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あたいは、ポン太郎おぢさんの後をついて行った。
しばらくすると、村人の住む長屋に着いた。
「キクちゃん。こっちだポン」
ポン太郎が手招きをする。
「はーい」
「しーっ!静かにこっちへ来るポン」
「・・・」
あたいは、しまったと思い手で口を塞いだ。
そしてポン太郎の元まで来る。
「ほら。ここから覗いて見るポン」
ポン太郎は、小声でキクに言う。
あたいは、格子越しに中を覗く。
すると中では男二人が、対面してお互いの腕をつねりあっていた。
「何か、お互いの腕の皮を引っ張り合いながら何か言ってますよ?」
「それを聞いてみるのだポン」
そう言われてあたいは、男二人の方へ耳を傾ける。
「ぬうっくく!これでどないだ?参ったか!」
「お主こそ参ったと・・・言わんか!しぶといのう!」
男二人の顔は、この世のものとは思えない程に引きつっていた。
その形相に、あたいは怖くなって思わず身を引く。
「・・くっ!しぶといな。いい・・か?痛いとか参ったと言えばお主の負けじゃ」
「何のなん・・の」
身を引いたあたいは、ポン太郎おぢさんに質問する。
「あのー。あの人間たち、明らかに痛そうなのに我慢してますよ?何でです?」
「あれはだポン。我慢比べをしているのだポン」
「我慢比べ?」
「そうだポン。特に娯楽もなく、更に話す事が無くなると、我慢比べとかやり出すのだポン。
そして、この行為を人間はいたちごっこと言うらしいポン」
「いたちごっこ・・・変なの」
「そう言っちゃいけないポン。ワシはこういうの見て、娯楽が少ないのを知ったポン」
「じゃあ、それで、夜の悪戯作戦を?」
「そうだポン。多分、刺激が足りてないのだポン。それで思い付いたのだポン。
その証拠に、怖いのを我慢してまで沢山の村人が見に来てるポン」
「人間って、刺激が欲しいんですね」
「そういう事だポン。さて、次に行くポン」
「何処ですか?」
「内緒だポン」
あたいとポン太郎おぢさんは、長屋を後にした。
そして、次の場所に向かう途中であたいは、ポン太郎おぢさんに、空様の事について質問することにした。
「ねえ。ポン太郎おぢさん」
「今度は何だポン?」
「さっき言ってた空様の秘密を教えて欲しいんですけど」
「空さんの秘密かポン?それは秘密と言っても大した事ではないポン」
「あたいは、秘密っていうから・・・」
「いいかい、キクちゃん。空さんは、退魔師によって、実体化させられてしまったのだポン。
それで、日が照る内は、外に出ると目立つので、迂闊に行動出来ないのだポン」
「それって大した事あるでしょ!」
「ワシはそうは思わないポン。もののけは、普段ひっそりとしていて、でも時々は人間の為に刺激を
与えて、それで生活を少しでも楽しくして貰えればいいのだポン。ただ、空さんは、退魔師に知れ渡る伝説のもののけの一つだから、そうも行かないポン。
尚更の注意が必要なんだポン」
「空様って、過去に何か悪い事をしたの?」
「いや。していないポン。人間が勝手に悪者に仕立てあげたのだポン。長い月日が経つと、人間が勝手に想像して、話に尾ひれが付くと云うあれだポン」
「そんなぁ」
「キクちゃん。落ち込んじゃだめだポン。空さんは大丈夫だポン!」
ポン太郎が、落ち込んだキクを見て励ました。
それから。
今度は他のお寺に着いた。
「さあ、着いた。次に見るのはここでしょう?」
あたいは、お寺の本堂に向かおうと駆け出した所で、ポン太郎おぢさんに呼び止められた。
「そっちの本堂ではないポン。ワシの所に来るポン?」
「えっ?違うの?」
あたいは、ポン太郎おぢさんの元へ足を急ぐ。
すると、ポン太郎おぢさんは、別の建物の前にいた。
「ここは?」
「道場とかって言われているポン。人間の子供たちがここで習い事をしているポン」
「ふーん」
キクがみると、子供たちは何かの絵に夢中になり、言葉を発していた。
「ポン太郎おぢさん。あれが何かは知ってるの?」
「知ってるポン。あれは「判じ絵」というのだポン。文字を知らない子でも、声を発して、覚えられる様にする物なんだポン」
「みんな、楽しそうですねー」
少し、羨ましそうに言うキク。
そして、キクがその視線を子供に向けていると、ひとりの子供がいきなり振り向き、キクの方へ駆け寄ってきた。
「!?」
「ねーおししょうさまー。ここに見た事無い髪の毛の子がいるー!」
あたいはヤバイと思って咄嗟に身を隠し、更に
「ノーマクサンマンダーキエミソワカ」
と、小声で叫んでこの身を透明にする。
そして、子供の下にお師匠といわれる男が駆け寄った。
「どれ?・・・なんじゃ。おらぬではないか?」
「えー?さっきまでここに居たんだよー」
「何をうつつをぬかしておる。元の所に戻りなさい」
そう言って、お師匠と言われる男は子供の手を引っ張って、元の所へ戻した。
「危ない、危ない。間一髪」
あたいは、胸を撫で下ろした。
「これ以上は、見ないほうがいいポン」
「えーっ!何で?姿を消してるんだし、バレやしませんよぉ。もう少しだけ!」
あたいは、食い下がろうとする。
「駄目だポン。この場を離れるポン」
が、駄目だった。
ポン太郎おぢさんは、あたいの手を掴んで引っ張り、一目散に道場から遠くに離れた。
「はあ、はぁ。ポン太郎おぢさん、足が速いよ!」
あたいはポン太郎おぢさんに、半ば強引に引っ張られ、ついて行くのがやっとで、すっ転びそうになったのだ。
「キクちゃん。そう怒るなポン。あのまま居たら、幾ら姿が消えて居てもバレるのだポン」
「どうして?」
「それはね。子供の純粋さって言うのが計り知れないもので、霊力がある訳でも無いのに、ワシらの姿が見える人間の子供が、結構居るポン」
「それじゃあ、道場に連れて来たのは、あたいの警戒心を養うためなの?」
「それもあるポン。それと、もう幾つか知って欲しい事があるポン」
「知って欲しい事?」
「そうだポン。子供は、子供だけなら、キクちゃんやワシの様なもののけにはまず、警戒しないポン。
むしろ遊び相手として、楽しい位だポン。だけど、歳をとって経験を積むにつれ、人間は純粋さを無くしていくポン。
それ故、ワシ達もののけを見る心に差が生まれるんだポン」
「えっ?それじゃあ、あたいらもののけを受け入れる心があったり無かったりするのは、その人間の経験次第って事なの?」
「そういう事になるポン」
「じゃあ、あの夜の悪戯に、自ら現れて、追いかけられた人間と言うのは、自分の身は安心だろうと思ったからとか?」
「そうなんだポン。しかし、それを人々が襲われて困っていると、勝手に思っているのが退魔師なのだポンよ」
「ええっ!?そんな理不尽な」
「そう。理不尽なのだポン。それ故、退魔師とは、対峙しなきゃいけない時があるポン」
「そんなぁー。あたい、普通に過ごしたいよお」
「うん。普通が一番なんだポン。答えが出た処で、いつもの場所に帰るポン」
「はーい」
あたいとポン太郎おぢさんは、帰路につくのでした。




