↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群星のヴェルシェリア  作者: セイ
第一部 目覚めの灯火

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/116

王都から届いた知らせ

 冬が過ぎ、クレイヴェル領に春が訪れた。


 シオン・クレイヴェルは十二歳になっていた。


「シオン兄さま! 王都からお手紙です!」


 朝食の席に、ミリアが勢いよく飛び込んできた。


 その手には、青い封蝋の押された封筒が握られている。


「ミリア、食堂では走らないの」


 母マリアが注意する。


「でも、王都からです!」


「王都からでも同じよ」


 ミリアは足を止めたが、目だけはきらきらと輝いていた。


 シオンは封筒を受け取った。


 差出人は、レティシア・ヴァイン。


 王立魔導技術院で世話になった魔導技術者だった。


「……何だろう?」


 封を開くと、見慣れた勢いのある文字が並んでいた。


『シオン君へ。


 元気にしてる?


 送ってくれた魔導回路の劣化警告装置、フィオナと一緒に確認したわ。


 率直に言うと、面白い!


 ただし、改善点が山ほどあるわ!


 特に、警告が出る条件の設定が甘い。星晶石の品質が違うだけで誤作動する可能性があるし、振動への対策も足りない。


 というわけで、王都で開かれる地方魔導技術交流会に、試作品を持ってきてみない?


 参加費は技術院側で負担する予定よ。


 もちろん、家族の許可が必要だから、まずは相談してね。


 追伸。壊れるかもしれないから、予備は二つ作っておくこと!』


 シオンは最後の一文を読んで苦笑した。


「……相変わらずだなあ」


「何が書いてあったの?」


 エリシア姉さんが尋ねた。


「王都の交流会に、僕たちの作った装置を持ってこないかって」


「まあ!」


 マリアが驚いた。


 フィリップ兄さんも身を乗り出す。


「それって、王都の技術者たちに見てもらえるってこと?」


「うん。そうみたい」


 父エドガーは、静かに手紙を受け取った。


 内容を確認し、少し考える。


「……面白い話だな」


 シオンは顔を上げた。


「行ってもいいですか?」


「すぐには決められん。旅費もあるし、領地の仕事も調整しなければならない」


「……はい」


「だが、お前一人の勉強では終わらないかもしれない」


 エドガーは、手紙を机に置いた。


「この装置が本当に役立つなら、村の人たちにも利益がある」


 シオンは力強く頷いた。


     ◇


 翌日。


 シオンは村の鍛冶場を訪れていた。


「王都の交流会?」


 鍛冶職人のグレンが目を丸くした。


「はい。試作品を見てもらえるそうです」


「そいつはすごいな!」


 グレンは大きく笑った。


「じゃあ、もっとまともなものを作らんとな」


「……ですよね」


 二人は、作業台に置かれた警告装置を見つめた。


 小さな金属製の箱。


 中央には赤い星晶石。


 回路の魔力が一定以下になると、警告灯が点灯する仕組みだ。


 しかし、実際に荷車へ取り付けてみると、いくつか問題が見つかっていた。


 石畳の道を走ると、振動で接点がずれる。


 寒い朝には、警告灯が点滅することがある。


 さらに、安価な星晶石を使うと、感度が大きく変わってしまう。


「……このままじゃ、売り物にはならないですね」


 シオンが呟いた。


「まあな」


 グレンは工具を手に取った。


「でも、使えないわけじゃない」


「……はい」


「直せばいいだけだ」


 その言葉に、シオンは笑った。


「……そうですね!」


     ◇


 それから二週間。


 シオンとグレンは、試作品の改良に取り組んだ。


 振動に耐えるため、内部の固定方法を変更する。


 星晶石の品質による差を減らすため、調整用の回路を追加する。


 さらに、警告灯が点灯したとき、どの程度の劣化なのかを判断できるようにした。


 だが、問題は次々と現れた。


「……また誤作動した」


 シオンが肩を落とす。


 グレンは装置を軽く叩いた。


「ここが緩んでるな」


「……昨日、直したところなのに」


「直したから、別の場所に負担がかかったんだろ」


 シオンは思わず笑ってしまった。


「……王都でも、同じことを言われました」


「そうか?」


「はい。回路は全部つながってるから、一か所だけ見てもだめだって」


 グレンは満足そうに頷いた。


「魔導装置も、荷車も、似たようなもんだな」


     ◇


 交流会の一週間前。


 ついに、改良型の警告装置が完成した。


 以前より少し大きくなったが、耐久性は改善している。


 グレンが試験用の荷車を引いた。


 石畳。


 土道。


 小さな段差。


 装置は正常に動作していた。


「……よし!」


 シオンは思わず拳を握った。


 グレンも笑った。


「これなら、見せても恥ずかしくないだろう」


「はい!」


 ただし、まだ長期間の試験は終わっていない。


 実用化には、もう少し時間が必要だった。


 それでも、シオンは嬉しかった。


 自分たちが作ったものが、少しずつ形になっている。


 その実感があった。


     ◇


 王都への出発が決まったのは、その翌日だった。


 エドガーは書斎でシオンに告げた。


「交流会には、私も同行しよう」


「……父上も?」


「ああ。領地の設備に関係する話だ。領主としても確認しておきたい」


 シオンは頷いた。


「ありがとうございます!」


「それから、グレンにも同行してもらう」


「……えっ?」


 シオンは驚いた。


 エドガーは微笑んだ。


「装置を作ったのは、お前一人ではないだろう?」


 シオンは少し考えた。


 そして、力強く頷いた。


「……はい!」


     ◇


 王都への旅は、以前より賑やかだった。


 馬車の中には、シオン、エドガー、グレンの三人。


 グレンは、王都へ行くのが十数年ぶりだという。


「……あのころは、まだ若かったな」


 グレンが懐かしそうに言った。


「王都の鍛冶場で働いてたんですか?」


「ああ。短い間だけな」


「どうして戻ってきたんですか?」


 グレンは少し笑った。


「村の鍛冶場を継ぐためだ」


 シオンは頷いた。


「……そうだったんですね」


「王都は確かにすごい。技術も、人も、道具も揃ってる」


 グレンは窓の外を見た。


「でも、村にだって必要な仕事はある」


 シオンは、その言葉を静かに聞いていた。


 王都で学ぶこと。


 故郷で働くこと。


 どちらが上というわけではない。


 それぞれに、大切な役割があるのだ。


     ◇


 五日後。


 三人は王都へ到着した。


 大きな城壁。


 賑やかな市場。


 遠くに見える王城。


 久しぶりの王都だった。


「……懐かしい」


 シオンが呟く。


 グレンは周囲を見回していた。


「……ずいぶん変わったな」


 エドガーが笑った。


「王都は、いつも変わっていくからな」


 シオンは胸の奥が少し高鳴るのを感じた。


 また、ここへ戻ってきた。


 そして、今回は研修生としてではない。


 自分たちが作った装置を、見てもらうために。


     ◇


 王立魔導技術院の正門前。


「シオン君!」


 聞き慣れた声が響いた。


 振り向くと、赤い髪を揺らしながらレティシアが駆け寄ってきた。


「久しぶり!」


「レティシアさん!」


「元気そうね!」


「はい!」


 その後ろには、フィオナ・リュミエールも立っていた。


「お久しぶりです、シオン君」


「フィオナさん!」


 フィオナは穏やかに微笑んだ。


「手紙で読んでいましたが、本当に装置を作ったんですね」


「はい。でも、グレンさんにたくさん助けてもらいました」


 シオンは隣のグレンを紹介した。


「こちらが、鍛冶職人のグレンさんです」


 グレンは少し緊張した様子で頭を下げた。


「……どうも」


 レティシアは満面の笑みを浮かべた。


「よろしく! ぜひ、詳しく話を聞かせてください!」


 グレンは少し驚いた。


 だが、すぐに笑った。


「……こちらこそ」


     ◇


 交流会の前日。


 シオンは技術院の中庭を歩いていた。


 懐かしい場所だった。


 ここで、カイルと何度も剣術の練習をした。


 最初はまったく歯が立たなかった。


 今でも、勝てる自信はない。


 だが、少しは強くなったはずだ。


「……カイル、元気かな」


 シオンが呟いた、そのとき。


「おい」


 背後から声がした。


 振り向くと、深い紺色の髪をした少年が立っていた。


 鋭い灰色の瞳。


 少し背が伸びた姿。


 だが、笑い方は変わっていなかった。


「……カイル!」


「久しぶりだな、シオン」


 カイル・レインフォードは、にやりと笑った。


「お前が王都に来てるって聞いて、探してたんだ」


「そうだったんだ!」


「ああ。それで、当然やるよな?」


 カイルは、木剣を一本投げてよこした。


 シオンは慌てて受け取った。


「……いきなり?」


「当たり前だろ」


 カイルは、もう一本の木剣を構えた。


「お前がどれだけ強くなったか、確かめてやる」


 シオンは思わず笑った。


「……分かった!」


 木剣を構える。


 王都で出会った友人。


 久しぶりの再会。


 だが、二人の間に遠慮はなかった。


「……行くぞ!」


 カイルが踏み込んだ。


 シオンは、その動きを見た。


 以前より速い。


 だが、今の自分なら。


「……っ!」


 木剣がぶつかり、乾いた音が響いた。


 カイルが少し驚いた顔をした。


「……おっ?」


 シオンは笑った。


「……少しは、強くなったでしょ?」


 カイルは嬉しそうに笑い返した。


「ああ!」


 そして、もう一度剣を構えた。


「……面白くなってきたな!」


 夕暮れの中庭に、二人の笑い声と木剣の音が響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。