□月星暦一五五二年一月 告白
□ネブラ
季節は冬。
アンバルでは珍しく、窓の外には雪が舞っていた。
屋根の上に降り注ぐ白は、砂糖菓子の様にふわふわと柔らかい。
「そんなところにいて、冷えないのか?」
窓辺の椅子に座るネブラに、アウルムが声をかけた。
「妊婦って暑いんですよ」
ネブラは笑ってみせるが、窓に映った顔が儚げに揺れた。
「何を作っているんだ?」
「靴下です」
ネブラは膝の上の、編みかけの靴下を掲げてみせた。
小さな小さなそれは、手のひらの半分の大きさもない。
「無理をするな。侍女にでも編んでもらえばいいじゃないか」
「一つでも多く、この子には何かを残したいのです」
その言葉にひっかかりを覚えたのか、アウルムは怪訝な顔をした。
「アウルム様。この子の名前ですが、わたくしが付けても良いでしょうか?」
王族の名前は大神官などに付けてもらうのが慣例である。
意味のない慣例や因習は悉く排除しようとしているアウルムなら、是という気がした。
「例えば、どんな名前を考えているんだ?」
「男の子なら、レクス。女の子ならセー……」
ネブラはその先を言えなかった。
意に反して、大粒の涙が溢れた。
その名を、自分は呼ぶことが出来るのだろうか。
そう思ったら、ネブラは涙を止められなくなってしまった。
「ネブラ?」
無理に笑おうとしたが、誤魔化せなかった。
更に涙は溢れ落ちる。
「……お産は命がけですから。多少は不安はあります」
誰でも、そうでしょう?
一般的な意見を述べて、ネブラは躱そうとした。
しかし、ネブラを見詰めるアウルムの碧い瞳があまりにも真剣で、目を逸らすことが出来なかった。
「ネブラ……」
アウルムが、ネブラの手を握りしめた。
指先が冷たくなっていた。
「……」
アウルムは察しが良い。
勘づいている気がした。
「私は、貴女と、共に歩みたいと、もう、ずっと前から思っていたのだ。だから……」
「言ってはなりません」
ネブラはアウルムが続けようとした言葉を遮った。
その先を言わせてはいけなかった。
それは、王が言っていい言葉ではない。
「そのお言葉だけで、充分でございます」
アウルムの頬を伝う一筋の涙を、ネブラは拭った。
「本当に、嬉しゅうございます。アウルム様」
本心だった。
最初は形式だけの婚姻だった。
同じ人を想う同志だった。
契約のような関係だった。
それでも、これまでに育まれたものは確かにあった。
ネブラの手を握るアウルムの手が震えていた。
「ネブラ、愛している」
そっと、囁かれる言葉は、何よりも熱い熱となって、ネブラの心に落ちてきた。
「わたくしも、お慕い申しあげております。アウルム様」
どちらからともなく、唇が重なる。
この瞬間、ネブラはネブラになった。
自分たちは遅すぎたのかも知れない。
だが、この人の為なら、何を失くしても惜しくは無い。
ネブラは、今、本当に、そう、思えた。




