20-2
女を見ると、背中に弓矢を背負い、手には長めの槍を持っている。
同時に、共にいる坊主も槍を持っていた。
「遅いも早いもあるかい。決着をつける前にそれは無いじゃろ」
「ふん!わしは、あんたらみたいな妖怪には一刻も早く消えて欲しいんだよ!」
「その理由は何じゃ?」
空さまが女に問う。
「理想の仏国土を作る為さ。神道の、しかもお伽話にしか存在せぬ様な妖怪は邪魔なだけだ」
「ほほう。言ってくれるな?こちらとて、日本の、そして日本人の心を時には戒め、またひとの心が
穏やかとなり、自然を受け入れ、心が良い方へ向くようにと、人との心から生まれて来ているもののけなのだ。わらわ達は、自然と共にありのまま生きる意味も持っているんじゃよ。
しかし、今、外来の仏教は教えが人により複数あって、それぞれが、その優れた教え同士として対立し、それ故争いの引き金となる様では、それこそ 本末転倒ではないのかえ?人間の心の根っこに悪が潜み、消し去る事が出来ないから、こうして争いを起こそうとするんじゃないのかえ?それがある限り、ひとつなんか出来やせぬよ?」
「妖怪ふぜいがわしに説教か?このたわけが!」
「うん?ちょい待ち。さっきから聞いておれば、わぬしは女なのに『わし』とか言うのかい?似合わないねぇ」
空さまが、腹を手で押さえて笑った。
「うるせーよ!自らをわしっていう女はわしの村じゃごろごろ居るんだよ。言って何が悪い!」
「ほほう。わぬしの村の習慣というやつかえ?じゃあ仕方ないのか?それにしても言葉が荒いのう?」
「このー!言わせておけばー!」
女の手が怒りで震えていた。
「空さま。茶化してる場合じゃあ・・・」
あたいは制止しようと空さま方に向いた時、首にかけていた3つの金色の勾玉の首飾りに目がいった。
普段はこんな勾玉を身につけておらず、この、千歯山に登る前に着けていたのだ。
「空さま。その勾玉をいったいどうしたのです?」
「これか?妖力を高める為に使う道具じゃよ。もしかしてキクも欲しいか?」
「はい。それで妖力が高まって、空さまの力になれるのなら」
「・・・そうか。それなら一つをキクに授けよう」
空さまは、首飾りを外し、勾玉の一つをあたいの腕に輪っかを作って通すと、空さまは残りの二つを耳飾にして着け直した。
「これでよしと」
空さまは何故か微笑んだ。
「しかし何だな?雪女よ?とても、あの寺で薬王丸とかいう童子や他の者を品行方正にて育てていた者の姿とは思えぬ。
ひょっとして今の姿こそが『裏の顔』なのかえ?」
「あー。そうさ。子供たちを育て、立派にするには、礼儀正しく、品行方正じゃなきゃいかんとわしは思うよ。だからこその教養よ」
「それで、その態度か。ふざけた奴じゃ。わぬし雪女は、教養に優れ、良いという村の人々の評判があるようじゃが、一方でこの様な裏があるとはのう。呆れるばかりじゃ」
「何を言ってんだ!仏教を広める為には、妖怪が邪魔なのよ!だから、消えてもらう」
「ほおう。それがわぬしの理由かえ?ならばわらわは徹底的に抵抗するとしようか」
そう言うと、先に身構えたのは空さまだった。
そして直ぐに女も身構える。
「では、参る!」
先手を切ったのは雪女のほうだった。
勢いよく最初の一突きを空に向ける。
空はしゃがみ、槍の柄を掴むと女の懐に入り、腹めがけて蹴りを食らわした。
雪女はその蹴りに怯んだが、柄が長く、手から離れる事は無かった。
槍の柄がしなり、その反動を利用して雪女は後方へ飛んだ。
雪女は空からは距離を置いたが、そのすぐ後ろにはポン太郎が待ち構えていて、拳で雪女を吹っ飛ばす。
その直ぐ後に、坊主がポン太郎を捕まえようとするが、ポン太郎はそれをかわした。
それから、持っていた団扇で坊主を吹き飛ばす。
坊主たちは転がりながら、後方にある岩に身体を打ちつけられる。
それを見てからあたいは、少し妖力を使い、高めに飛ぶと、清めの水場を発見し、其処から
強力な水鉄砲を坊主にに目掛けて放して封じ、空さまの手助けをした。
「修行の時とは違う。これが、勾玉の力なの?」
坊主と雪女。そしてキクたちとの距離が離れ、空さまと雪女の一対一の勝負の場が出来上がる。
そして、空さまと雪女の二人は更に、奥の岩場へと走り出した。
その時、空さまの割と近くに居た坊主が空さま目掛けて槍を放ったが、あたいはそれを水鉄砲で当てて軌道を反らす。
空さまと雪女の攻防が始まる。
空さまは手に光を溜め、雪女は矢に何かの紙を走りながら器用にも括り付ける。
そして、その矢を空目掛けて雪女が放ったその時。
直ぐに矢が燃え、燃え尽きた。
「!?」
突然の事に顔をしかめる雪女。
「待たせたな空。加勢に来たぞ!」
「・・・その声は、藍様!」
声のした方向には、金髪の短髪で、藍色の服を纏った九尾の妖狐が立っていた。
その横には乾坤の姿も見える。




