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群星のヴェルシェリア  作者: セイ
第三部 古代遺跡と王国の影

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遺跡に潜む刃

 岩甲獣が研究都市を襲撃した翌朝。


 俺たちは北部遺跡へ向かうため、研究院の中庭に集まっていた。


 昨日の戦闘で破壊された街区には、今も瓦礫が残っている。復旧作業は夜通し続けられていたらしく、遠くから槌を振るう音が聞こえてきた。


 人的被害は、幸いにも重傷者数名にとどまったという。


 だが、それで済ませられる事件ではなかった。


 魔物が市街地で暴れている間に、研究院の保管庫から古代の金属片が盗まれている。


 しかも、魔物の身体には、古代技術に似た構造を持つ装置が埋め込まれていた。


 誰かが岩甲獣を操り、警備を引きつけた。


 そう考えるのが自然だった。


「シオン君、準備はできた?」


 レティシアが声をかけてきた。


「ああ。いつでも行けるよ」


「今日は第一調査区画まで。危険な場所には入らない。何か異常があったら、すぐに引き返すからね」


「分かった」


 彼女は俺たち六人を見回した。


「特にカイル君。昨日の傷は大丈夫?」


「問題ないって!」


 カイルは右肩を軽く回してみせた。


 しかし、包帯の上からでも、動きが少し硬いことは分かる。


「無理をしないことが条件ですよ」


 フィオナが念を押した。


「傷が開いたら、その場で調査から外れてもらいます」


「分かってるよ」


「本当に分かっていますか?」


「……分かってます」


 カイルが肩を落とす。


 ディーンが隣で笑った。


「昨日も同じこと言ってたな」


「うるせえ」


 いつものやり取りだった。


 だが、俺は少し気になっていた。


 昨日、カイルが口にした言葉。


 何かを思い出しそうになった。


 あれは、単なる戦闘中の興奮だったのだろうか。


 今のところ、確かめる方法はない。


 俺はその疑問を胸の奥へしまい、馬車へ乗り込んだ。


     ◇


 北部遺跡は、研究都市から北へ一時間ほど進んだ山中にあった。


 街道を外れると、周囲の景色は一変した。


 切り立った岩壁。


 深い谷。


 斜面に張りつくように生えた針葉樹。


 その奥に、巨大な石造りの入口が姿を現した。


「……でけえな」


 カイルが見上げる。


 入口の高さは十メートル近い。


 左右には太い石柱が立ち、表面には複雑な紋様が刻まれていた。


 長い年月を経ているはずなのに、石柱の一部は不自然なほど滑らかだった。


「今の建築技術でも、これを造るのは大変そうだな」


 ディーンが言った。


「継ぎ目がほとんど見えない」


 エリオットが石柱を観察する。


「石を積み上げたんじゃなくて、最初から一つの塊として加工したみたいだ」


「そんなことができるのか?」


「今の技術じゃ難しいと思う」


 エリオットの目が輝いている。


 研究対象を前にすると、彼はいつもこうだ。


「皆さん、こちらへ」


 研究院の調査主任、マティアス・ベルクが地図を広げた。


「現在、安全が確認されているのは入口から第一調査区画までです」


 地図には、一本の通路と、その先にある円形の広間が描かれていた。


「その奥は?」


 俺が尋ねる。


「崩落によって封鎖されています。ただし、別の坑道から地下深くへ続く経路があると考えられています」


「昨日、岩甲獣が出てきた坑道か」


「ええ」


 マティアスはうなずいた。


「地形的には、つながっていても不思議ではありません」


 俺は地図を見つめた。


 岩甲獣が現れた場所。


 盗まれた金属片。


 そして、目の前の遺跡。


 敵が古代技術を狙っているなら、ここにも何かを仕掛けている可能性がある。


「警備は?」


 レティシアが尋ねた。


「入口と第一調査区画に配置しています。さらに、王国警備隊から増援が来ています」


「分かった。じゃあ、行こうか」


 俺たちは魔導灯を手に、遺跡へ足を踏み入れた。


     ◇


 内部は、驚くほど静かだった。


 天井は高く、壁には細い溝が等間隔で走っている。


 床には金属製の板が埋め込まれ、その一部が淡い青色に輝いていた。


「……まだ動いているのか?」


 俺は足元を見た。


「弱いけど、魔力反応があるよ」


 エリオットが測定器を取り出す。


「しかも、一定の間隔で流れてる。完全に停止した施設じゃないみたいだ」


「何百年も前のものなのに?」


 ヴィオレッタが驚いたように尋ねる。


「そこがすごいんだよ」


 エリオットは興奮気味に答えた。


「普通の魔導設備なら、とっくに魔力が尽きてるはずなのに」


「つまり、今もどこかから供給されてるってこと?」


 リシアが尋ねた。


「その可能性が高い」


 俺は壁の溝を見つめた。


 魔力の通り道。


 それが、遺跡全体に張り巡らされている。


 時計塔の装置とは規模が違う。


 ここは、一つの装置というより、施設全体が巨大な魔導設備なのかもしれない。


 やがて、俺たちは円形の広間へ到着した。


 中央には低い石台。


 その周囲には六本の柱が立っている。


 天井には円形の窪みがあり、そこから細い線が壁へ伸びていた。


「……似ている」


 俺は思わずつぶやいた。


 時計塔で見た装置。


 そして、昨日研究院で確認した金属板。


 構造は違うが、共通する特徴があった。


「シオン君もそう思う?」


 レティシアが隣に立つ。


「ああ。でも、同じ装置とは限らない」


「そうだね。用途が違う可能性もある」


 俺たちは石台へ近づいた。


 中央には、四角い窪みがある。


 何かを固定していたような跡だった。


「ここに、何かがあったんだな」


 ディーンが言った。


「発見時から空だったそうです」


 マティアスが答える。


「何が収められていたのかは、まだ分かっていません」


 エリオットが測定器を向けた。


「……変だな」


「どうした?」


「魔力が、この石台を避けるように流れてる」


「避ける?」


「うん。本来は中央へ集まるはずなのに、途中で分岐してるんだ」


 俺は床の溝を見た。


 六本の柱から伸びる線。


 それらは中央へ向かっている。


 だが、石台の手前で途切れていた。


「装置が取り外された影響かもしれないな」


「そう思う」


 エリオットはうなずいた。


 そのときだった。


 ――カチリ。


 小さな音が響いた。


 俺は顔を上げた。


「……今の音は?」


 次の瞬間。


 六本の柱に、青白い光が走った。


「え?」


 エリオットが測定器を見る。


「待ってくれ! 魔力の流れが変わった!」


「全員、下がって!」


 レティシアが叫んだ。


 俺たちは石台から距離を取る。


 だが、光は止まらない。


 床の溝が次々と輝き、中央へ魔力が集まり始めた。


「誰か、装置に触れたのか!」


 マティアスが叫ぶ。


「誰も触ってない!」


 エリオットが答えた。


 俺は魔力の流れを観察した。


 確かに、俺たちは何もしていない。


 にもかかわらず、装置が動き始めている。


 外部から起動された?


 そう考えた瞬間。


 広間の奥にある壁が、ゆっくりと動き始めた。


 ――ゴゴゴゴ……。


 重い石が擦れる音。


 壁の中央に亀裂が走る。


 その亀裂が左右へ広がり、巨大な扉が姿を現した。


「……隠し通路?」


 リシアがつぶやく。


 扉の向こうには、暗い通路が続いていた。


 その奥から、金属が擦れるような音が聞こえる。


 ――ギギギ……。


 俺は杖を構えた。


「全員、警戒!」


 暗闇の奥で、赤い光が二つ灯った。


 続いて、もう二つ。


 さらに、その奥にも。


「……何だ、あれ」


 カイルが剣を抜く。


 闇の中から、何かが歩いてきた。


 人間に似た形。


 だが、その身体は金属と石で構成されていた。


 腕には鋭い刃。


 胸部には赤く光る結晶。


 そして、顔にあたる部分には、感情のない二つの光がある。


「自動人形……?」


 エリオットが息をのんだ。


「古代の守衛装置かもしれない!」


 現れたのは三体。


 いずれも、人間より一回り大きかった。


 そのうち一体が、ゆっくりと腕を持ち上げる。


 刃の先端に、赤い光が集まった。


「伏せろ!」


 俺は叫んだ。


 ――ズドォン!


 赤い光弾が放たれた。


 壁に命中し、石材が爆ぜる。


「くそっ!」


 カイルが飛び退く。


 俺たちは柱の陰へ身を隠した。


 光弾が次々と飛来する。


 ――ドン! ドン! ドン!


 床が砕け、石片が飛び散った。


「全員、入口へ!」


 レティシアが叫ぶ。


 だが、その瞬間。


 広間の入口側でも、石の扉が動き始めた。


 ――ゴゴゴゴ……。


「まずい!」


 ディーンが叫ぶ。


「閉じ込められるぞ!」


 俺は地面へ魔力を流した。


 扉の下へ石の柱を突き上げる。


 ――ガァン!


 柱が扉を押し返した。


 だが、完全には止まらない。


「レティシアさん! みんなを外へ!」


「シオン君は?」


「俺たちが時間を稼ぐ!」


「無茶はしないで!」


 レティシアは警備兵へ指示を飛ばした。


 マティアスとフィオナが、研究員たちを出口へ誘導する。


 俺たちは広間に残った。


 カイル。


 ディーン。


 ヴィオレッタ。


 リシア。


 エリオット。


 そして俺。


 六人が、それぞれ武器を構える。


「さて……」


 カイルが笑った。


「今度は石の人形かよ」


「笑ってる場合か」


 ディーンが言う。


「昨日より面倒そうだぞ」


「だから面白いんだろ!」


「お前だけだ」


 俺は二人のやり取りを聞きながら、敵を観察した。


 三体の自動人形。


 それぞれの動きは、完全に同じではない。


 中央の一体は光弾を放ち、左右の二体は近接攻撃を主体としている。


 ならば、役割を分ければ対処できる。


「カイル、ディーン! 左右の二体を頼む!」


「おう!」


「了解!」


「ヴィオレッタは防御! リシアは動きを妨害してくれ!」


「はい!」


「任せて!」


「エリオット、装置の弱点を探して!」


「分かった!」


 俺は杖を掲げた。


 中央の自動人形が、再び光弾を放つ。


 俺は床を隆起させ、石壁を作った。


 ――ドォン!


 光弾が石壁を砕く。


 破片が飛び散る。


 その隙に、カイルとディーンが左右へ駆けた。


「行くぞ!」


 カイルの剣が、右側の自動人形へ振り下ろされる。


 ――ギィン!


 刃が金属の腕とぶつかった。


 火花が散る。


「硬え!」


 自動人形が反撃する。


 鋭い刃が、カイルの胸元を狙った。


 カイルは身体をひねり、ぎりぎりでかわす。


 そのまま足元へ斬り込む。


 だが、敵は予想以上に速かった。


 金属の脚が跳ね上がり、カイルの剣を弾いた。


「うおっ!」


 カイルが後退する。


 一方、ディーンは左側の自動人形と斬り結んでいた。


 剣と刃が激しくぶつかる。


 ――ガキン! ギィン!


 火花が散り、金属音が広間に響く。


「こいつ……!」


 ディーンが歯を食いしばった。


「動きが読めない!」


 自動人形は、まるで疲れを知らない。


 一定の速度で攻撃を繰り返し、隙を見せない。


 俺は中央の一体へ魔法を放った。


 圧縮した風の刃が、敵の胸部を直撃する。


 ――ガァン!


 金属の装甲がわずかにへこんだ。


 だが、敵は止まらない。


「……やっぱり硬いな」


 俺は舌打ちした。


 通常の魔法では、決定打にならない。


 ならば、動きを止めて内部を狙うしかない。


「リシア!」


「分かってる!」


 リシアが両手を広げた。


 強烈な風が、中央の自動人形を包み込む。


 その足元に渦が生まれ、動きを妨害した。


 俺は地面へ魔力を流す。


 石の鎖が伸び、敵の脚へ絡みついた。


「エリオット!」


「今、見てる!」


 エリオットは柱の陰から測定器を向けていた。


「胸の結晶が魔力の中心だ! でも、そこを壊すだけじゃ止まらないかもしれない!」


「どういうことだ!」


「周囲の柱から魔力が供給されてる!」


 俺は顔を上げた。


 六本の柱。


 そこから伸びる光の線。


 確かに、中央の自動人形へ魔力が流れている。


「なら、供給を断てばいい!」


 俺は杖を掲げた。


 柱の一つへ向け、魔力の槍を放つ。


 ――ドォン!


 柱の表面が砕けた。


 だが、内部には金属の芯が通っていた。


 魔力の流れは止まらない。


「くそっ!」


 俺は歯を食いしばった。


 そのとき。


「シオン!」


 ヴィオレッタが叫んだ。


 中央の自動人形が、石の鎖を引きちぎった。


 胸部の結晶が赤く輝く。


 次の瞬間。


 ――轟ッ!


 巨大な光弾が放たれた。


 俺は咄嗟に防御魔法を展開した。


 だが、威力が強すぎる。


 障壁が一瞬で砕けた。


「っ……!」


 衝撃が身体を襲う。


 俺は後方へ吹き飛ばされた。


「シオン!」


 ヴィオレッタが駆け寄る。


 俺は床を転がりながら、何とか身体を起こした。


「大丈夫……!」


 口の中に、鉄の味が広がる。


 唇を切ったらしい。


 だが、まだ動ける。


「ヴィオレッタ、俺はいい! ほかを守ってくれ!」


「……分かりました!」


 彼女はうなずき、再び障壁を展開した。


 俺は立ち上がり、周囲を見回した。


 カイルとディーンは、それぞれ自動人形と戦っている。


 リシアは風で敵の動きを妨害しているが、長くは続かない。


 エリオットは必死に測定器を操作していた。


 このままでは、いずれ押し切られる。


 何か方法はないのか。


 俺は広間全体を見回した。


 六本の柱。


 中央の石台。


 そして、床に走る魔力の線。


 そのとき、気づいた。


「……待てよ」


 魔力は柱から中央へ流れている。


 だが、中央の石台には、何もない。


 つまり、本来そこにあるはずの装置が失われている。


 その状態で、無理やり起動しているのではないか?


「エリオット!」


 俺は叫んだ。


「中央の石台を調べろ!」


「え?」


「魔力の流れが、そこで途切れているはずだ!」


 エリオットが測定器を向ける。


「……本当だ!」


 彼の声が上ずった。


「柱からの魔力が、中央で行き場を失ってる! それが自動人形へ流れ込んでるんだ!」


「なら、中央の流れを止めれば……!」


「たぶん、全部止まる!」


 俺は決断した。


「みんな、中央の石台を守ってくれ!」


 カイルが叫ぶ。


「何する気だ!」


「装置を止める!」


「分かった!」


 カイルが自動人形の攻撃を受け流し、敵を引きつける。


 ディーンも反対側から斬り込んだ。


 リシアの風が二体の動きを鈍らせる。


 ヴィオレッタが障壁を展開し、中央の光弾を防ぐ。


 俺は石台へ駆け寄った。


 中央の窪み。


 その周囲には、細かな溝が刻まれている。


 俺は杖を構え、魔力の流れを探った。


 直接魔力を流し込むのは危険だ。


 ならば、外側から干渉する。


 俺は床の一部を隆起させ、魔力の通り道を物理的に断とうとした。


 ――バチッ!


 青白い火花が散った。


 石台の周囲に、強い反発が生まれる。


「くっ……!」


 魔力が押し返される。


 だが、完全には拒絶されていない。


 俺は慎重に力を調整した。


 少しずつ。


 少しずつ。


 魔力の流れをずらしていく。


 そのとき。


 背後で、カイルの叫び声が響いた。


「ディーン!」


 俺は振り返った。


 左側の自動人形が、ディーンの剣を弾き飛ばしていた。


 鋭い刃が、彼の胸元へ迫る。


「くそっ!」


 カイルが駆け出した。


 だが、距離がある。


 間に合わない。


 俺は杖を向けた。


 しかし、石台への干渉を止めれば、装置が再び暴走するかもしれない。


 その一瞬の迷い。


 ――ギィン!


 金属音が響いた。


 カイルが、ディーンの前に飛び込んでいた。


 剣で自動人形の刃を受け止めている。


「カイル!」


 ディーンが叫ぶ。


「ぼさっとすんな!」


 カイルが歯を食いしばった。


 自動人形の力が強い。


 剣が押し込まれる。


 カイルの足元の石畳が砕けた。


「ぐっ……!」


 右肩の傷が開いたのか、包帯に赤い染みが広がる。


 それでも、カイルは退かなかった。


「……今度は」


 彼が小さくつぶやいた。


「今度は、間に合わせる……!」


 その瞬間。


 俺は、カイルの足元で小さな火花が散るのを見た。


 青白い光。


 ほんの一瞬。


 だが、確かに見えた。


 カイルの剣が、わずかに押し返される。


 自動人形の体勢が崩れた。


「ディーン!」


「分かってる!」


 ディーンが床の剣を拾い、敵の脚へ斬り込んだ。


 金属の関節が砕ける。


 自動人形が膝をついた。


 その隙に、カイルが後退する。


「シオン!」


 ヴィオレッタが叫ぶ。


「今です!」


 俺は石台へ視線を戻した。


 魔力の流れが、わずかに乱れている。


 今なら。


「……止まれ!」


 俺は杖を振り下ろした。


 石台の周囲に、複数の石柱が突き上がる。


 魔力の通り道が断たれた。


 ――バキィィン!


 青白い光が弾ける。


 六本の柱から伸びていた線が、一斉に消えた。


 自動人形たちの動きが止まる。


 胸部の赤い結晶が、ゆっくりと暗くなっていく。


 ――ガシャン。


 一体が倒れた。


 続いて、もう一体。


 最後の一体も、膝をついたまま動かなくなった。


 広間に、静寂が戻った。


     ◇


「……終わった?」


 リシアが息を吐いた。


「たぶん」


 俺は杖を下ろした。


 全身が重い。


 魔力を使いすぎたらしい。


 カイルがその場に座り込んだ。


「はあ……はあ……」


 ディーンが隣にしゃがむ。


「お前、無茶しすぎだ」


「……お前を助けたんだろ」


「それは分かってる」


 ディーンは苦笑した。


「だから、ありがとな」


「……おう」


 カイルは照れくさそうに笑った。


 俺は二人へ近づいた。


「カイル、肩を見せろ」


「大丈夫だって」


「大丈夫じゃないだろ」


 包帯には、はっきりと血がにじんでいる。


「フィオナさんを呼ぶ。ここで待ってろ」


「……分かったよ」


 カイルは観念したようにうなずいた。


 そのとき、レティシアたちが広間へ戻ってきた。


「シオン君!」


 彼女は俺たちの姿を確認し、ほっと息を吐いた。


「全員、無事?」


「大きな怪我はない。でも、カイルの肩を診てもらいたい」


「分かった。フィオナ、お願い」


「はい」


 フィオナがすぐにカイルの手当てを始めた。


 レティシアは停止した自動人形を見つめた。


「……これが、古代の守衛装置」


「そうみたい」


 俺は答えた。


「中央の石台への魔力供給を断ったら、全部止まった」


「なるほど……」


 彼女は石台へ近づいた。


「でも、妙だね」


「何が?」


「この装置、本来は誰かが近づいただけで起動するものじゃないはずなんだ」


 俺は眉をひそめた。


「外部から起動された可能性がある?」


「あると思う」


 レティシアは床の紋様を見つめた。


「少なくとも、自然に動き始めたとは考えにくい」


 俺も同感だった。


 昨日の岩甲獣。


 そして、今日の自動人形。


 どちらも、誰かが意図的に動かしている可能性がある。


 敵は、俺たちが遺跡へ来ることを知っていたのかもしれない。


「シオン君」


 レティシアが声を落とした。


「今日はここまでにしよう」


「……うん」


 俺はうなずいた。


 無理に奥へ進めば、また同じような危険に遭うかもしれない。


 今は、得られた情報を整理するべきだ。


 そう考えたときだった。


「……待ってくれ」


 エリオットが声を上げた。


 彼は停止した自動人形の胸部を調べていた。


「どうした?」


「これ……見てくれ」


 俺たちは近づいた。


 自動人形の胸部。


 赤い結晶の下に、小さな金属板が埋め込まれていた。


 そこには、細かな文字が刻まれている。


 エリオットが慎重に汚れを拭き取った。


「……数字?」


 ディーンがつぶやく。


 俺は目を凝らした。


 摩耗した文字列。


 その一部だけが、はっきりと残っている。


 ――06。


 俺の背筋に、冷たいものが走った。


 時計塔で見た記録。


 リューデンの地下で確認されたという、未完成の記録。


 そして、目の前の自動人形。


 また、同じ数字が現れた。


「……六」


 俺は小さくつぶやいた。


 だが、それが何を意味するのかは分からない。


 ただの製造番号かもしれない。


 それとも、別の意味があるのか。


 レティシアが金属板を見つめた。


「シオン君、これ……」


「うん。前に見た記録にも、同じ数字があった」


「偶然かもしれないけど、調べる価値はあるね」


 俺はうなずいた。


 そのとき。


 広間の奥。


 先ほど開いた隠し通路の向こうから、微かな音が聞こえた。


 ――カツン。


 何かが、石の床を踏んだような音。


 俺は顔を上げた。


「……誰かいる?」


 全員が通路へ視線を向ける。


 暗闇の奥には、何も見えない。


 だが、確かに気配があった。


 俺は杖を構えた。


 すると。


 闇の向こうから、低い声が響いた。


「……なるほど」


 男の声だった。


「ここまで動けるとは、予想以上だ」


 カイルが剣を握り直す。


「誰だ!」


 返事はなかった。


 代わりに、暗闇の奥で小さな光が灯った。


 青白い光。


 それは、壁に刻まれた紋様を一瞬だけ照らした。


「シオン君、下がって!」


 レティシアが叫ぶ。


 次の瞬間。


 ――ドォォン!


 通路の奥で爆発が起きた。


 天井から石片が降り注ぐ。


 俺は咄嗟に防御魔法を展開した。


 轟音とともに、隠し通路の入口が崩れ落ちる。


 土煙が広間を包んだ。


「くそっ!」


 カイルが叫ぶ。


「逃げられた!」


 俺は崩れた通路を見つめた。


 あの男は、最初から俺たちを見ていた。


 そして、戦いが終わるのを待っていた。


 何のために?


 俺たちの実力を確かめるためか。


 それとも、別の目的があったのか。


 答えは分からなかった。


 ただ一つ、確かなことがある。


 敵は、この遺跡の内部にいる。


 そして、俺たちの動きを把握している。


 俺は杖を握り直した。


 リューデンの古代遺跡。


 その地下には、まだ多くの秘密が眠っている。


 だが、俺たちがそれを解き明かす前に――。


 何者かが、先に動き始めていた。

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