18
村の様子を見て帰ったその日の夜。
あたいは直ぐに、空様の側に行った。
「空様!聞きましたよ!姿を消す事が出来ないって!」
「キク。どうしたのじゃ?そんなに慌てて?落ち着け?それと、わらわの事をだれから聞いたのじゃ?」
「ポン太郎おぢさんから」
「ポン太郎か。あのお喋りめ」
空様は冷静だ。
「空様。どうしてそんな大切な事を黙っていたんですか!」
「そりゃあ、キク。わぬしに心配掛けたくないからじゃ。もしも知れたら、妖術伝授、その他もろもろ、
支障をきたすのが明白じゃったからのう?だが、遂に知られてしもうたなぁ」
「あのっ!空様!あたい、頑張りますから!」
「頑張るって、何をじゃろうか?」
「空様から教えて貰った妖術で、空様の事を護りたいんです!」
「そうか。頼もしい事を言ってくれるな。それならば、今日から早速、修行と行こうか」
「はい」
「じゃあ、わらわについて来なさい」
「はい」
あたいは、空様の後を付いていく。そして、着いた先は海岸だった。
「ここなら広いし、いろいろ出来るでな。じゃあ、早速やろうか。先ずは水を使った術からじゃ」
空様は、海に体を向け腕を平行に上げて、言葉を唱える。
「ここにまします 水のめぐみよ 我の前にありてあやつられたもうことなり」
空様は、そう唱えると馬一頭分はあろうかという大量の海水の塊を持ち上げてみせて、直ぐに扇状に海水を散らばせる。
「キク。わぬしもやってみい?」
空様にそう言われて、あたいは、海に向けて手を翳して、指先で小さな円を描きながら同じ様に唱える。
「ここにまします 水のめぐみよ 我の前にありてあやつられたもうことなり」
あたいは前に教わった通りに、指で円を描き、水を切り取るのを想像しながら手を持ち上げる。
すると、海水は小さく球状に切れて水玉となって浮き上がる。
その水玉は、あたいの心の中では、前より少し大きく出来た様に思えた。
「えいっ!」
あたいは、手をぱっと開く。すると水玉は扇状になって飛散した。
「ふむ。上手く行った様じゃな。その調子じゃ」
空様は、あたいに近寄ると頭を撫でてくれた。
頭を撫でてくれると、何よりも嬉しい。
「よし。それじゃ戻ろうかね」
空様は、そう言うと海岸を離れて戻ろうとする。その足取りは結構速い。
「待ってください!さっきいろいろ出来るって・・・」
「はっはっは。確かにわらわはそう言うたな。じゃあ、もう一つだけやってやろうかね」
空様は笑いながらも首をそっぽに向けて、何か探している様だった。
「おっ!あそこに流木があるなぁ。あれを使うか。・・・ここにまします もくのたましいよ 我の前にありてあやつられたもうことなり」
空様がそう唱えると、空様から離れた所にある流木が勢い良く宙に浮き、側まで移動すると、どすっという音を立てて落ちた。
「キクや。これを持ち上げてみんしゃい?」
空様が流木を指差した。あたいは、空様と同じく唱える。
「ここにまします もくのたましいよ 我の前にありてあやつられたもうことなり」
あたいは、手からずっと離れている流木を持ち上げる積りで腕から動かした。
その時、手から離れている流木の重さが伝わる。さっきの水玉は重さなど感じなかったけれど、この流木には明らかな重さを感じた。
「おや?キクには少し重かったかなぁ?」
「どうして分かるんですか?」
「顔に出ておったんよ。顔がちいとばかり強張っていたよ?」
「そうですか」
あたいはどうやら、直ぐに顔に出てしまうらしい。
「よし。これでわぬしの力量も分かったし、今度こそ戻るとしよう」
「はいです」
そして。
証乗寺にほど近い林の中。
そこに再び空、キク、乾坤、ポン太郎、ポン子が集まった。




