THE ACE 0 -Utopia beyond The Cloud- chapter4-宇治川の戦い-
――さて、ここは京の都、その中でもひときわ大きな屋敷。
その屋敷の中で寝転がっている二十代後半ほどの眉目秀麗な男。
彼こそが、旭将軍『源義仲』である。
その義仲は、寝転がりながら手紙を読んでいる。
その手紙の差出人は源義経。
そして、その中にはこう書かれている。
『源氏同士で争うより、ともに平家を叩きのめしましょう』と。
「はは…かなりシンプルだな。というよりシンプル過ぎるな」
書状を読んでいた義仲が、はははと笑う。
その書状には、条件も返答期日も書かれていない。
本当にその一文のみである。
一体どういう意図なのかと計りかねていた義仲。
彼は、自分が知っている限りの牛若丸…つまり源義経という人物を思い返していた。
――自らの父と対立した、伯父の『源義朝』、その九男。
会ったことはないが、その存在は知っていた。
幼少の頃に鞍馬山に送られたと聞いていたが、今なら元服もしているはずだ。
鎌倉で決起した兄・頼朝の力になろうと、鞍馬山から駆けつけてもおかしくはない。
おそらくは兄の命令を受けて自分の討伐に来るのだろう。
(さて……その上で義経くんは、なぜこんな書状を俺に送って来たのかな?)
①油断させようというのか?
②本気で考えてこれなのか?
③何か深い意図があるのか?
①ならばもう少し文面を考えるだろう。自分が講和するような条件をもっと書くはずだ。
②ならば、そもそも相手にもできない。こんなバカと組んでは自分の身が危うい。
③ならば……その意図が計りかねる。会って聞くしかないが、そもそも会うのは危険だ。
(いずれにせよ、相手の出方を待つしかないか)
――義仲はそう考えていた。
義仲自身、頼朝は信用できないと考えている。
だが、義経という人物はそもそもよく知らない。
信用に値する人物なのか、それがわからない。
しかし、いずれにせよ自分を討伐しに来るならば放っては置けない…そう考えていた。
そんな折、彼の妻である巴御前が襖を開けて入って来る。
黒く輝く大きな翼をはためかせながら。
「なんだニヤニヤして。そんなに面白いのか?その書状は」
「そりゃ面白いよ。これから倒そうという相手に『潰し合うより組もうぜ』とか送ってくるんだよ?それも書かれてるのはその一行だけ」
「…その義経ってのは、バカなのか?」
「わからん。さっぱりわからん」
ははは…と笑っている義仲に、巴御前はため息を吐く。
そして、自分が見てきた周囲の状況について義仲に報告する。
「それはともかくとして。さっき空から辺りを見回って来たが…宇治川のあたりに変なのがいたぞ」
「へえ、どんなの?」
「人間の小僧一人に、八本足の馬。あと…7メートルの化け物だ」
「…なにそれ?」
「知らん。だが、ありゃ人間の技術じゃないな。私たち木曽天狗が貴方に与えたものと同じ類…天狗の技術だろうな」
「…なるほど。天狗か」
「ああ。作れるとしたら鞍馬山の、あの、えーっと、あのジジイ…あーそうだ、鬼一法眼」
「鞍馬山の鬼一法眼…有名な兵法者だな。彼も天狗だったと?」
「ああ。天狗界隈でも変人で有名だ、あれは。あいつならああいうの作るだろうな。趣味で」
そこまで聞いて、義仲は確信する。
――宇治川にいるその一人の少年こそが、源義経だと。
そう悟った彼は、立ち上がり巴御前に告げる。
「どうやら義経くんはわざわざご挨拶に来てくれたらしい。だったらこちらも派手に出迎えてやらないとな」
――――――――――
――さて、ここは宇治川。現在でいう京都府宇治市のあたりである。
そこでバーチャルシアターを眺める義経。
そこでは、先ほどの義仲と巴のやりとりが流れていた。
人工衛星が記録した過去の出来事を、弁慶の刀アンテナで受信し閲覧する、鬼一法眼特製の天狗テクノロジーである。
「……なるほど。義仲どのとは、こういう性格か」
興味深そうにバーチャルシアターを眺める義経。
彼とてあの書状で戦を避けられると思っていたわけではない。
義仲が彼を知らないように、彼も義仲を知らない。
義仲はただでさえ強力な相手である。
戦いを始めるには相手の性格を掴まなければいけない。
義経はあの手紙を送ることで、まず義仲の反応や性格を観ようと思っていたのだ。
バカにしているとしか思えないようなあの手紙――。
ブチキレてすぐさま攻め入って来たり、こちらを未熟者と侮っているようなら、対策の打ちようはある。
強力な兵器を使おうとも、使えないような状況に持って行くだけだ。
だが…。
(義仲どのの、あの余裕。あれは油断や慢心といった類ではない。こちらを確認して、それでいて対策を打てるといった表情だ)
強者の自信というのだろうか。
そういったものが義仲にはある…と、義経も考えたのである。
(なるほど強敵だ。だが、これほど理性的ならば、うまくいけば味方になってくれるかもしれない)
と義経は考える。
しかしいずれにせよ、まずは自分たちの力を示さなければならない。
無力な相手と組む理由は、相手にはないだろうから。
さきのバーチャルシアターには、タイムラグはさほどない。
しかし、義仲もこの宇治川に来るまでにそれほど時間はかかるまい。
攻めるか退くか、あまり悠長に考えている時間はないというわけである。
――思案している義経に、弁慶が語り掛ける。
「御曹司。義仲殿の兵器は、私が盾となって防ぎます。私も鬼一法眼様制作の護衛型最終決戦兵器、多少のことならばびくともしませぬ」
「ううむ。だが…弁慶の体は持つのか?」
「相手の弾薬次第ではありますが、百万発程度ならば持ちましょう。私に搭載されたAIがそう判断しております」
「AIとはなんなのかわからないし、それが信用できるのかもわからないが…弁慶が言うのなら信じよう」
『義仲の近代兵器は弁慶が耐えきる』という超脳筋戦法。
だが、意外といい案かもしれない。
義仲の攻撃を耐えられるのならば、巴御前とはいえ弁慶には手が出せまい。
だとすれば、義仲の弾薬が尽きるのを待つ。
あとは巴御前を無力化させれば、なんとかなるというわけだ。
天狗のテクノロジーには、同じ天狗のテクノロジーをぶつける。
図らずしも、『木曽の天狗』対『鞍馬山の天狗』の技術戦争になったのである。
(ところで…お師匠様、やっぱり人間じゃなかったのか。まあ、そうだと思っていたけど)
また図らずして師匠の鬼一法眼が天狗であること。
そして、天狗界隈でも変人で有名なことを知り――。
『やっぱりね』と思った義経であった。
――――――――――
――さあ、時は過ぎ。
ついに宇治川に両軍が揃った!
ついに、木曽天狗連合こと『源義仲軍』と鞍馬山天狗テクノロジーの結集『源義経軍』が宇治川で激突する!
――しかしこの時、両軍はまだ知らなかった。
倶利伽羅峠での惨敗の恨みを果たさんと、『飯野清宗』率いる平家軍十万が京へ押し寄せてきていること。
そして――。
「……あの方が本当の牛若丸様なら、やっと俺も名を上げることができる!俺の弓で牛若丸様…いや、義経様をお助けするんだ!」
うんざりするような門番の役目を、他に押し付け……。
義経一行に加わらんとした『那須与一』も京を目指していたことを。




