其の六十三 噂
「大殿様は全く笑わぬお人らしいぞ」
「何か面白い話があっても笑わぬのか?」
「うむ。かと言って鬼のように怖いお人でもないらしい。義に厚く、威厳もあり、家臣たちからも信頼されておるそうじゃ」
「なるほど。そのようなお人ならば仕えて良かったと思えるのお」
「北東での戦も勝利が続いておるし、この大名家に仕えて正解じゃったな」
「そうじゃな。さて、そろそろ相手方の家に足を運ばねばならぬな」
「相手方?どういう事じゃ?」
「娘の婚姻相手じゃよ。上役の次男との婚姻について相談をせねばと思うてな」
「娘・・そうか、もう五年経ったのか。時の経つのは早いのお」
「うむ」
「確か上役の次男は昨年元服を済ませておったな。丁度良い頃合いじゃの」
「今回は嫁の承諾を得ておる故、すんなりと決まるじゃろうな。・・相手方がすんなりと承諾してくれればの話じゃが」
「何じゃ?上役が婚姻を承諾せぬ可能性があるというのか?」
「どうも悪い噂があちらに流れておるようでな」
「お主の娘の悪い噂など聞いた事も無いが・・」
「娘ではない、わしのじゃ」
「・・ああ・・」
「何じゃその合点がいったという顔は。言うておくがわしは何も悪い事はしておらぬぞ」
「で、悪い噂とはどういう類のものなのじゃ?」
「夜な夜な怪しげな言葉を発しながら何やら造っておったやら、山に行って不必要に多くの木を伐っておるやらといったものじゃ」
「・・お主、夜中も船造りをしておったのか?」
「当たり前じゃろう!でなければいつ完成するかわからぬではないか!」
「・・そうか。さらばじゃ!」
「待ってくれえええ!わしでは説明しても信用されぬ可能性があるのじゃあああ!共に上役に説明してくれえええ!」
「ええい、離せ!そこまで面倒見切れぬわあああああ!」




