其の三十 引き返す
「引き返したじゃと?」
「うむ。上洛を目指しておった軍が途中で向きを変え、こちらに向かっておるそうじゃ」
「大殿様が上洛を諦めたという事か?」
「いや、恐らくは何か問題が起こったのじゃろう。でなければこれ程早く引き返してくるはずがない」
「問題か・・軍内部で不穏な動きでもあったのかのお」
「わからん。が、仮にそうであったとしても我らにはどうする事もできんよ」
「そうじゃな。我らにできる事はせいぜい上役の指示通りに行動するだけじゃ」
「うむ。それよりお主、昨日の夜何をしていた?」
「む?昨日の夜、とは?」
「東の関所で怪しい者がいたと騒ぎになっておる。しかも漁師姿じゃったと。心当たりは無いか?」
「・・無い・・」
「何じゃ今の間は。正直に言え。関所の役人に突き出すような真似はせぬ」
「・・いや、その・・やはり偵察は大事じゃろうと・・」
「やはりお主か。危険な真似はよせとあれ程言うたではないか。子もなさぬ内に嫁を未亡人にしてどうする」
「先日の騒動で筏が大破し、海路からの偵察が不可能になったのじゃ。しかも広めに作ったお陰で材木の残りもあとわずかで再度の船造りの目途も立たん。それで・・」
「偵察などは忍びにやらせておけばよいではないか。功を得ようと焦ればその分危険が増し、結果取り返しのつかぬ事になるのだぞ」
「・・そうか、忍びか!」
「は?」
「忍者装束ならば良かったのか!これは盲点じゃった!」
「そういう問題ではないわあああああ!」




