THE ACE 0 -Utopia beyond The Cloud- chapter3-倶利伽羅峠-
わざわざ鎌倉まで来たものの、兄頼朝に会うことはできなかった義経。
兄は『自分に会いたければ、京にいる源義仲を倒せ』という。
とりあえず、義経もその日は宿屋に泊まることに決めた。
――――――――――
――そんな折、まだ外で山に擬態している弁慶がテレパシーで話しかけてくる。
『源義仲殿を倒せとは、これまた無理難題ですな。なんせ百人足らずで平家七万を追い払った男、おそらく並の人間ではありませんぞ』
「弁慶でさえそう言うとは…それほど、強敵という事か」
布団に入った義経が、ため息をついて言う。
弁慶が推理するには…。
一応同じ源氏軍とはいえ、頼朝は義仲が邪魔なようだ。
従兄弟とはいえ、もともと親同士が殺し合った仲。
それに頼朝にとっては、自分を差し置いて先に京に入られているのも面白くないのだろう。
義仲も、おそらく頼朝に忠義など抱いてはいまい。
「わかる気もするが…源義仲とは、いったいどれほどのお方なのかな」
『観てみますか?』
「え?」
『倶利伽羅峠の戦いならば、お見せすることができますぞ』
何を言っているのかと戸惑う義経だが…。
弁慶が言うには、背中の剣は衛星アンテナなんたらかんたら日本全国どころか世界各地の出来事を記録した鬼一法眼制作宇宙衛星の電波がどうたらこうたらそれをリアルタイムで空気中に投影したバーチャルシアターがなんとかかんとか……。
――要するに、昔の出来事が見れるらしい。
「なんのことやらさっぱりわからないが…それじゃあ、お願いするよ」
理解することを諦めた義経は、少し笑いながらこう答えた。
――――――――――
――ここは数か月前の倶利伽羅峠。
平家七万の兵が、義仲の陣に向かって突撃してくる。
兵隊は『人間狩り部隊・CODE:666』というらしい。
総大将は『飯野清宗』という男だ。
平家の勢いは凄まじい。
なんせ七万の軍勢だ。
草も木も、すべて踏み潰すような圧で一斉に進軍している。
だが――相手の源氏軍総大将『源義仲』は、驚くこともなかった。
そして、自らに向かってくる軍勢に向かい、大きな声を上げる。
「まずは小手調べだ!行くぜ!兼平!!」
そう叫ぶと、義仲はヘビーマシンガンを構え…。
それを、向かってくる平家軍に向けてブッ放した!
ドガガガガ!!と轟音を上げるヘビーマシンガン!
平家の人間狩り部隊は為す術なく、バタバタと倒れていく!
「これで終わりじゃねえぞ!次は、行親!」
その声とともに、燃え盛る何かが義仲の後ろに現れる。
現代の我々なら『大型トラック』とわかるそれは……。
炎を上げながら、平家軍に轟音を立て走り向かい、そのまま蹂躙して行った。
自らを襲う得体のしれぬ兵器。
恐怖にかられた平家軍は一斉に逃げ出し始める。
だが、義仲の勢いは止まらない。
「樋口!行け!」
義仲は大きなコントローラーをもってボタンを次々押し始める。
――すると、空飛ぶ大型ドローンが敵部隊を次々と爆撃し始めた。
常軌を逸した義仲の攻勢。
七万もいた平家の人間狩り部隊は、義仲たった一人相手に総崩れとなっていた。
「ええい、怯むな!戦え!貴様らそれでも平家か!」
人間狩り部隊の部隊長だろうリーダー格が、逃げ続ける部下を鼓舞する。
が…。
彼は、次の瞬間、画面から消えた。
風にさらわれるかのように。
――そして次の場面、彼は空の上にいた。
何者かが、リーダーの首を片手でつかんでいる。
遥か高い天で。
その何者か…つまり、怯えるリーダーを空で掴んでいる者。
画面がその人物の姿を映す。
それは、女性だった。
たいそう大柄で…勇ましく、そして美しい顔の。
だが、もっとも驚くべき場所は、そこではなかった。
その女性には、背中から翼が生えていた。
腕以上に大きく、夜の闇の中でも美しく黒く光る翼…。
見るものすべてを見惚れさせてしまうような、漆黒の翼が。
「消えな」
その女性はそれだけ呟くと……。
人間狩り部隊のリーダーの首を掴んでいた手を、あっさりと放す。
支えを失ったリーダーは、悲鳴を上げながら真っ逆さまに地面に落ちて行った。
おそらく……いや確実に助かるまい。
――その後も同じような展開だった。
平家の部隊長は黒翼の女性が掴み天へ持ち上げ、落とす。
そして、統率を失い混乱した兵隊は、義仲が近代武器で排除する。
見事な戦術だった。それ以上に圧倒的な強さだった。
平家の『人間狩り部隊・CODE:666』は完全に壊滅。
大将飯野清宗も命からがら逃げだしたらしい。
――平家軍すべてが消えた後、義仲はふうっと息を吐いて、あくびをする。
そして空から、その傍らに黒翼の女性も降りてきた。
「つまんない戦いだったな」
黒翼の女性が、本当につまらなそうに義仲に言う。
義仲は笑いながらそれに返した。
「そりゃそうだよ。巴ちゃんからすれば、人間なんて相手にならないんだから」
近代兵器を自由自在に扱い、戦場を蹂躙する『源義仲』。
そして……。
超人的な力を持ち、翼が生え空を自由に飛ぶ、美しい女天狗『巴御前』。
――これが、倶利伽羅峠を完全制圧した『源義仲』軍の主力二人だった。
――――――――――
映像を観終わった義経。
『想像以上にとんでもない軍団だ』
そう思った彼は、まずため息を吐く。
「これは……倒せって言う方が無理じゃないかな」
『戦うのであればこの弁慶も粉骨砕身いたしまするが…かなりの強敵ですぞ』
呆れる義経と、真面目に答える弁慶。
その中で義経は、一つの方法を考えていた。
『この人たちを、なんとか味方につけられないだろうか』…と。
――――――――――
次の日。
身支度を整えた義経は、京に向けて出発する。
義仲と戦うも、味方につけるも、まず動かなければ始まらない。
そして、兄頼朝との面会もかなわないのだ。
――出発前、義経は頼朝の屋敷の前に立つ。
その前には門番が立っていた。
昨日対応してくれた、疲れ切った顔の若い門番である。
おそらく今日も朝から源氏を名乗る者の対応をしていたのだろう。
「門番殿、昨日は世話になりました」
「ああ、誰かと思えば昨日の、何十人目かわからない牛若丸様。どうなさいました?」
門番のその言葉に、義経は意気揚々と答える。
「源義仲どのと、戦ってきます。できれば味方につけたいものですが」
その言葉を聞いた門番は唖然とする。
――この少年は何を言っているのか。
勝てるわけがない。
七万人を撃退した義仲に、こんな少年がどうするつもりなのか。
ましてや味方につけるなどとは――
行きがかり上、止めようとする門番だが…。
その時、義経の元に『静』がさっそうと現れる。
門番は、その八本足の馬を見て腰を抜かしてしまった。
「うわっ!?なんだこの馬!?」
仰天している門番をよそに、義経は『静』にまたがり…。
そして、駆け出していった。
唖然としてる門番。
そこに、山に擬態していた弁慶も後をついて行く。
反重力フィールドを展開したホバー移動で。
「うわっ!?山が動いた!!」
またまた腰を抜かした門番。
そんな門番をよそに、義経一行(といっても義経と静と弁慶だけだが)は走り去っていった。
しばらく腰を抜かしていた門番だが…。
ハッと我に返り、ふと呟いた。
「あんなのを従えるとは…まさかあの方、本物の牛若丸様なのでは…」
門番―『那須与一』―は、ただ呆然と、義経の去り行く方向を見送っていた。




