王女と学園の研究者たち
リューデン王国の使節団が王都に到着してから、三日目の朝。
王立総合学園の正門前には、普段とは違う緊張感が漂っていた。
門の両側には王国騎士が立ち、学園の職員たちが慌ただしく行き来している。
中庭へ続く石畳は綺麗に清掃され、校舎の入口にはアルセリア王国とリューデン王国の旗が並べられていた。
「……何だか、落ち着かないな」
シオン・クレイヴェルは、正門近くの広場を眺めながら呟いた。
隣では、エリオット・ベルンが眼鏡の位置を直している。
「そりゃそうだよ。外国の王女様が学園に来るんだから」
「そうなんだけどさ」
「しかも、研究施設の視察だよ? 僕たちの研究室も見学する予定なんだ」
エリオットは少し興奮しているようだった。
商家の出身である彼にとって、リューデン王国は馴染みのある名前だった。
星晶石の主要な産出国。
高品質の鉱石を扱う商人なら、その名を知らない者はほとんどいない。
「リューデン産の星晶石って、流通量の割に品質のばらつきが少ないんだよ」
「そうなの?」
「うん。もちろん鉱山や採掘場所によって違いはあるけど、選別と加工の技術が優れているって聞く」
シオンは興味深そうに頷いた。
「加工技術か……」
「ねえ、シオン」
そこへ、少し強い口調の声が割り込んできた。
振り返ると、リシア・エルフォードが立っていた。
深緑色の髪が肩のあたりで揺れ、尖った耳がわずかに動いている。
「あなたたち、まだここにいたの?」
「リシア。おはよう」
「おはよう、じゃないわよ。研究室の準備、終わったと思ってる?」
リシアは腰に手を当てた。
「昨日の実験記録、まだ整理できてないでしょう」
「あっ」
エリオットの顔色が変わった。
「忘れてた!」
「でしょうね!」
「いや、途中まではやったんだよ!」
「途中までじゃ意味がないの。視察で質問されたらどうするつもり?」
リシアは呆れたようにため息をついた。
シオンは苦笑する。
「俺も手伝うよ」
「当然よ。シオンも昨日、最後まで残ってたんだから」
「……はい」
三人は慌てて研究棟へ向かった。
◇
同じ頃。
王宮を出発した馬車の中で、エレノア王女は今日の予定を確認していた。
窓から差し込む朝日が、彼女の銀色の髪を柔らかく照らしている。
「まず学園長との面会。その後、魔導技術研究施設の視察ですね」
向かいに座る外交官が頷く。
「はい。午後には、学生たちとの意見交換の時間も設けられております」
「それは楽しみです」
エレノアは微笑んだ。
アルセリア王国の王立総合学園。
優秀な学生たちが集まり、魔法、剣術、政治、魔導技術など、さまざまな分野を学ぶ場所だ。
特に魔導技術の研究は、リューデン王国にとって大きな関心事だった。
リューデンには星晶石がある。
だが、その星晶石を使った高度な魔導技術の研究では、アルセリアが進んでいる分野も多い。
両国が協力すれば、新たな可能性が生まれるかもしれない。
「ヴァルター」
エレノアは窓の外へ声をかけた。
馬車に並走する馬上の男が、静かに顔を向ける。
「何でしょう、殿下」
「学園には、剣術を学ぶ学生も多いそうですね」
「そのようです」
「あなたも、少し興味があるのではありませんか?」
ヴァルターはわずかに考えた。
「若い剣士がどのような訓練を受けているのか、見てみたいとは思います」
「では、時間があれば訓練場にも立ち寄りましょうか」
「殿下」
「……はい」
「本日の主目的は、魔導技術研究施設の視察です」
エレノアは小さく笑った。
「分かっています。あくまで時間があれば、ですよ」
「それならば」
ヴァルターは短く答え、再び前方へ視線を戻した。
その姿を見ながら、エレノアは思った。
この男が剣を握るところを、学園の学生たちが見たら、どんな反応をするのだろう。
きっと、驚くだろう。
だが、今日の訪問は外交の一環だ。
剣の腕前を披露するために来たわけではない。
エレノアは、そう自分に言い聞かせた。
◇
午前。
王立総合学園の正門に、リューデン王国の使節団が到着した。
馬車が止まり、学園の職員たちが一斉に姿勢を正す。
最初に降りたのは、リューデン王国の外交官だった。
続いて、エレノア王女が姿を現す。
朝の光を受けて輝く銀髪。
落ち着いた表情。
礼装に身を包んだその姿は、周囲の視線を自然と集めた。
そして、馬車の側へ歩み寄ったのが、ヴァルターだった。
黒に近い濃い茶色の髪。
鍛え抜かれた体格。
年齢を重ねた者ならではの落ち着きを備えた、壮年の剣士。
腰には一本の剣を帯びている。
派手な装飾はない。
だが、その立ち姿には、周囲の空気を引き締めるような存在感があった。
「リューデン王国、エレノア王女殿下。ようこそお越しくださいました」
学園長が深く礼を取る。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
エレノアも丁寧に礼を返した。
「貴学園の研究について、以前から関心を持っておりました。こうして見学できることを嬉しく思います」
「光栄でございます」
儀礼的な挨拶が続く。
その後、使節団は学園の案内を受けることになった。
ヴァルターは、エレノアの少し後ろを歩いていた。
視線は絶えず周囲へ向けられている。
学生たちの動き。
建物の配置。
通路の幅。
窓の位置。
護衛として必要な情報を、静かに確認していた。
そのとき。
「……あれが、ヴァルターか」
少し離れた場所から、小さな声が聞こえた。
ヴァルターは視線だけを動かす。
そこには、二人の少年が立っていた。
一人は、明るい表情をした少年。
もう一人は、短い赤茶色の髪を持つ、真剣な眼差しの少年だった。
カイルとディーンである。
◇
「……すげえ」
カイルは思わず呟いた。
「何がだ?」
隣のディーンが尋ねる。
「分からないのか?」
「何が?」
「あの人だよ!」
カイルは使節団の後方を歩くヴァルターを見つめていた。
「何か……すごいんだよ」
「説明になっていないぞ」
「いや、俺にも分からないんだけどさ」
カイルは首を傾げた。
ヴァルターは、ただ歩いているだけだった。
剣を抜いているわけでもない。
戦気を放っているわけでもない。
それなのに、目が離せない。
無駄のない足運び。
周囲を見渡す視線。
そして、いつでも動けそうな自然な姿勢。
カイルは、思わず自分の足元を見た。
(……俺とは、何かが違う)
ディーンも静かにヴァルターを観察していた。
「……隙がないな」
「だろ?」
「いや、正確には……」
ディーンは言葉を探した。
「隙があるように見えるのに、踏み込める気がしない」
カイルは目を見開いた。
「それだ!」
二人が小声で話していると、ヴァルターがこちらへ視線を向けた。
一瞬。
目が合った。
「……っ!」
カイルは思わず息を止めた。
ヴァルターは二人を見た後、静かに視線を戻した。
それだけだった。
だが、カイルの胸は高鳴っていた。
「……今、こっち見たよな?」
「ああ」
「気づかれてた?」
「おそらくな」
ディーンは小さく息を吐いた。
「……あれが、世界最強格の剣士か」
カイルは拳を握った。
「いつか、あの人と剣を交えてみたい」
「今はやめておけ」
「分かってるって!」
カイルは笑った。
だが、その目には確かな憧れが宿っていた。
◇
魔導技術研究棟。
シオンたちは、視察に向けた最後の準備を進めていた。
「エリオット、そっちの記録は?」
「大丈夫! 今度こそ全部揃えた!」
「リシア、測定器の調整は?」
「終わってるわ。念のため、もう一度確認するけど」
リシアは手際よく装置を操作していた。
机の上には、星晶石を利用した魔導回路の試作品が置かれている。
複数の小さな結晶を組み合わせ、魔力の流れを観察するための実験装置だった。
シオンは、その一つを手に取った。
「……よし」
小さな星晶石が、淡く光る。
魔力が回路を通り、測定器の針が動いた。
「安定してるね」
エリオットが覗き込む。
「うん。今のところ問題ない」
「ただし、長時間動かした場合の結果はまだ不十分よ」
リシアが指摘した。
「その点は、質問されたら正直に説明しましょう」
「もちろん」
シオンは頷いた。
研究は、まだ途中だ。
完成していないものを完成したように見せるつもりはない。
むしろ、分からないことがあるからこそ、研究する意味がある。
そのとき。
廊下から足音が聞こえてきた。
研究室の扉が開く。
「皆さん、準備はよろしいですか?」
案内役の教員が顔を出した。
「使節団の皆様が、まもなくこちらへ到着されます」
三人は顔を見合わせた。
「……来たね」
シオンが呟く。
「緊張してきた……」
エリオットが眼鏡を直した。
「今さら何言ってるのよ」
リシアは腕を組んだ。
「普段どおり説明すればいいだけでしょう」
「リシアは緊張しないの?」
「するわよ」
「するんだ!?」
「当たり前でしょう。でも、緊張して何も話せなくなったら意味がないじゃない」
その言葉に、シオンは小さく笑った。
「確かに」
三人は姿勢を正した。
やがて、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「こちらが、学生たちによる魔導技術研究室でございます」
扉が開いた。
◇
「……まあ」
研究室に入ったエレノアは、興味深そうに周囲を見渡した。
銀色の髪が肩先で揺れる。
机の上には、さまざまな魔導回路や実験器具が並んでいる。
壁際には測定装置が置かれ、棚には研究資料が整然と収められていた。
「学生の皆さんが、こちらで研究されているのですね」
「はい」
案内役の教員が頷く。
「本日は、実際に研究を進めている学生たちから説明をさせていただきます」
エレノアは微笑んだ。
「ぜひ、お願いします」
シオンたちは一歩前へ進んだ。
「シオン・クレイヴェルです」
「エリオット・ベルンです!」
「リシア・エルフォードです」
三人は順番に名乗った。
「本日は、よろしくお願いいたします」
エレノアは丁寧に頷いた。
「こちらこそ。エレノアと申します」
その後ろでは、ヴァルターが静かに周囲を見渡していた。
シオンは、思わずその姿へ目を向けた。
(……あの人が、ヴァルターか)
カイルから何度も名前を聞いていた。
世界最強格の剣士。
リューデン王国の王女を守る護衛。
しかし、実際に見ると、想像していた印象とは少し違った。
もっと威圧的な人物かと思っていた。
だが、ヴァルターは静かだった。
必要以上に周囲を威圧することもなく、ただ自然に立っている。
それでも、なぜか存在感がある。
(……不思議な人だな)
「クレイヴェルさん?」
「あっ、はい!」
エレノアに声をかけられ、シオンは慌てて姿勢を正した。
「失礼しました」
「いえ。こちらの装置について、説明していただけますか?」
「はい」
シオンは実験装置へ向き直った。
「これは、星晶石を利用した魔力伝導の測定装置です」
エレノアの目が輝いた。
「星晶石の研究なのですね」
「はい。結晶の純度や配置によって、魔力の伝わり方がどう変化するのかを調べています」
「……興味深いですね」
エレノアは装置へ近づいた。
「リューデンでも、星晶石の加工方法による性能の違いは研究されています」
「そうなんですか?」
シオンは思わず身を乗り出した。
「はい。特に、結晶の向きと魔力の流れについては、長年研究が続けられています」
「やっぱり……!」
シオンの表情が明るくなった。
「実は、昨日そのことを本で読んでいて、すごく気になっていたんです」
「まあ」
エレノアは微笑んだ。
「では、同じことに関心があるのですね」
「はい!」
シオンは頷いた。
「もし、結晶の向きをうまく利用できれば、魔導回路の効率を上げられるんじゃないかと思っていて……」
話し始めると、言葉が止まらなくなった。
星晶石の純度。
結晶構造。
魔力の流れ。
回路の配置。
シオンは、次々に考えを口にした。
エリオットも途中から会話に加わり、リシアが実験結果を示しながら補足する。
エレノアは、興味深そうに耳を傾けていた。
やがて、シオンがはっとした。
「……あ」
「どうしました?」
「すみません。つい、話しすぎてしまって……」
エレノアは小さく笑った。
「いいえ。とても面白いお話でした」
「本当ですか?」
「ええ」
エレノアは静かに頷いた。
「星晶石は、私たちの国にとって大切な資源です。でも、皆さんのように新しい使い方を考えてくださる方がいるのは、嬉しいことですね」
シオンは少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます」
◇
視察が進む中、エレノアは一つの装置の前で足を止めた。
「こちらは?」
リシアが答える。
「魔力の流れを複数の経路へ分配するための試験装置です」
「分配、ですか」
「はい。現在は、分配した先でどれだけ損失が出るかを調べています」
リシアは装置の構造を示した。
「ただ、まだ効率がよくありません。結晶の配置を変えると改善する場合もありますが、安定しないんです」
「なるほど……」
エレノアは考え込んだ。
「リューデンでは、星晶石の加工時に結晶の方向を揃える技術があります」
シオンが顔を上げた。
「方向を揃える?」
「ええ。もちろん、すべての結晶に同じ方法が使えるわけではありませんが……」
エレノアは外交官へ視線を向けた。
「加工技術について、共有できる資料はありましたね?」
「はい。公開可能な範囲のものをご用意しております」
「それなら、学園にもお渡しできるかもしれません」
シオンたちは顔を見合わせた。
「……いいんですか?」
エリオットが尋ねる。
「正式な手続きは必要ですが、技術交流の一環として検討できると思います」
エレノアは微笑んだ。
「私たちの国の技術が、皆さんの研究に役立つのであれば嬉しいです」
シオンの胸が高鳴った。
リューデン王国の加工技術。
それを学べれば、研究は大きく進むかもしれない。
「ありがとうございます!」
思わず、深く頭を下げた。
エレノアは少し驚いた後、楽しそうに笑った。
「まだ、決まったわけではありませんよ?」
「……あっ」
シオンは顔を上げた。
「そうでした」
エリオットが吹き出し、リシアも呆れたように笑った。
「シオン、気が早すぎるわよ」
「……ごめん」
研究室に、和やかな笑い声が広がった。
◇
視察が一段落した頃。
エレノアは、研究室の窓から見える訓練場へ目を向けた。
そこでは、数人の学生が剣術の練習をしていた。
「……あちらでは、武術の授業を?」
案内役の教員が頷いた。
「はい。剣術や槍術、格闘術などの訓練を行っております」
「戦気の指導も?」
「はい。基礎から段階的に教えております」
エレノアは、ヴァルターへ視線を向けた。
「……少し、見学してもよろしいでしょうか?」
教員は笑顔で答えた。
「もちろんでございます」
ヴァルターは静かに息を吐いた。
「殿下」
「分かっています。見学だけです」
「……承知しました」
そのやり取りを見て、シオンは少し首を傾げた。
どうやら、エレノア王女とヴァルターの間では、こうした会話が日常的に交わされているらしい。
どこか親しみを感じる光景だった。
◇
訓練場では、カイルとディーンが木剣を手に向かい合っていた。
「……行くぞ!」
カイルが踏み込む。
ディーンは木剣を構え、正面から受け止めた。
乾いた音が響く。
カイルはすぐに身体をひねり、横から斬り込む。
ディーンは一歩下がり、木剣を滑らせて受け流した。
「速くなったな」
「そっちこそ!」
カイルは笑った。
二人の動きは、先日の模擬戦よりも少しだけ鋭くなっていた。
戦気の訓練を始めたことで、身体の使い方を意識するようになったからだ。
まだ、戦気を安定して纏うことはできない。
だが、呼吸や姿勢を整えるだけでも、剣の動きには変化が生まれていた。
「はあっ!」
カイルが踏み込む。
ディーンは受け止めた。
その瞬間。
「……ほう」
訓練場の入口から、低い声が聞こえた。
二人が振り返る。
そこには、エレノア王女と使節団の一行が立っていた。
そして、その後方に。
「……ヴァルター!」
カイルが思わず声を上げた。
ディーンが慌てて木剣を下ろす。
「おい、カイル!」
「あっ!」
カイルも慌てて姿勢を正した。
エレノアは微笑んだ。
「どうぞ、続けてください。少し見学させていただくだけですから」
「は、はい!」
カイルは大きく頷いた。
だが、もう剣の練習どころではなかった。
目の前に、世界最強格の剣士がいる。
それだけで、胸が高鳴っていた。
ヴァルターは、二人の木剣を静かに見つめていた。
「……よい構えだ」
短い言葉だった。
カイルとディーンは、同時に顔を上げた。
「ただし」
ヴァルターは続けた。
「二人とも、踏み込みの瞬間に肩へ力が入っている」
カイルは目を見開いた。
ディーンも、自分の肩へ視線を向けた。
「力が入れば、動きが読まれやすくなる。特に、戦気を扱う際には余計な力が妨げになることもある」
カイルは、昨日の授業を思い出した。
グレイグ教官にも、同じようなことを言われていた。
「……なるほど」
ヴァルターは静かに頷いた。
「よい剣を振るうには、力を込めることだけでなく、力を抜くことも必要だ」
その言葉に、カイルは深く頷いた。
「ありがとうございます!」
ヴァルターは小さく頷き返した。
エレノアが微笑む。
「ヴァルター。せっかくですから、少し指導して差し上げては?」
「殿下」
「もちろん、学園の先生方がよろしければ、ですが」
その言葉に、周囲の学生たちがざわめいた。
世界最強格の剣士による指導。
そんな機会は、滅多にない。
カイルの目が輝いた。
「……ぜひ!」
思わず一歩前へ出る。
「お願いします!」
ディーンも深く頭を下げた。
「私からも、お願いいたします」
ヴァルターは二人を見た。
そして、エレノアへ視線を向ける。
「……殿下」
「ふふ」
エレノアは楽しそうに笑った。
「たまには、よいではありませんか」
ヴァルターは小さく息を吐いた。
「……承知しました」
その言葉に、カイルは思わず拳を握った。
「やった!」
ディーンも、普段より少しだけ表情を明るくした。
ヴァルターは静かに訓練場へ進み出る。
腰の剣には触れず、近くに置かれていた木剣を一本手に取った。
「では」
低い声が響いた。
「まずは、二人の剣を見せてもらおう」
カイルとディーンは顔を見合わせた。
そして、同時に頷いた。
世界最強格の剣士。
その前で、今の自分たちがどこまで通用するのか。
期待と緊張が、胸の中で入り混じっていた。
ヴァルターは木剣を片手に、静かに立った。
構えらしい構えは取らない。
ただ、自然に立っているだけだった。
それなのに。
カイルは、思わず息を呑んだ。
(……何だ、これ)
目の前にいるのは、一人の剣士。
それだけのはずなのに。
どこから踏み込んでも、届く気がしない。
ディーンも同じことを感じているようだった。
ヴァルターは二人を見て、静かに言った。
「遠慮はいらん」
その声には、揺るぎない落ち着きがあった。
「二人で来なさい」
カイルの胸が、高鳴った。
ディーンが木剣を構える。
二人の視線が交わった。
「……行くぞ、ディーン」
「ああ」
次の瞬間。
二人は同時に地面を蹴った。
エレノア、ヴァルターのイメージ添付してます。




