THE ACE 0 -Utopia beyond The Cloud- chapter2-三人の源氏-
さて、意気揚々と走り出す義経一行。
目指すは関東、兄『源頼朝』がいるとされる鎌倉である。
義経にとって縁の深い場所である奥州へは向かわない。
そもそもこの映画に奥州は出てこない。
そんなこんなで時速200㎞で爆走する一行。
現在のように舗装されてはおらず、山道だったり川を渡ったりもしたが…。
八本足の馬である『静』と、反重力フィールドを展開してホバー移動を続ける弁慶には、なんてことはなかった。
「この調子なら、今日中には着けそうだね」
時速200㎞の向かい風をものともせずに義経が言う。
彼も鬼一法眼の教えを受けた天才、この程度ならお茶の子さいさいなのだ。
とはいえ、腹も減れば、たまには休みたくなるのが人間である。
そんなわけで、義経は途中の峠で一服することに決めた。
…なお、弁慶は人を驚かせないように、少し離れて山に見えるように擬態をしている。
ここは駿河(静岡)のあたりだろうか。
鞍馬山で育った義経には、初めて来た場所である。
辺りを興味深そうに眺めてお茶を飲んでいるところ…。
ふと、峠で居合わせた旅人同士の会話が耳に入った。
「旭将軍・源義仲どのが、ついに平家を都から追い払ったそうじゃぞ」
「おう、聞いた聞いた。倶利伽羅峠の英雄じゃろ?大した強さじゃのー」
…そんな会話を聞いた義経、『はて、源義仲とは誰だろう?』と考えるが…。
不意に、頭の中に声が聞こえてくる。
『源義仲殿とは、源氏の一族ですな。御曹司の従兄弟でもありますぞ』
「うわっ」
その声に驚いてうっかりお茶をこぼしてしまった義経。
いったいどこから響いてきたのかと辺りを見回すが…。
『弁慶でございます。山が喋ってはおかしいので御曹司にだけ聞こえる心の声で話しかけております』
「……そうなんだ。便利な機能だね」
いわゆる現代で言う『テレパシー』。
弁慶はそんなものまで使えたようである。
さすがにちょっと鬼一法眼のテクノロジーはいったいどうなっているのかと思う義経だったが…。
そんなことも知らずに弁慶は『源義仲』について説明し始めた。
――――――――――
――旭将軍『源義仲』。通称、木曽義仲。
義経や頼朝の従兄弟でもある。
頼朝の挙兵にあわせて義仲も挙兵。
その後連戦連勝、破竹の勢いで勝ち進み…。
その日の出の勢いから『旭将軍』とも呼ばれていた。
彼の名を一躍この国にとどろかせたのは、数か月前の『倶利伽羅峠の戦い』。
平家軍七万の兵に対し、義仲軍はわずか百人程度。
普通なら相手になるはずもない戦いである。
それでも義仲は、奇策や豪勇をもって平家軍を散々に打ち破った。
その後も進撃し、ついには平家を京から追い出したというのである。
とはいえ平家もまだまだ健在。
九州に落ちのびつつも、その復讐の機会を虎視眈々と狙っていた。
それでも……。
天下にもっとも近いのは、源義仲であると言えたのである。
――――――――――
「おお、それは驚いた。それほどの方が源氏にいた…それも、私の従兄弟だったとは」
『まあ、従兄弟と言っても仲が良いかはわかりません。なにしろ同じ源氏とはいえ、御曹司や頼朝公の父と、義仲殿の父は敵対しておりましたからな』
「そうなのか…だが、ぜひ一度お会いしてみたいものだな」
興味深そうに聞き入る義経。
彼は鬼一法眼からその辺をあんまり聞いていなかったのである。
肝心なことは教えない師匠・鬼一法眼だった。
「……さて、休憩はここまでだ。いざ鎌倉!」
そう言って、義経は八本足の馬『静』に乗る。
そして、意気揚々と駆けて行った。
山に擬態していた弁慶も、反重力フィールドを展開させ飛び始める。
そして、義経の後を追っていったのだった。
――峠の茶屋に残っていた客は、その姿を見て『山が動いた!』と腰を抜かしていた。
――――――――――
「お通しできません」
峠の茶屋の後、一時間ほどで鎌倉に到着した義経。
兄と面会したいと言った義経に向けられたのは、疲れた顔の門番のそんな一言だった。
ちなみに弁慶はまた近くの山に擬態している。
「し……しかし、私は鞍馬山にいた牛若丸です。兄上ならばきっと……」
「ああ、牛若丸さま。それはもちろん知っています」
「なら…」
「昨日も牛若丸様が来ました」
「え」
「一昨日に至っては三人来ました。牛若丸様は九郎様とも呼ばれていますよね。九男なので。ちなみに九郎様も良く来ます」
「……」
「ちなみに…一郎から十郎まで毎日ひっきりなしに来ています。下手すれば三十郎も来ます」
絶句する義経に、門番はうんざりしたように言う。
どうやら兄頼朝が『源氏以外は皆殺しじゃー!』と言って挙兵したところ…。
源氏を名乗る人間が毎日大量に訪れているそうだ。
『源氏を名乗っておけば殺されないだろ』という一般庶民が多いらしい。
それに辟易した頼朝が『許可した人間以外、誰も通すな!』と激怒したんだとか。
自業自得である。
とはいえ――しょんぼりする義経。
兄と会って平家打倒の力になりたかったのだが、まさかそんなことになっているとは。
(残念だが…諦めて他の方法を探すしかないか)
そう思い、とぼとぼと引き返す義経だが…。
そんな彼を門番が呼び止める。
「ああ、お待ちください。実は、棟梁(頼朝のこと)から、身内を名乗る者が来たら伝えろ…と言われていることが一つあります」
「それは?」
「『我が身内なら、あやつを討伐せよ。それが叶えば会ってやってもよい』と」
それを聞いた義経が、やった!と喜ぶ。
誰を倒すのか知らないが、倒せと言われたら倒せばいい。
とにかく兄に会える道筋はできたのだ。
「わかりました!では、誰を倒せと?」
意気揚々と尋ねる義経だが…。
門番は、諦めたように笑い、言った。
「旭将軍『源義仲』殿です」




