↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王妃ネブラ【タビス—女神の刻印をもつ者—外伝】   作者: オオオカ エピ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/15

■月星暦一五五二年一月 秘薬

◼️は本編同様アトラス視点です


挿絵(By みてみん)

■アトラス


「アトラス、貴方、しばらく月星に戻りなさい」


 新年を祝う空気も落ち着き、日常が戻ったある朝、アトラスは唐突にレイナに言われた。


 竜護星の国主であるレイナの、その立場に相応しい命令口調とはいえ、アトラスは戸惑いを隠せない。


「レイナ?」

「アウルム様の初の御子の誕生でしょう? 王妃様も初産で色々と心細いでしょうし、きっと、寄り添っていたいことでしょう。ずっと働いてきたお二人には休養も兼ねて、ゆっくりする時間をさしあげるべきだと思うのよ」


 レイナは嘘が得意ではない。


 他の人間は誤魔化せても、アトラスが見間違える筈がなかった。

 海青マリンブルーの瞳の奥にあるものを見定めて、アトラスは今一度、妻の名を呼ぶ。


「レイナ。知っていることを、話せ」


 それでも、レイナは微笑みを貼り付けたまま、話を進めた。


「何があるかわからないし、アトラスはこれを持っていってね」


 アトラスは手の中に押し付けられたものを見て、顔を強張らせた。


「これ、は……」


 竜血薬と呼ばれている秘薬の包みの束だった。


 王が竜から《《頂いた》》血から精製され、基本、王族にしか使われない。

 古くは万能薬と信じられていたそれは、竜護星王家に伝わる、門外不出の秘薬だった。


「ただでさえ、出産は命がけの仕事ですもの。ましてや王妃様の年齢を考えると、あらゆる可能性を考えて、対処方法は数あったほうが良いと思うの」


 あくまでも一般論を説くレイナだったが、その顔にはもう、誤魔化しきれない苦いものが浮かんでいた。


 アトラスは察した。


「マイヤか……」


 巫覡が視た。

 その意味を、アトラスは間違えない。


「……使い方は、ハイネが知っているわ」


 否定はせずに目を伏せるレイナの、声が震えた。

 

「事前に飲んでおくこともお勧めする。……理由は、分かるわよね」

「ああ……」


 アトラスは頷いた。

 この薬は、婚礼時に葡萄酒に混入されており、王の伴侶——アトラスも摂取している。

 万能薬にはならなくとも、感染症予防くらいにはなる。


「レイナ、感謝する」


 すでに事例(※)があるとは言え、この薬を国外に持ち出す為にレイナは、官の説得に骨を折ったのだろう。


 抱きしめると、背中に腕が回された。


「しっかり、支えてきなさい」


 耳元で囁かれた声に、アトラスは頷いた。


「ああ、行ってくる」


   ※


 船では何日もかかる距離も、竜でならば最短で一晩で翔け抜ける。

 さすがに、搭乗者が到着した途端ひっくり返り、竜にも負担をかける無茶をすれば、の話だ。


 そこまでではないが、そこそこの無茶をしてアトラスは翔け抜けた。


 さすがに、三度程休憩は挟んだが、朝出立して夕方には月星の地に足を下ろしていた。


 強靭な体力と精神力で、疲労は感じさせない。


 城に到着するや、王の執務室に乱入したアトラスは、「これから数ヶ月、王妃の出産までアウルム兄上の『王様業』は休みだ」と宣言した。


「何を仰っているのですか。そんなことをしたら、国が立ち回りません」


 先日宰相になったばかりのネウルスが、青褪めた顔で抗議した。


「いいや、決定事項だ。国はお前と私が回せばいい」

「えっ?」

「殿下がやってくださる?」


 断言するアトラスに、ネウルスやその場にいた官は呆けた。

 アウルム自身は苦笑はしていても、口を挟まなかった。


「今日の業務は終いだ。『タビス』が命じる。明日、引き継ぐから、現状を纏めておけ」


 言い放って、アトラスはアウルムを連れ出した。


「相変わらず、時々やらかすよな。お前は」

「こうでもしないと、貴方は休めないでしょう」


 少年時代は、『タビス』の言葉の使い方で悩んでいた時期もあったアトラスだが、人間経験を積めば学ぶこともある。


 例え、アトラス自身は『女神』の言葉が聞こえないとしても、必要とあれば『タビス』として『言葉』を使うようになっていた。


 月星人を従わせるには、これが一番手っ取り早い。

 

「アウルム。出産まで、貴方は王妃についてやってください。私が代わりを努めますから」

「……お前、何を聞いた?」

「何も。ただ、レイナに例の薬を渡されて、戻れとだけ」


 アウルムは、僅かに目を瞠り、肩を竦めた。


「わかった。今回は、甘えるよ」

「そうしてください」


 兄弟は並んでネブラの元に向かった。


   ※


「今日はお早いのですね」


 私室に戻ってきたアウルムの後ろに、アトラスを認めてネブラは驚いた顔をした。


「アトラス様、いつお戻りに?」

「つい先程、です」


 アトラスは、テーブルの上にある、水瓶に目を止めた。

 

「これは、果実水ジュース?」

「ええ、はい。そうですが」


 アトラスは竜血薬を一包、目の前でコップに入れ、果実水に溶かした。

 一口口に含み、顔を顰めた。


「やっぱり、美味くはないな」

 

 呟きながら、アトラスはネブラに杯を手渡した。

  

「飲んで下さい、妃殿下」


 戸惑い、ネブラは、隣に立つアウルの顔を伺った。


「毒では無い。母体に影響があるものでは無い。私も飲んだことがある。竜護星の、本来なら門外不出の秘薬だ」

「進行性の病には効かないが、傷や毒には有効。身体が持つ抵抗力を底上げし、自己治癒力を高めると言われています」


 アトラスは、ネブラの栗色の瞳を見据えて、ゆっくりとはっきりと説明する。


「気休めかも知れない。でも、出来ることは一つでも多く試して欲しい。少しでも、確率を上げて欲しいんだ」


 懇願に近い声色だったろう。

 ネブラは二人の顔を見比べ、手元の杯に目を落とした。


「……分かりました」


 頷くと、躊躇なく煽り、大きく息を吐いた。


「美味しくありません」

「だよな」


 飲み干したネブラに、アトラスはほっとした顔をした。

 口直しに、果実水をもう一杯注いで渡す。


 お代わりを一口だけ口に含むと、ネブラはアウルムに顔を向けた。


「アウルム様。アトラス様とお話したいことがございます。二人きりにしてくださいませんか?」


 アウルムは何も言わずに、部屋を出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
レイナはアトラスに竜血薬を手渡しネブラの元へ行くようにうながす。 アトラスはそんなレイナの行動にネブラの何かを察する。 レイナもアトラスも流石ですね°・*:.。.☆ そんなアトラスはアウルムとネブラの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。