其の五十七 北国
「まさかあのうつけが謀反を起こされて討ち取られてしまうとはのお」
「うむ。世の中何が起こるかわからぬな」
「そのお陰でわしらの手柄を挙げる機会が無くなってしもうたわい」
「いやいや、それはわからぬぞ」
「何故じゃ?」
「天下に一番近いとされたうつけがいなくなるという事は誰しもが天下を狙える状況になったという事じゃ。そうなると戦はまだまだ続いてゆく事になる。手柄を挙げる機会はいくらでもあると思うぞ」
「なるほど。しかしこの国にはうつけの侵攻で城を落とされ続けた後遺症が残っておるのではないか?それを考えればそう簡単に戦はできぬじゃろう」
「じゃろうな。何にせよ、うつけの死でしばらくは混乱が続くじゃろう。その間に力を蓄え、いざという時の備えを万全にしておく事が重要じゃな」
「いざという時を待たねばならぬのは歯がゆいが、仕方のない事じゃな・・。よし、眼前に広がるこの海!その間にこれを存分に堪能してみせるぞ!」
「・・言うておくが、お主の本文は侍じゃぞ」
「分かっておる!じゃが英気を養い、見分を広める事も侍としては重要な事じゃ!ほれ、お主にも釣り竿を貸してやろう」
「わしはやらぬぞ」
「そう言うと思うておったわ。ならばわしだけで行くぞ!」
「・・北国の海は容赦せぬからのお・・」
「ぬおおおおお!何じゃこの荒れ狂う波はああああ!聞いておらぬぞおお!か、身体に波しぶきが襲ってくるううううう!」
「・・やはりこうなったか・・」




