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群星のヴェルシェリア  作者: セイ
第二部 交錯する星々

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公爵令嬢への告発

 王都中央区、王立総合学園。


 学園交流会を翌日に控えた昼休み。


 秋の陽射しが差し込む中庭では、学生たちが談笑し、校舎の間を抜ける風が噴水の水面を揺らしていた。


 俺――シオン・クレイヴェルは、エリオットとリシアとともに、木陰のベンチで昼食を取っていた。


「……あれ、また一緒にいるね」


 エリオットが、パンを持ったまま呟いた。


 視線の先には、第二王子ルシアン殿下とエミリアの姿があった。


 二人は噴水の向こうを歩きながら、何かを話している。


 エミリアは楽しそうに笑い、ルシアン殿下も穏やかな表情を浮かべていた。


「最近、よく見かけるな」


 俺が言うと、エリオットは周囲を確認してから声を潜めた。


「それでさ、ちょっと嫌な噂が広まってるんだよ」


「噂?」


「ヴィオレッタ様のこと」


 俺は顔を上げた。


「ヴィオレッタが?」


「うん。エミリアさんに嫌がらせをしてるって」


「……は?」


 思わず、間の抜けた声が出た。


 ヴィオレッタ・ローゼンベルク。


 ローゼンベルク公爵家の令嬢で、俺も以前から面識がある。


 金色の髪と青い瞳を持つ彼女は、学園内でもよく知られた存在だ。


 確かに、初対面の相手には少し近寄りがたく見えるかもしれない。


 だが、俺の知っているヴィオレッタは、理由もなく誰かを傷つけるような人物ではなかった。


「具体的には?」


 俺が尋ねると、エリオットは指を折りながら答えた。


「教科書を隠したとか、教材を壊したとか。それから、階段で突き飛ばそうとしたって話もあるらしい」


「……それ、本当なのか?」


「分からない。僕も人から聞いただけだから」


 リシアが、静かに口を開いた。


「誰が見たのかは?」


「それも、はっきりしないみたい」


「なら、まだ噂でしかないわね」


 リシアは、そう言って食事を再開した。


 俺は、噴水の向こうへ視線を戻した。


 ルシアン殿下とエミリアは、すでに校舎の中へ入っていた。


「……何でヴィオレッタなんだ?」


「それがね」


 エリオットは、少し困ったように笑った。


「ヴィオレッタ様も、以前から殿下と親しくしていたらしいんだ」


「それだけ?」


「うん。家同士の付き合いもあるだろうし、別に不思議じゃないと思うんだけど……」


 エリオットは肩をすくめた。


「エミリアさんは、ヴィオレッタ様が自分を嫌ってるって言ってるみたい」


 俺は、しばらく黙った。


 王子と親しい公爵令嬢。


 王子に想いを寄せる平民の少女。


 そして、突然広まり始めた嫌がらせの噂。


(……何だ、この構図)


 前世で読んだ物語の記憶が、頭の片隅をよぎった。


 だが、似た状況だからといって、同じ出来事が起こるとは限らない。


 そもそも、ここにいる人間は、物語の登場人物ではない。


 それぞれが自分の考えで動いている。


「……変な話だな」


 俺が呟くと、リシアが頷いた。


「ええ。少なくとも、今ある情報だけで誰かを悪者にはできないわ」


 そのとき、授業開始を告げる鐘が鳴った。


 俺たちは立ち上がり、校舎へ戻った。


 このときはまだ、噂がそれ以上の騒ぎになるとは思っていなかった。


     ◇


 同日午後。


 王立総合学園の魔導実習棟では、翌日に開催される学園交流会の準備が進められていた。


 交流会には、王族や貴族の関係者、各地の技術者などが招かれる。


 学生たちは研究成果を発表し、武術や魔法の実演を披露する予定だ。


 俺たちの研究班も、小型魔導回路の展示を担当していた。


「……この説明文、長すぎない?」


 リシアが、机の上の紙を指さした。


「え?」


 エリオットが顔を上げる。


「そうかな?」


「専門用語が多すぎるわ。初めて見る人には分からないでしょう」


「でも、正確に説明しようとすると……」


「最初から全部説明する必要はないわ」


 俺は、二人のやり取りを聞きながら展示用の回路を確認していた。


 今回の展示では、魔力の流れを視覚的に示すだけにする。


 残留魔力による異常な変動を再現する実験は行わない。


 魔導理論を担当するアーネスト・フェルグ先生からも、その点は強く念を押されていた。


「シオンはどう思う?」


 エリオットが尋ねた。


「最初は簡単な説明でいいんじゃないか?」


 俺は答えた。


「興味を持った人に、詳しい資料を見せればいいと思う」


「ほら」


 リシアが言った。


「……二対一かあ」


 エリオットは肩を落とした。


 そのとき、教室の扉が開いた。


「失礼いたします」


 入ってきたのは、ヴィオレッタだった。


 その後ろには、友人のセシリアがいる。


 教室にいた生徒たちが、自然と姿勢を正した。


「シオン」


 ヴィオレッタが、俺へ声をかけた。


「少し、時間をもらえるかしら?」


「ああ。どうした?」


「ここでは少し……」


 彼女は、周囲へ視線を向けた。


 俺は頷いた。


「分かった」


 エリオットとリシアに一声かけ、俺はヴィオレッタたちとともに廊下へ出た。


     ◇


 魔導実習棟の二階。


 人通りの少ない廊下で、ヴィオレッタは足を止めた。


「突然ごめんなさい」


「気にしなくていい。それより、何かあったのか?」


 俺が尋ねると、彼女は少しだけ迷った。


「……一つ、確認したいことがあるの」


「確認?」


「先週の魔導理論の授業で、エミリアさんと同じ班になったでしょう?」


「ああ」


 俺は頷いた。


 確か、四人一組で基礎魔導回路を組み立てる授業だった。


 担当はアーネスト先生。


 授業では、魔力の流入量を制御するための基礎回路を組み立て、各班で動作を確認することになっていた。


 エミリアは、作業の途中で一度教室を出ていた。


 戻ってきたとき、少し顔色が悪かったことを覚えている。


「そのとき、何か変わったことはなかった?」


 ヴィオレッタが尋ねた。


 俺は、少し考えた。


「……特には」


 そして、思い出したことを付け加える。


「ただ、エミリアが途中で教室を出たな」


「理由は?」


「体調が悪いって言ってた」


 ヴィオレッタの表情が、わずかに変わった。


「……そう」


 セシリアが、横から口を開いた。


「ヴィオレッタ、やっぱりおかしいわ」


「セシリア」


 ヴィオレッタは、静かに彼女を制した。


 そして、俺へ向き直る。


「……実は、あの授業でエミリアさんの教材が壊されたという話があるの」


「教材?」


「ええ。それを、わたくしがやったことになっているらしいわ」


 俺は眉をひそめた。


「……ヴィオレッタが?」


「そう」


「でも、あの授業にはいなかっただろ?」


「ええ。わたくしは別の教室で授業を受けていたもの」


「それなら、出席記録を確認すれば分かるんじゃないか?」


「もちろん、アーネスト先生には確認をお願いしているわ」


 ヴィオレッタは頷いた。


「ただ、問題はそれだけではないの」


 セシリアが、悔しそうに口を開いた。


「ヴィオレッタが何を説明しても、言い逃れだって言う人がいるのよ」


「……そんな」


 俺は言葉を失った。


 ヴィオレッタは、そんなセシリアを静かに見た。


「感情的になってはいけないわ」


「でも……!」


「事実を確認すればいいの」


 彼女は、そう言って微笑んだ。


 その笑顔は、どこか無理をしているように見えた。


「……ヴィオレッタ」


 俺が呼ぶと、彼女は顔を上げた。


「何?」


「俺が見たことなら、ちゃんと話すよ」


 ヴィオレッタは、少し驚いたように目を見開いた。


「……いいの?」


「ああ。ただ、見ていないことまで証言はできないけど」


「それで十分よ」


 彼女は、静かに微笑んだ。


「ありがとう、シオン」


 その言葉を聞いて、俺は少しだけ安心した。


 だが、同時に。


 胸の奥に、嫌な予感が残っていた。


     ◇


 同日の夕方。


 王立総合学園の別棟にある応接室。


 第二王子ルシアンは、窓際に立っていた。


 背後では、エミリアが椅子に腰掛けている。


「……殿下」


 エミリアが、小さな声で呼んだ。


「どうした?」


「……私、もう学園にいるのが怖いです」


 ルシアンは振り返った。


「また何かあったのか?」


 エミリアは俯いた。


「今日も、何人かの方に冷たい目で見られました」


「誰に?」


「……分かりません」


 彼女は、膝の上で手を握り締めた。


「でも、きっと……」


 そこで言葉を止める。


 ルシアンは、少しだけ眉をひそめた。


「……ヴィオレッタのことか?」


 エミリアは答えなかった。


 その沈黙が、かえって肯定のように見えた。


「彼女が直接、何かしたのか?」


 ルシアンが尋ねる。


 エミリアは首を振った。


「……直接ではありません」


「では、どうして彼女だと?」


「……私には、分かるんです」


 エミリアは顔を上げた。


「ヴィオレッタ様は、私のことをよく思っていません」


 ルシアンは、しばらく黙った。


 彼にとって、ヴィオレッタは幼い頃から顔を合わせてきた公爵家の令嬢だった。


 礼儀正しく、学業にも優れ、誰に対しても大きく態度を崩さない。


 少なくとも、誰かを陰で傷つけるような人物には思えなかった。


「……何か誤解があるのかもしれない」


 ルシアンは言った。


「一度、双方から話を聞いた方がいいだろう」


 エミリアの表情が、わずかに変わった。


「……殿下は、私のことを信じてくださらないんですか?」


「そういうわけではない」


「……でも」


 エミリアは目を伏せた。


「私が平民だから、ですか?」


 ルシアンは息を呑んだ。


「違う」


「ヴィオレッタ様は、公爵家のご令嬢ですものね」


「エミリア」


「……ごめんなさい」


 彼女は、涙を拭った。


「こんなことを言ってはいけませんよね」


 ルシアンは、返す言葉を失った。


 目の前の少女は、傷ついている。


 少なくとも、彼にはそう見えた。


 そして、その傷を疑うことが、彼女をさらに傷つけるように思えた。


「……分かった」


 ルシアンは、静かに言った。


「私が、きちんと確認する」


 エミリアは顔を上げた。


「……本当ですか?」


「ああ」


 ルシアンは頷いた。


「君だけが我慢する必要はない」


 その言葉を聞いた瞬間。


 エミリアは、安堵したように微笑んだ。


 だが、その瞳の奥には、別の感情も宿っていた。


     ◇


 翌日。


 王立総合学園の中央講堂では、学園交流会が開催されていた。


 王都各地から招かれた来賓が、学生たちの研究成果を見て回っている。


 講堂の外では、武術の実演が行われていた。


 その指導に当たっているのは、武術担当のグレイグ・ハルバート先生だ。


 俺たちの展示も、午前中から多くの見学者が訪れていた。


「この回路、魔力の流れが見えるのか?」


 来賓の一人が尋ねる。


「はい!」


 エリオットが、嬉しそうに説明を始めた。


「通常は目に見えない魔力の流れを、補助回路によって――」


「エリオット、簡潔に」


 リシアが小声で言った。


「……あ、はい」


 俺は、思わず笑いそうになった。


 午前中の発表は、順調だった。


 だが、昼を過ぎた頃。


 講堂の空気が変わった。


「……第二王子殿下が、中央広間にいらっしゃるそうです」


 近くの生徒が話している。


「何か発表があるらしい」


「発表?」


「さあ。詳しくは知らないけど……」


 俺は、嫌な予感を覚えた。


 中央広間。


 交流会の来賓が集まる場所だ。


 そこで王子が発表するという。


 しかも、事前の予定にはなかった。


「……シオン?」


 リシアが、俺の表情を見た。


「どうしたの?」


「ちょっと、様子を見てくる」


「何かあったの?」


「まだ分からない」


 俺は答えた。


「でも、気になることがある」


 リシアは、少し考えた。


「……私も行くわ」


 エリオットも顔を上げる。


「え? じゃあ僕も!」


 俺たちは展示を一時的に他の班員へ任せ、中央広間へ向かった。


     ◇


 王立総合学園、中央広間。


 高い天井から吊るされた魔導灯が、磨き上げられた床を照らしている。


 広間には、すでに多くの学生が集まっていた。


 正面の階段には、第二王子ルシアンが立っている。


 その隣には、エミリア。


 そして、少し離れた場所にヴィオレッタとセシリアがいた。


 ヴィオレッタは背筋を伸ばしていた。


 だが、その表情は硬い。


「……皆に、聞いてもらいたいことがある」


 ルシアン殿下の声が、広間に響いた。


 周囲のざわめきが収まる。


「私は今日、学園内で起きている問題について、はっきりさせたいと思っている」


 俺は足を止めた。


 嫌な予感が、確信に変わり始める。


「ローゼンベルク公爵令嬢、ヴィオレッタ」


 ルシアン殿下が、彼女の名を呼んだ。


「君に、確認したいことがある」


 ヴィオレッタは、静かに頭を下げた。


「……何でしょうか、殿下」


「君は、エミリアに対して、繰り返し嫌がらせを行ったという疑いをかけられている」


 広間がざわめいた。


 ヴィオレッタは表情を変えなかった。


「……そのような事実はございません」


「本当に?」


「はい」


 ルシアン殿下は、エミリアへ視線を向けた。


「エミリア。話してくれるか?」


 エミリアは、少し俯いた。


「……はい」


 そして、小さな声で話し始めた。


「……私、ずっと我慢していました」


 広間が静まり返る。


「でも、もう……怖くて」


 彼女の声は震えていた。


「教科書を隠されたり、教材を壊されたり……」


 ヴィオレッタの眉が、わずかに動いた。


「……エミリアさん」


「階段でも、突き飛ばされそうになりました」


 周囲から、驚きの声が上がった。


 ルシアン殿下の表情が険しくなる。


「……ヴィオレッタ」


 彼は、低い声で言った。


「君は、それでも否定するのか?」


「……はい」


 ヴィオレッタは、まっすぐに答えた。


「わたくしは、そのようなことをしておりません」


「では、なぜ彼女がこのような話をする必要がある?」


 その言葉に、ヴィオレッタは一瞬だけ目を伏せた。


 そして、静かに答える。


「……それは、わたくしには分かりません」


 ルシアン殿下は、深く息を吐いた。


「……残念だ」


 彼は周囲を見渡した。


「私は、身分を理由に誰かが傷つけられることを許したくない」


 広間の一部から、賛同するような声が上がった。


「公爵家の令嬢であろうと、平民の学生であろうと、学園では同じように扱われるべきだ」


 その言葉自体は、間違っていない。


 だが。


 俺は、胸の奥に引っかかるものを感じた。


(……それなら、なおさら)


 身分にかかわらず平等に扱うというのなら。


 疑いをかけられた側にも、同じだけ説明する機会が必要なはずだ。


 ルシアン殿下は、ヴィオレッタへ向き直った。


「君には、正式な調査が終わるまで、エミリアへの接触を控えてもらいたい」


 ヴィオレッタは、静かに頭を下げた。


「……承知いたしました」


 その声は、落ち着いていた。


 だが、隣にいるセシリアの表情は違った。


「殿下、お待ちください!」


 セシリアが、一歩前へ出た。


「ヴィオレッタは、そのようなことをする人ではありません!」


「セシリア嬢」


 ルシアン殿下が、眉をひそめる。


「君が友人を信じたい気持ちは分かる。だが、今は事実を確認しているところだ」


「でしたら、なぜこのような場所で――」


「セシリア」


 ヴィオレッタが、静かに呼んだ。


 セシリアは、悔しそうに口を閉じた。


 俺は、二人を見つめていた。


 ヴィオレッタは、何も言い返さない。


 いや。


 言い返せないのかもしれない。


 ここで感情的になれば、それさえも悪い印象に繋がる。


 公爵家の令嬢として、常に冷静であることを求められてきた彼女にとって、この場はあまりにも不利だった。


(……本当に、こんなことがあるのか)


 前世の記憶が、妙な形で頭をよぎる。


 悪役令嬢。


 公開断罪。


 王子に非難される貴族の少女。


 物語なら、何度も見たことのある構図だ。


 だが、ここは物語の中ではない。


 少なくとも、俺にとっては。


 ヴィオレッタは、目の前にいる一人の人間だ。


 根拠のない噂で傷つくこともある。


 そして、今。


 彼女は大勢の前で、まだ確かめられていないことを理由に非難されている。


「……シオン」


 隣で、リシアが小さく呼んだ。


「……どうするの?」


 俺は、答えられなかった。


 相手は第二王子だ。


 王族と公爵家の問題に、俺のような学生が口を挟めば、どうなるか分からない。


 それでも。


 先週の授業のことなら、俺も知っている。


 少なくとも、確かめられることがある。


(……このままでいいのか?)


 胸の奥で、何かが重くなる。


 俺は拳を握った。


 怖い。


 正直に言えば、関わりたくない。


 だが、ここで黙っていたら。


 後になって、きっと後悔する。


「……リシア」


「何?」


「……俺、確認したいことがある」


 リシアは、少しだけ目を細めた。


「……あの授業のこと?」


「うん」


 彼女は、短く頷いた。


「……分かった」


 エリオットが、俺たちを見た。


「……何か分かったの?」


「まだ」


 俺は答えた。


「でも、確かめたい」


 そして、一歩前へ出た。


 心臓が、うるさいくらいに鳴っている。


 周囲の視線が、少しずつこちらへ向く。


 俺は深く息を吸った。


「……ルシアン殿下」


 自分の声が、思ったよりも大きく響いた。


 第二王子が、こちらを見た。


「……何だ?」


 俺は、喉の奥の緊張を押し込んだ。


「一つ、確認させていただきたいことがあります」


 広間が静まり返った。


 ヴィオレッタが、驚いたように俺を見た。


 ルシアン殿下は、わずかに眉をひそめた。


「……君は?」


「シオン・クレイヴェルです」


 俺は頭を下げた。


 そして、顔を上げる。


「エミリアさんへの嫌がらせについて、証言の内容を確認したいんです」


 ルシアン殿下の表情が硬くなった。


「……どういう意味だ?」


 俺は、ゆっくりと答えた。


「その中に、俺がいた授業で起きたとされる出来事があるからです」


 広間に、再びざわめきが広がった。


 俺は、ヴィオレッタへ視線を向けた。


 彼女は、まだ驚いた表情をしていた。


 だが、その青い瞳には、わずかな光が戻っていた。


 俺は、もう一度ルシアン殿下へ向き直った。


「事実を確認する前に、誰かを責めるのは違うと思います」


 声は、少し震えていた。


 それでも。


 今度は、視線を逸らさなかった。

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