其の六十 牽制
「猿とうつけの家臣団の間で争い事が起こっておるらしいのお」
「うむ。大殿様はその家臣団の一人を牽制する為、最前線の兵たちを敵領内に送り込む気でおるらしいぞ」
「そうか!ようやく戦に出られるのじゃな!」
「戦に出られるのは間違いないじゃろうが、牽制の為となると本格的な戦闘は起らぬと考えた方がよいぞ。相手が戦いを挑んでこぬ限りはこちらから手を出してはならぬのじゃからな」
「なるほど。まあしかし、戦に出られるだけでもわしらとしては喜ばしい限りじゃわい。以前までは戦にさえ出られず仕舞いじゃったからのお」
「そうじゃな」
「さて・・と、行ってくるか」
「どこへ行くのじゃ?」
「今日は嫁と娘が揃って出かけておってな。久しぶりに自分で好きな物を買いに行けるのじゃよ」
「・・明るい表情で語っておるが、内容は悲惨じゃなあ・・」
「おお、そうじゃ。一人で行くのも何じゃて、共に酒や肴を買いに行かぬか?」
「そうしたいのは山々じゃが、こちらに来て家具等を揃えるのに金を使ってしもうてな。残念じゃが給金が出るまではそのような余裕は持てぬ」
「そうか、ならば仕方ないのお」
「お主の所は余裕があるようじゃが、何か良い儲け話でもあったのか?」
「いや、あの土地を出る前に家にある多くの着物を売ったのじゃ。その金のお陰で余裕を持って生活ができておる」
「なるほど」
「お陰で新たな屋敷での生活は清々しいの一言じゃわい。以前は足の踏み場にも苦労したからのお」
「・・足の踏み場の無い程の着物の数・・恐ろしい事よ・・」
「何か言うたか?」
「いや・・何も・・」




