口を開いた。






『お頭の言う忍術というのは、おそらく我々が使う技全てのことだと認識しておりますが、今平太が言ったのは、現代的に申しますと、物理的に可能な技ということでござろうか。』






『???』





武人はますます訳が分からないという顔をしている。






『つまりでござるな。我々の使う技は、忍術と忍法に別れておりまして、今申しましたように、忍術は物理的な体術や、薬品、爆薬などを使ったものでござる。』





武人はウンウンと頷いている。






『それに対して忍法は、現代的に申しますと超能力というものに分類されるものだと思いまする。』






『超能力?』






『つまり、こういうことでござる。』





そう言った途端、勘介の体が床下に消えていった。





『うわっ!』





武人が驚いて声を上げると、後ろから肩を叩かれた。




振り向くと勘介が笑顔で立っていた。






『みんな出来るのか?』




武人がそう言った瞬間、勘介以外の全ての忍者が床下に消えていった。



勘介はそれを見届けると、驚いている武人のほうに向き直る。




『今は2つの忍法を使ったでござる。』




『2つ?』




『現代風にいうと、テレポーテーションというでござるか。それをお見せしろとテレパシーで全員に伝えたでござるよ。』




『じゃあ、また床下から出てこれるのか?』




『お安いご用でござるよ。』






勘介がそう言うと、道場中の床下からニョキニョキと忍者が生えてきた。




『気持ち悪っ!』 





武人がオーバーに飛び退くと、





『いや、せっかく披露したのに、それはないでござるよ。』





勘介は苦笑いした。




『この事は親父も知っているのか?』




『いえ、あえて披露するような事でもござらんし、そのような機会も無かったので。』




『そうか…』





武人はしばらく考えていたが、




『やっぱり親父には言っとかないと後々面倒だからな。』





と言って、事務所へ行き、康人に伝えたが、すぐに後悔することになる。





『なんだと!』






興奮した様子で道場に入ってきた康人は、次から次へと様々な忍法を披露させた。




分身の術やこの葉隠れなど、現代にも伝わっている名の知れた技を含め、『あとは何ができる?』『他には何が出来る?』と休む間もなく忍法を披露させると、やがて忍者達の技に失敗が目立つようになってきた。






『どうした?勘介。』





康人にそう聞かれた勘介は、





『法力には限りがございますので、使いきってしまっては、しばらく使えなくなるでござる。』




『それならそうと早く言ってくれよ。』




『申し訳ござらん。』





それを聞いた武人が、





『いや、言う暇もなく親父がやらせるからだろ。』





と、突っ込みを入れると、康人は『だって、見たくなるだろ。』と言った後、目をキラキラさせて勘介に詰め寄った。





『で?修行すれば俺にも使えるようになるのか?』





ワクワクしている康人を尻目に、勘介は、




『申し訳ござらん。忍法は一族にしか使えないでござるよ。』






と言った。その時の康人の落ち込みっぷりは、武人でも気の毒に思えるほどだった。





『どうしてだ?』





消え入りそうな康人を尻目に武人が聞くと、勘介は『我々にもわかり申さん。』




と言ってから、しゃがみこんでいる康人に近付くと、




『殿、忍術ならば、鍛練すれば習得出来るでござるよ。』





と言った。



康人は『忍法がいい…』と、子供のように駄々をこねた。





そんな康人を無視して、武人は忍法について詳しく尋ねた。


勘介の話によると、忍法は一族でも血の繋がりがないと使えない事、使えたとしても、やはり得手不得手があること等が分かった。



武人はしばらく考えた後、今度の依頼では忍術は披露するが、忍法は披露しないことを決め、康人にも了承を得た。




それでも康人は『俺も忍法使いたい…』と、ぶつぶつ言っていたが…








 依頼日当日、武人と勘介以下11人の忍者達は、日輪大学の武道場に集まっていた。


本来であれば、『忍者研究会』なる怪しげでマイナーな部活が武道場を使える訳もないのだが、武人から話を聞いた叔父の斉蔵が、山之内流の権威を使って話を付けてくれたのだ。


それに、斉蔵ほどの才能は無くとも、武人も康人も山之内流剣術の師範でもあり、たま~にではあるが大学の剣術部にも顔を出している。



そして武人は、実践カラテ部の伝説的OBでもあるから、各方面に顔も利くのである。






忍者ショーと説明会は午後1時から始めることになっており、折り畳み椅子が並べられた武道場には、ぼちぼち人が集まり始めていた。




会場では研究会のメンバー9人が、案内をしながら、顔を紅潮させて熱心に忍者について語っていた。





.



 一時間前。



『本物の忍者に会えるなんて光栄です!』





武道場に到着した忍者達一行を、部員達はまるでアイドルを見るような目で迎えた。




『本物の忍者ってホントですか?』


『私服は普通なんですね。』


『でも、やっぱり目付きが本物っぽい。』


『くのいち最高~!』




興奮ぎみに詰め寄って忍者達をわやくちゃにしている部員達を、何やら暖かい目で見ていた顧問の安田は、



『さぁさぁ、そろそろ準備をしないと間に合わなくなるから、それくらいで。』




と言って、落ち着いた風を装っていた。




しかし、武人は知っている。


お披露目式の時に誰よりも興奮して忍者達に詰め寄り、様々な質問をぶつけながら、自身の忍者愛を語っていたことを。


今も平静を装ってはいるが、誰よりも今日の忍者ショーを楽しみにしていて、今にも叫び出したい衝動を押さえているのを横目で見ながら、武人は『やはりこの人に忍法を見せたらダメだな』と思った。






カラフルな制服(?)に着替えた忍者達が控え室に入ってくると、安田は




『おお、やはりコレはコレでいいですな。』




と言ってご満悦だ。




『ショーのあとは、ちゃんと着替えさせますので。』





武人がそう言うと、安田は、





『頼みます。コレだとコスプレみたいで本物感が弱いので。』





と言って軽く頭を下げた。






この依頼を受けた後、安田からは今言った理由により、カラフルな制服ではなく、普通に黒の忍者服でという注文が入っていた。



しかし康人は自分がプロデュースした制服じゃないと受けないと駄々をこね、武人の提案により、ショーは制服でやり、その後通常の忍者服に着替えるということで、なんとかまとまった。





『結婚式じゃあるまいし、お色直しかよ。』





と、武人も文句を言いたかったが、制服の色はともかく、その機能性は忍者達も気に入っているようだった。


百合がデザインした制服は、パーカータイプのツナギになっている。

茜の場合はレオタードタイプにミニスカート風のフリルが着いており、ピンクの網タイツもセットだ。

そして共通して顔を覆う部分は単独で、耳にかける通常のマスクタイプになっている。

その上からツナギのフードを被り、飾りの紐部分をいくつか結ぶと、外見上は我々がイメージする忍者服なのだが、動きやすいように要所要所がギャザー仕様になっていたり、通気性が良かったりと、色以外は完璧だった。




もっとも、康人は色も含めて完璧だと言って百合をべた褒めしていたのだが。





 一部の忍者好きと思われる参加者と、部員だけが異様に盛り上がった忍者ショーが終わり、説明会に移行すると参加者はかなり減った。

冷やかしも含めて200人近くはいたのだが、入部説明会に移行するとほとんどが『面白かったねー。』と言いながらも帰っていった。



それでも50人近くは残っていたから、集まった方だろう。



説明会が始まり、ショーを終えた忍者達が着替えて出てくると、『おお!』とどよめきが起こった。




今忍者達が着ているのは、タイムスリップしてきた時に着ていた服。つまりは本物の忍者服である。



現代でいかに似せて作ろうとも、本物の質感や使い古された感じは表現できないだろう。


理屈ではなく、見た瞬間『本物だ』と感じる何かがあった。





初めて見た顧問の安田は、感激のあまり涙を流していた。しかし…





『あれ?』





そんな安田の声を皮切りに、参加者の視線が一斉に向いたのは茜だった。




『なんか違くね?』



『お姉さんミニスカートじゃないの?』


『網タイツは?』





そんな風に詰め寄られた茜は、『な、な…』と困った顔で武人を見た。





『教授まで何ですか!実際のくのいちがそんなカッコの訳ないでしょう!』





『あ、いや、分かってはいたんだが、あまりにもセクシーくのいちのイメージが強くて…』




と頭を掻いている。


とはいえ、武人も初めて会ったときに実際の茜を見るまでは、セクシーくのいちのイメージを抱いていたし、月光の制服も実際セクシータイプなのだから仕方ない。




説明会では、実際のくのいちがミニスカートや網タイツみたいな服装では任務に支障があることから説明しなくてはならなかった。







説明会では、山奥で暮らしていた時の話や都会に出てきた経緯等については極秘事項ということで伏せられ、それ以外の忍者に対する質問に答えながら、部員達が活動内容を説明する形で進んでいった。




活動内容といっても、今までは忍者好きが集まり、ただ単にレクリエーションや飲み会等をするだけだったので、具体的な内容は無いに等しい。



詳しい活動内容を聞かれても困るのだが、一番部員達を困らせた質問は次のようなものだった。




『この人達(忍者)と一緒にどんなレクリエーションするんですか?』


『忍者さん達はいつもいるんですよね?』





そんな質問を受けた部員達は言い淀み、『先生…』と顧問の安田に助けを求めた。



ほとんどの参加者は、部活に来れば忍者がいると思っているのだ。




『もちろんいますよ。』






安田がそう断言するのを隣で聞いていた武人が『ちょっと先生…』と慌てると、安田は武人の手を引いて参加者から離れると、小声で『頼む。忍者がいないと誰も参加しなさそうなんだ。』と言った。




『だけど…』



『料金は言い値で払うから。』





武人が電話で康人に確認を取ると、康人は二つ返事でOKをした。




その事を伝えると安田は、





『皆さん、安心してください。忍者達は、毎日います。

そうだ。せっかくだから忍者教室をやってもらいましょう。』





と、勝手なことを言い出した。





『やった!茜ちゃんがいるなら、入ります!』




『ぼくも!』





と、男性参加者に囲まれた茜は困った顔で後ずさりした。






そして、同じように女性参加者が囲んだのは飛燕だった。


もちろん、女性参加者の全員が飛燕の元に集まったわけではないのだが、圧倒的に人数が多かった。




『私も飛燕さんに忍術教えてもらいたい!』


『素敵ですよね。』


『彼女いるんですか?』




と、矢継ぎ早に質問を浴びせられ、普段クールな飛燕も後ずさりした。



しかし、その顔には驚きと同時に喜びも入り交じっていた。


そんな飛燕を見つめる他の忍者達の表情にも驚きの色が浮かんでいた。






説明会が終わり、参加者が帰ると、飛燕の元に他の忍者達が集まった。




『飛燕、良かったな、』


『お主、女人にモテたのは初めてではないか?』


『アイドルのようでござるな!』




と、現代語の入り交じったおかしな称賛の声を浴びた飛燕は、





『拙者も驚いているでござるよ。』





と、照れながらもまんざらではない様子だ。






『え?飛燕てモテないの?』




誰が見ても美少年で間違いなくモテるだろうと思っていた武人は、素朴な疑問を勘介にぶつけた。




『拙者も殿方以外にモテる飛燕は初めて見たでござる。』



『あんなにモテそうなのに?』



『小姓に召し抱えたいという話は何度か出たでござるがな。

いや、この時代に来てから飛燕と外を歩くと女人が振り返るのはそういうことでござったか。』





勘介は一人で納得している。





勘介の話によると、飛燕は中性っぽい顔が敬遠されて、当時の女性にはモテなかったらしい。

敬遠されていたというより、自分よりも美しい姿に嫉妬されていたという方がいいかもしれない。


その容姿から権力者から小姓にという話が出ても、飛燕は脱ぐとかなり筋肉質なので、当時の男色家から声がかかっても、実際に小姓になるようなこともなかった。




里にいる頃には、忍者の任務上の研修として、村人や町人に交じって生活することもあったが、あまり女性と親しくしているのを見たことがないという。





そんな飛燕に対して、他の忍者達は同情的な視線を向けていたらしく、その飛燕が女性に人気で、回りの忍者達も自分の事のように嬉しいのだ。







 その後、後片付けをしていると、契約内容を詰める為に康人がやって来た。



『殿!』と忍者違が片ひざついて迎える中、『苦しゅうない。』と言いながら入ってきた康人は、顧問の安田と一緒に控え室に行くと、商談に入った。



その結果、月曜から金曜までの週5日、毎日最低一人以上は派遣して忍者教室を開催するということと、茜と飛燕は少なくとも週に一回は派遣することで話がついた。



ただ、先ほどオタクっぽい参加者に囲まれた茜が、一人では嫌だと言い出したので、茜が行くときは必ず誰かが同行することになった。




.




       ≪忍者教室≫




         ー1ー






 『今日は初日なので、皆さんに来ていただきました。』





忍者教室初日。勢揃いした色とりどりの忍者達を、顧問の安田が改めて紹介した。



茜の衣装が決め手となり、忍者教室は【月光】の制服で行われることになったのだ。



そのカラフルな忍者達の前には、新入部員36人を含め、総勢45人の部員達がジャージ姿で集まっていた。


忍者研究会始まって以来の大人数である。



その内の半数は、茜や飛燕などの忍者達を目当てに入部していた。





先日の契約の後で、康人が初日はサービスで全員派遣すると言うと、顧問の安田は料金を払うと言って譲らなかった。


康人としては今後のために恩を売りたいという思惑もあったのだが、安田は頑として受け付けなかった。


どうやら、安田は金の使い道に困るほどの資産家らしく、どうしても支払いたいというのだ。もちろん領収書は必須である。



なんとも羨ましい限りだが、資産はあったらあったで、悩みの種もあるらしい。




その事が分かった康人は、小躍りして喜んだ。



他の依頼がないときは、余った忍者を派遣すれば、人数分は全て払うというのだから、大変なスポンサーである。




流石に康人も事務所でのんびりしている訳にもいかず、サービスのつもりか殿様スタイルで駆け付けていた。





康人がその姿で武道場に入ってきたときは、新入部員も含めた全ての部員達が面食らっていたが、康人が『ぽん!』と手を叩くと、どこからともなく忍者達が現れ、康人の前に片ひざついて集合したので、『おお!』と感嘆の声をあげ、その殿様姿に妙に納得していた。





顧問の安田が新生忍者研究会の挨拶をし、忍者に続いて康人を【殿】、武人を【お頭】として紹介した。





今日は初日ということもあり、忍者服のデザイナーも紹介したいという康人の希望で、百合も来ていた。






『そして、この素晴らしい忍者服をデザインしたのは…』




と、安田は明らかに茜を指差した後、その手を百合に向けると、






『野原百合さんです!』





と言った。





一部の部員から熱烈な拍手が起こった。






『ブラボー!』



『ありがとうございます!』



『感謝します!』




前のめりになって大袈裟な感謝を口にする彼らを見て、百合は以前見たアイドルオタク達の密着番組を思い出した。




『ど、どうもありがとう。』




百合がそう言ってニッコリ微笑むと、彼らは一層近付き、



『ぼ、僕田中と言います。』


『僕は田之浦です。』


『せ、拙者は佐々木と申す。ゆ、百合さんは、あの服着ないんですか?』




と、次々と握手を求めてきた。





『あ、はい。』


『はい、どうも。』


『せ、拙者?……いや、私、忍者じゃないし…』




百合はどんどん前進してくる彼らと握手しながらも、苦笑いしてあとずさって行った。





 顧問の安田は、忍者教室開催の挨拶と希望者には忍者服の注文を受け付ける旨を告げると、隣の武人に目配せした。




武人はそれを受けると、『それでは忍者教室を開催致します。』と宣言した。




初日の忍者教室は、ふたてに別れて行われた。



片方は、クナイと十字手裏剣を使った投げ技。


もうひとつは水を張ったビニールプールに板を浮かべ、水面を走るという高度なもの。


忍者達は小さな板の上をこともなく走り抜けて行くので、まるで水面を走っているように見えるし、実際に彼らは忍法を使えば、何もない水面を走ることも出来る。


限りある法力を使う忍法に対して、補助的な役割の忍術になるわけだが、両方使えて初めて一人前と言われるのだ。



とはいえ、普通の人間は忍法を使えないどころか、水面に浮かべた板の上に乗ることさえ出来ないので、水面ギリギリに固定された平均台のような橋の上を歩く事と、水面に浮かべた大きな板の上でバランスを取ることから始まった。


百合がデザインした忍者服は、水を吸わない素材で出来ているので、この練習にも適しているが、まだ発注段階なので、出来上がるまでは水着対応となった。


何を期待したのか、茜と百合に詰め寄った例の三人組は揃ってこちら側に参加したのだが、残念なことに茜は投げ技の方の講師をしていた。




飛燕がこちらにいるので、水着姿の女子も多かったが、視線を向けようものなら、一斉に睨まれていたので、彼らは小さくなっていた。




そんな彼らを哀れみの目で見ながら、武人も水面でのバランス取りに苦戦していた。



武人が師範も勤めるカラテ流派では、投げナイフやヌンチャクなど、多岐に渡り古流の武器等も使う為、投げ技はある程度使えるので、水面でバランスを取る訓練のほうが体幹を鍛えるためにも有効と判断して、こちら側に加わっていたのだ。



そんな武人をもってしても、水面に浮かべた板の上でバランスを取るというのは難しく、何度も水に落ちていた。





ちなみに、武人は予備で用意してあった忍者服を着ている。





『お頭は足元を見すぎでござるよ。』




『お、お、勘介か……』





声をかけられ、振り返った瞬間に武人は派手に水に落ちた。




『いや、これ、難しすぎるだろ。』





武人が水中に尻餅をついたままそう言うと、勘介はヒラリと一番小さい板の上に乗り、





『なるべく遠くを見るでござる。』





と、言った。





その、いかにも忍者というポーズをカッコいいなと思いながら、武人は





『いや、勘介、ここでは武人でいいから。』




『いや、しかし殿が……』





『俺から言っとく。

とにかく、一見のお客さんや、必要な時以外は殿は止めてくれ。……あとそのござる言葉もな。』





と言ってから、武人は勘介達が以前言っていたことを思いだし、





『まぁ、そのほうが話しやすいなら、それでもいいけど。

さっき、『ござる』とか言ってた学生もいたしな。キャラとして問題ないか……

ただ、仕事上必要な時は……わかるだろ?』





と言うと、勘介は大袈裟に敬礼をしながら、     





『了解っス!TPOに合わせて対応するっス!何しろバイリンガルっスから!』




『お前、ホントに忍者かよ。』





武人は苦笑いをしながら、もう一度水上の板に乗った。





『そうでござる。水の上にいるということは、意識からはずすでござる!』






勘介のアドバイス通りにしていると、元々体幹が鍛えられている武人は、全く水に落ちなくなった。





『さすがでござるな。我々でもしばらくかかるのに。』




『まぁ、一応カラテでは世界チャンピオンだしな。それなりに鍛えてるよ。』





武人がそう言ってバランスを崩すことなくカラテのポーズを取った。






『そうね。でも、そのカッコだと忍者にしか見えないわ。』







投げ技の練習風景を見ていた百合がやって来てそう言うと、武人はバランスを崩しかけた。




『あら、今度は落ちないのね。』




『見てたのか。』





『武人殿も百合殿には形無しでござるな。』





勘介はそう言って笑った。




 

.

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