12
「違うポン。憑いてないポン。お寺の和尚が入れ替わって居ると聞いたから、からかいに来たのだポン」
「聞いたって、誰からじゃ?同じ狸の仲間かえ?」
怪訝そうな顔をする空。
「違うポン。このお寺に憑いている、乾坤とかいう化け狐だポン」
「なぬ?化け狐?乾坤とな?」
「そうだポン」
狐と聞いた、空の眉が動いた。
「俺に何か用か?」
という声と共に突然、狐が現れた。
「ひゃあっ!」
突然現れた狐にキクは、びっくりして声をあげ、飛びはねた。
「噂をすれば、何とやらだポン」
狸が喜びの声をあげる。そして、空が目の前の狐に問う。
「お主がこの寺のもののけか?名は何と申す?」
「ちょっと待てよ。そっちから名を名乗るのが礼儀だろ」
「これは失礼した。わらわは空と申す者。お主の名前は?」
「俺は乾坤ってんだ。よろしくな」
「おお、よろしゅうに。しっかしまあ、お主があの乾坤かあ」
「『あの』とは何だよ『あの』とは」
「はるか昔にな、お主の事を聞いた事があるんだよ。お主の師匠にな?」
乾坤が、師匠と言う言葉に反応してか、強張った表情になる。
「何者だ?あんた?何故俺の師匠を知って居る?」
「わらわは空じゃが?」
「そこじゃねーよ。俺の師匠とどう関係あるんだよ」
「わらわの師匠でもあり、そして友人なのじゃ」
「その師匠の名前は?」
「藍様(あい様)じゃ」
「・・・そうかい」
「でも何だ。普通はもののけは、神社に憑くものだが、どうしてお寺なんかに?」
「そんなこたぁ、どうでもいいじゃんかよ」
「良くないわい。普通なら、神社に憑くべきなのに、外来の仏教のお寺なのだからな?」
「じゃあ、この奥を見てみろよ?」
「奥じゃと?どれ?」
そう言うと、空が奥へ歩き出す。それにキクも付いていった。
「ねえ、空さま。空さまのお師匠って?」
「わらわの師匠か?名前はな、藍って言うんじゃ。九尾の狐の大妖怪さね」
「おいくつ何ですか?」
「これこれ。女である藍様の年齢なぞ聞くな。キクも女じゃろ?後々困るぞ?」
「はあーいー」
キクがため息を付いて項垂れる。
「それとな?藍様とわらわの年齢は200歳ほどしか違わんのじゃ」
こんな話をしている内に、奥に来た。
するとそこには小さいながらも鳥居と、神社が存在していた。
「そういうことか」
空はそう言って頷いた。
この時代、お寺の中に大小の神社がある光景は、そう珍しくは無かったのです。
そして、空は確認した後、乾坤達のいる方へ戻りました。
「これで解ったろ?」
「まあな。小さい社ながらも霊験は高い。乾坤はここに憑いているから住職もおるって所か。しかし何だ。乾坤や。藍様は元気かな?」
「藍様?藍様の事は知らねーな」
「知らないのか?何故じゃ。お主を育てた師匠じゃろう」
「そうだけどもよ?藍様はさ、俺をこんな小さな社に取り憑かせて、自分は何処かへ行っちまった
んだよ。迷惑ったらありゃしないぜ」
「そうだったか」
「所でさ。空の直ぐ横に居る子狐は何なんだよ」
「この子か?名前をキクという。人間にいたぶられて死んだんだが、わらわがもののけとして復活させたんじゃよ」
「こんな小童を復活させて何になる?」
「丁度、弟子が欲しかった事もあってな?」
「へーえ」
乾坤が、キクの側に睨みをきかせながらじわじわと近づく。
「よう。お嬢ちゃん。俺は乾坤って言うんだ。よろしくな?」
そう言いながら、乾坤はキクの顔めがけてくさい息を吐く。
「よ、よろしくお願いしますうぅ!」
キクはそう言うと、少し顔を歪めながら空の後ろに隠れた。
「こら。乾坤よ。からかうんじゃない」
「へっへ」
乾坤が笑う。
「そうだ。其処の狸よ。お主の名は?」
「わしか?わしはポン太郎と言うのだポン」
「ポン太郎か。わらわは空だ。以後よろしゅうに」
「こっちこそよろしくだポン。じゃあ、この子狐のお嬢ちゃんの名前はなんていうポンか?」
「えっ?聞こえてたんじゃ・・・」
キクはキョトンとする。
「ほら。名前を聞かれたぞ。このおぢさんに挨拶しなさい。礼儀だよ?」
「はっ、はじめまして!キクです!」
少し前に出て、緊張しながら挨拶をするキク。
「おぢさん・・・」
おぢさんと言われ、ショックを受けたポン太郎にキクの挨拶は、ポン太郎に届かなかった。
「そりゃあ、おぢさんだけど」
「なんか言うたか?」
「空さんとやら。わしより完全に年喰ってるのに、わしにおぢさんは無いポンよ?」
「うつけがー。数百年ももののけやってたら、立派におぢさんじゃろうが」
「酷いポン。もののけは基本、歳が止まるのだポン。それなのに」
「それなのに、何じゃ?」
「それなのに『おぢさん』よわばりとは。とほほ」
「認めれば、楽になるんじゃがのう」
「認めれば楽?」
「そうじゃよー?妖力さえあれば、自分の好きな年齢の頃の美貌を保ったり、固定できるしのう?
ポン太郎よ?お主は何故、不細工で、太った姿のままでいる?」
「それは、人間の警戒心を解くためだポン」
「解いてどうする?」
「不細工なのは人間に脅威を与え無い為だポン。それに、近づいて悪戯がし易いからだポン。
それがわしの生きがいなんだポンよ」
「ほほう。それが理由か」
「そうだポン。しかし、空はなんでここへ?」
「わらわは、このキクをそろそろこの地で修行させたいと思ってなあ。乾坤といい、お主、ポン太郎
と言い、役者も揃ったからだよ。キク。お主はこの地に根を張り、未来永劫、この地を見守ってゆけ。
よいな?」
「そんな。空さま。いきなり!」
「よいな!?」
「はい・・・」
あまりに突然で、念を押された事に戸惑うキクでありました。
こうして、この地でのキクの修行が始まったのです。




