消えたはずの魔力
翌朝。
王立総合学園の研究棟では、普段より早い時間から実験の準備が進められていた。
「……ねえ、シオン」
「何だ?」
「昨日、ちゃんと寝た?」
リシア・エルフォードが、机に並べた測定器から顔を上げた。
「寝たよ」
「何時間?」
「……それを聞くのか?」
「聞いてるの」
シオン・クレイヴェルは少し考えた。
「五時間くらい?」
「少ない」
「研究のことを考えてたら、つい」
「それで実験中に倒れられたら迷惑よ」
容赦のない言葉だった。
だが、彼女が本気で心配していることは分かる。
「分かった。今日は無理しない」
「その言葉、記録しておこうかしら」
「そこまで信用ないのか、俺」
隣で器具を磨いていたエリオット・ベルンが笑った。
「シオンって、気になることがあると止まらないからね」
「エリオットまで……」
「でも、今日は僕も気になってるんだ」
エリオットは丸眼鏡を押し上げた。
「昨日の三つ目の星晶石。あの揺れ方は、ちょっと普通じゃなかった」
机の中央には、三つの淡青色の結晶が並べられている。
そのうち一つには、赤い識別札が付けられていた。
昨日、シオンが奇妙な感覚を覚えた結晶だ。
測定値は正常範囲。
しかし、魔力の伝達効率には規則的な揺らぎが見られた。
しかもシオンは、魔力を流していない状態で、その結晶が一瞬だけ光るのを見ている。
原因は、まだ分かっていない。
「今日は装置を変えて調べるんだよな」
「ええ」
リシアが頷いた。
「それと、測定する順番も変えるわ」
「順番?」
「昨日は一番目、二番目、三番目の順に測ったでしょう? 装置が温まった影響かもしれないもの」
「なるほど」
「ほかにも、魔力の供給者を変える。私とエリオットも測定するわ」
シオンは感心した。
「準備がいいな」
「当然よ。何かを発見したと思い込むのは、研究で一番危険なことだから」
リシアは赤い識別札の付いた結晶を持ち上げた。
「今日は、これが本当に変なのかを確かめる」
その言葉に、シオンも頷いた。
ただ一つ。
彼女たちには話していないことがあった。
昨日、結晶の内部に意識を向けた瞬間。
何かが、こちらを向いたような感覚。
あれが単なる錯覚だったのか。
それとも――。
(……いや、今は実験だ)
シオンは余計な考えを振り払った。
◇
最初の実験は、驚くほど順調だった。
「一番目、正常」
「二番目も正常範囲ね」
「三番目……あれ?」
エリオットが測定器を覗き込む。
「昨日と同じだ」
リシアが記録を確認した。
「……確かに、一定の間隔で揺れてる」
結晶の伝達効率を示す針が、ごく小さく上下していた。
通常の測定では見落としてしまいそうな変動。
だが、昨日の記録と並べると、その特徴は明らかだった。
「装置を変えても同じか」
シオンが呟く。
「まだ断定はできないわ」
リシアは即座に答えた。
「次は供給者を変える」
まず、エリオットが魔力を流した。
結果は同じ。
続いてリシア。
こちらも、ほとんど変化がなかった。
「……つまり、シオンの魔力だけが原因じゃない」
エリオットが言った。
「そうね」
リシアは考え込んだ。
「結晶そのものか、結晶と装置の相性か……」
「一つ、試してもいいか?」
シオンが口を開いた。
「何?」
「魔力を流す時間を短くしてみたい」
「どのくらい?」
「一瞬だけ」
リシアが眉をひそめる。
「それじゃ安定した測定ができないでしょう」
「安定した状態を測りたいんじゃないんだ」
シオンは結晶を指さした。
「魔力を止めたあと、どうなるかを見たい」
二人が顔を見合わせた。
「……魔力を止めたあと?」
エリオットが首を傾げる。
「うん。昨日、何も接続していない結晶が光ったように見えたんだ」
「それ、本当に?」
「見間違いの可能性はある。でも、気になる」
リシアは少し考えた。
「魔力の残留を調べるのね」
「そういうこと」
「だったら、遮断後の変化を記録できるようにしましょう」
彼女はすぐに別の測定器を取り出した。
「エリオット、残留魔力計を」
「了解!」
三人は装置を組み直した。
魔力を短時間だけ流し、供給を完全に遮断する。
そのあと、結晶から放出される魔力を測定する。
仕組みは単純だ。
魔導技術の基礎実験でも使われる方法だった。
「じゃあ、始めるぞ」
シオンが魔力を流す。
結晶が淡く光る。
「遮断!」
リシアの合図で、供給回路が切られた。
光が消える。
残留魔力計の針が、ゆっくりと下がっていった。
「……正常ね」
エリオットが呟く。
「やっぱり見間違いだったのかな」
シオンもそう思いかけた。
だが。
針が零を示した、その直後。
かちり。
小さな音がした。
「……え?」
エリオットが顔を上げる。
残留魔力計の針が、一瞬だけ跳ねた。
「今、動いたよね?」
「動いた」
リシアが即答した。
シオンは結晶を見つめていた。
確かに、何かがあった。
だが、それは昨日感じたものとは少し違う。
昨日は、魔力の流れの中に小さな渦があった。
今は、流れが消えたはずの場所に、ほんの一瞬だけ何かが残っている。
まるで。
遠くで鳴った鐘の音が、壁に反射して遅れて届くような。
(……遅れて、戻ってきた?)
「もう一回やろう」
シオンが言った。
リシアが頷く。
「ええ。ただし、今度は私が供給する」
再び実験が行われた。
結果は同じだった。
供給を遮断する。
残留魔力が減少する。
零になる。
そして、その直後。
針がわずかに跳ねる。
「……再現した」
エリオットの声が震えた。
「これ、結構すごいことじゃない?」
「まだ分からないわ」
リシアは冷静だった。
だが、その目は真剣だった。
「結晶内部に魔力が残っていて、遅れて放出されただけかもしれない」
「それなら、普通の結晶でも起きる?」
「程度の差はあるけど、似た現象は起きるわ。ただ……」
彼女は記録用紙を見つめた。
「これほど規則的なのは、少し気になる」
シオンは結晶に手を伸ばしかけた。
そして、止めた。
もう一度、あの感覚を確かめたい。
だが、昨日の頭痛を思い出す。
自分の感覚だけに頼っても、原因は分からない。
(……そうだな)
シオンは手を引っ込めた。
今必要なのは、確かめられる証拠だ。
「リシア。もう一つ、試したい」
「今度は何?」
「この結晶を、装置から完全に離して測れないかな」
「……どういうこと?」
「回路の影響を受けてるのか、それとも結晶自体が反応してるのか、分けて考えたい」
リシアは数秒だけ考えた。
そして頷いた。
「いいわ。ただし、隔離箱を使いましょう」
「隔離箱?」
エリオットが尋ねる。
「外部からの魔力干渉を減らすための箱よ。完全に遮断できるわけじゃないけど、比較には使える」
「そんなのあったんだ」
「備品一覧、読んでないの?」
「……今度読むよ」
リシアは呆れたようにため息をついた。
◇
昼前。
実験室の机には、金属製の小さな箱が置かれていた。
内側には魔力を通しにくい素材が張られ、蓋には測定用の端子が取り付けられている。
「これで、外部の影響をある程度抑えられるはず」
リシアが説明した。
「まず普通の結晶から」
三人は慎重に測定を進めた。
一つ目。
異常なし。
二つ目。
こちらも異常なし。
そして、三つ目。
赤い識別札の付いた結晶を隔離箱に収める。
「……始めるわよ」
リシアが装置を操作した。
短い魔力供給。
遮断。
残留魔力の減少。
針が零へ近づく。
全員が息を詰めた。
そして。
かちり。
針が跳ねた。
「……出た!」
エリオットが声を上げる。
リシアも目を見開いた。
「隔離箱の中でも……」
シオンは、ゆっくりと息を吐いた。
少なくとも、外部の魔力干渉だけでは説明しにくい。
ただし、結晶内部に何かが残っている可能性はある。
「……これ、先生に報告しよう」
シオンが言った。
エリオットが頷く。
「そうだね。僕たちだけで判断するのは危ないし」
リシアは記録をまとめ始めた。
「ええ。実験条件と結果を整理してから提出しましょう」
そのとき。
研究室の扉が開いた。
「おや、ずいぶん熱心だね」
三人が振り返る。
入ってきたのは、魔導技術科の担当教員だった。
「先生、ちょうどよかったです」
リシアが立ち上がる。
「星晶石の測定で、少し気になる結果が出ました」
「ほう?」
教員は机に近づいた。
記録用紙を受け取り、数値を確認する。
「……なるほど」
しばらく沈黙が続いた。
「残留魔力の再上昇か」
「はい」
「測定器の誤作動は?」
「別の装置でも確認しました」
「外部干渉は?」
「隔離箱でも再現しました」
教員は感心したように頷いた。
「よく調べたね」
エリオットが嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!」
「ただし」
教員の声が少し真剣になった。
「この段階で、異常な結晶だと断定してはいけないよ」
「はい」
リシアが答える。
「製造工程の違い、結晶内部の微細な亀裂、測定器との相性。考えられる原因はいくつもある」
教員は結晶を見つめた。
「……しかし、面白い結果だ」
シオンが尋ねた。
「先生、似たような現象はありますか?」
「まったくないわけではない。魔力の遅延放出は、加工状態によって起こることがある」
「遅延放出……」
「ただ、通常は減衰の仕方にばらつきがある。君たちの記録では、一定の間隔で小さな反応が出ているようだね」
教員は記録を机に戻した。
「一度、研究室の管理記録を調べてみよう。この結晶がどこから納入されたものなのか、確認する必要がある」
シオンは頷いた。
「お願いします」
「君たちは、今日はここまでにしておきなさい。続きは管理者の確認を取ってからだ」
リシアは素直に頷いた。
「分かりました」
エリオットは少し残念そうだったが、異議は唱えなかった。
シオンも同じだった。
気になることは山ほどある。
だが、今は急ぐべきではない。
そう思った。
◇
午後。
王都の迎賓施設では、リューデン王国とアルセリア王国の外交官たちが協議を続けていた。
エレノア・リューデンは、机に広げられた資料へ目を落としていた。
「……つまり、技術交流を進める場合、まず研究対象を限定するということですね」
「はい、殿下」
アルセリア側の外交官が頷く。
「星晶石の加工技術と魔導回路設計のうち、軍事利用に直結しない分野から意見交換を始める案です」
「妥当だと思います」
エレノアは答えた。
「ただし、リューデン王国としても、採掘技術や鉱脈情報を無制限に公開することはできません」
「承知しております」
交渉は穏やかに進んでいた。
だが、議題が輸送経路に移ったとき、空気が少し変わった。
「……こちらが、現在提案されている新しい輸送経路です」
外交官が地図を広げた。
山岳地帯を越え、アルセリア王国へ至る道。
冬季の積雪を避けるため、従来より南側を通る案だった。
エレノアは地図を見つめた。
「この経路ですと、帝国との国境に近づきますね」
「はい。ただ、輸送効率は向上します」
「効率だけで決めるわけにはいきません」
エレノアの声は静かだった。
だが、譲る気配はなかった。
「リューデンの商隊が危険にさらされる可能性があります」
外交官は頷いた。
「その点については、護衛体制も含めて検討いたします」
エレノアは地図から目を離さなかった。
国境に近い道。
交易量の増加。
星晶石の供給。
どれも、帝国にとって無関係ではない。
彼女の背後に立つヴァルターが、静かに口を開いた。
「殿下。一つ、確認してもよろしいでしょうか」
「ええ」
ヴァルターは地図の一角を指さした。
「この道には、冬季でも通行可能な橋があると聞いております」
外交官が頷く。
「はい。数年前に改修されました」
「管理は、どちらが?」
「アルセリア王国の地方行政が担当しております」
「……なるほど」
ヴァルターはそれ以上何も言わなかった。
だが、エレノアは気づいていた。
彼が気にしているのは、橋そのものではない。
輸送経路を誰が管理し、誰が止められるのか。
その問題だった。
(……技術だけでは、国は守れない)
エレノアは改めて地図を見つめた。
リューデンが必要としているのは、単なる交易相手ではない。
対等な立場で協力できる国だ。
そのためには、交渉の一つひとつを慎重に進めなければならない。
◇
一方、王立総合学園では。
研究を終えたシオンたちが、中庭を歩いていた。
「……今日は疲れたね」
エリオットが大きく伸びをする。
「でも、面白かった!」
「まだ原因は分かってないけどな」
シオンが答える。
「だから面白いんだよ!」
エリオットは嬉しそうに笑った。
「もし新しい現象だったら、すごい発見になるかもしれないし!」
「期待しすぎないことね」
リシアが釘を刺す。
「分かってるって」
「本当に?」
「……たぶん」
「またそれ?」
三人は笑った。
そのときだった。
中庭の向こうから、カイルとディーンが歩いてきた。
「おーい、シオン!」
カイルが手を振る。
「研究終わったのか?」
「ああ。今日はここまで」
「じゃあ、ちょっと付き合えよ!」
「何に?」
「訓練場!」
シオンは嫌な予感がした。
「……まさか、俺も剣を振れって?」
「そう!」
「即答するな!」
ディーンが静かに言った。
「カイルは、ヴァルター殿から教わったことを試したくて仕方がないらしい」
「お前もだろ!」
「否定はしない」
シオンはため息をついた。
だが、断る理由もなかった。
「分かったよ。少しだけな」
「よし!」
カイルが嬉しそうに拳を握った。
その様子を見て、リシアが呟く。
「……本当に元気ね」
エリオットが笑った。
「カイルは研究より剣の方が好きだからね」
「研究の面白さを知らないのは、もったいないわ」
「逆に、リシアが剣を振ってるところも見てみたいけど」
「必要なら振るわよ」
「……え?」
エリオットが固まった。
シオンは思わず笑った。
◇
訓練場では、夕方の授業を終えた学生たちが自主練習を続けていた。
カイルとディーンは木剣を手に向かい合う。
「今日は、昨日言われたことを意識するぞ」
「分かっている」
ディーンが構える。
カイルは深く息を吸った。
そして、踏み込む。
木剣がぶつかる音が響いた。
以前より、動きは慎重だった。
大きく振りかぶらない。
無駄に踏み込まない。
相手の視線と肩の動きを見る。
ヴァルターから教わったことを、一つずつ試している。
「……お」
シオンは感心した。
「昨日より、少し動きが変わったな」
隣で見ていたエリオットが頷く。
「そうだね。前より静かな感じがする」
「剣を振る音はうるさいけどね」
リシアが言った。
その瞬間。
カイルの木剣がディーンの肩をかすめた。
「一本!」
「……今のは、確かに取られた」
ディーンが頷く。
カイルは嬉しそうに笑った。
「よし!」
だが、次の瞬間。
ディーンの反撃がカイルの胴を捉えた。
「一本」
「うおっ!?」
カイルが飛び退く。
「今のは油断した!」
「分かっているなら直せ」
「くそー!」
シオンたちは笑った。
そのとき。
訓練場の外から、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「……ん?」
シオンが振り返る。
学園の職員が、門の方へ急いでいた。
その後ろには、別の職員もいる。
普段とは違う様子だった。
「何かあったのかな?」
エリオットが呟く。
シオンは門の方を見つめた。
職員たちは、何かを話しながら足早に歩いている。
やがて、一人が声を上げた。
「王都南区の魔導設備で事故があったらしい!」
その言葉に、周囲の学生たちが振り返った。
「事故?」
「魔力灯の故障か?」
「いや、もっと大きいらしいぞ」
ざわめきが広がる。
シオンは、胸の奥に小さな違和感を覚えた。
王都南区。
魔導設備。
昨日から調べていた星晶石。
頭の中で、いくつかの言葉が並ぶ。
だが、まだ何の関係も分かっていない。
(……偶然かもしれない)
そう考えた。
そして、次の瞬間。
遠くから、鈍い音が響いた。
どん。
地面が、わずかに震えた。
「……何だ!?」
カイルが木剣を下ろす。
訓練場の学生たちが、一斉に空を見上げた。
王都の南側。
建物の向こうに、細い煙が立ち上っていた。
「……本当に事故か」
ディーンが低く呟く。
シオンは煙を見つめた。
胸の奥が、妙にざわつく。
それは、星晶石を調べたときの感覚とは違った。
もっと単純なものだ。
嫌な予感。
そして。
(……もし、関係があるなら)
シオンは考えた。
自分たちが今日記録した結果。
魔力を遮断したあとに現れる、規則的な反応。
あれが、もし王都の設備でも起きているとしたら。
もちろん、証拠はない。
だが、確認する価値はある。
「……リシア」
シオンが声をかけた。
「何?」
「さっきの実験記録、まだ先生のところにあるよな」
「ええ。提出したばかりだから」
「もう一度、見てもらおう」
リシアはシオンを見つめた。
「……事故との関係を疑ってるの?」
「分からない」
シオンは正直に答えた。
「でも、何も知らないふりをするのは嫌なんだ」
エリオットが頷いた。
「僕も行くよ」
リシアは一瞬だけ考えたあと、はっきりと言った。
「行きましょう。ただし、事故と結びつけるのは証拠が出てからよ」
「ああ」
シオンは頷いた。
カイルが木剣を肩に担ぐ。
「俺たちはどうする?」
「まだ分からない。とりあえず先生に報告してくる」
「分かった。何かあったら呼べよ」
ディーンも頷いた。
「無理はするな」
「お前たちもな」
シオンはそう答え、研究棟へ向かって走り出した。
◇
王都南区。
商業施設と住宅が入り混じる一角。
そこでは、魔導設備の修理にあたっていた作業員たちが、慌ただしく動いていた。
「魔力供給を止めろ!」
「もう止めています!」
「なら、どうして動いてるんだ!」
作業員の一人が叫んだ。
路地の中央には、公共設備用の大型魔導機器が設置されている。
街路の魔力灯や周辺施設へ魔力を分配するための装置だ。
本来なら、供給を遮断すれば停止する。
だが。
装置の内部では、淡青色の光が明滅していた。
低い振動音が響く。
金属の外装が、わずかに震えている。
「……おかしい」
責任者の男が呟いた。
「こんなこと、今まで一度も……」
その瞬間。
装置の内部で、何かが弾けた。
ばちん!
青白い火花が飛び散る。
「下がれ!」
作業員たちが飛び退いた。
装置の外装に亀裂が走る。
周囲の魔力灯が、一斉に点滅した。
そして。
供給を止めたはずの魔導機器が、再び動き始めた。
誰も操作していない。
魔力も送っていない。
それなのに。
内部の結晶が、一定の間隔で光を放っていた。
一度。
二度。
三度。
まるで、何かの合図のように。
責任者の男は青ざめた。
「……魔導騎士団を呼べ!」
その叫びが、路地に響いた。
王都の穏やかな日常に、小さな亀裂が入り始めていた。




