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王妃ネブラ【タビス—女神の刻印をもつ者—外伝】   作者: オオオカ エピ


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10/15

□月星暦一五五一年十月 予知

□レイナ

「おかあさま、あのおねえさんも、冷たくなっちゃうの?」


 レイナは娘の、どこか遠くを視るような瞳を見つめて固まった。

 給仕をしていた侍女のハールの顔も強張っている。


 レイナが目配せすると、ハールは部屋の周囲を確認して来た。

 人の気配は無いと、ジェスチャーで伝えてくる。


「マイヤ。そのお話、詳しく、話してくれるわね?」

「はい。おかあさま」

「私は失礼致しますね」


 下がろうとするハールをレイナは引き止めた。


「ハールも居て頂戴」

「ですが……」


 マイヤの話を一人で消化する自信が無かった。

 ハールには悪いが、巻き沿えになってもらうことにする。


 レイナはマイヤを抱き、膝の上に乗せて目線を合わせた。


「視えたのは、王妃様についてで、良いのかしら?」

「王妃さま? あの、ぶりっとしたお口のおねえさん」


 その方のことは、王妃様と呼ぶのだとマイヤを諭し、レイナは続きを促した。


「それで、どんなが視えたのか、教えてくれる?」

「ええとね。王妃、さま? お腹がおおきくなっちゃってて……」


 ごくん、とレイナは唾を飲み込んだ。


「続けて?」

「でもね、真っ赤なの。たくさん、赤くて、止まらなくて、苦しそうなの」

「レイナ様……」


 ハールが息を呑んだ。


「そして、だんだん、動かなくなっちゃうの」

「……っ」

 

 レイナは拳を握りしめた。

 一度、大きく息を吐くと、努めて平静に、マイヤを見詰めた。


「もしかして、周りには人が居るの?」

「うん。何にんも居るわ。白いエプロンもどんどん赤くなっていっちゃって……」


 話しながら、マイヤの顔を涙が伝う。


「周りの人、悲しそうなの」

「そっか。その中に、マイヤが知っている人は居た?」

「黄色いおとうさまみたいな……王さま? つらそうなお顔をしてるの」


 レイナは娘の手を握った。


「声はどう? 何か、聞こえなかった」

「泣き声? ぎゃあって。ちっちゃい、子どもみたいな……。誰かに抱かれて、る、のかな?」

「そう……」


 レイナは頭を巡らせた。

 何度も思い出させる場面では無い。

 この一回きりで、引き出せる情報は聞き出しておきたかった。


「そうだ、王妃様は、何かお話になる?」

「一言も。王さまも喋らない、よ?」


 本来ならおめでたい場面の筈だ。

 だが、この時は、慶事と凶事が一緒に訪れてしまうことが想像できた。


「ありがとう、マイヤ。言いにくい場面を、頑張って教えてくれて」


 レイナはマイヤの涙を拭った。

 膝から下ろすと、ハールがお菓子を勧めた。


「マイヤさま、お疲れでしょう。甘いものをどうぞ」

「わあ、いただきます」


 お菓子を食べている、マイヤの小さな背中を見ながらレイナは息を吐く。


 とんでもないことを聞いてしまった。


「どうしよう……」


 幼いマイヤに、視たものを考察させることは難しい。

 マイヤが自分で視ているのか、何者かから送られている『画』を視ているのか、はっきりしない。


 巫覡が視た。

 そこには意味があるのだ。


 王妃ネブラが懐妊しているという話は聞いていない。

 先程の様子では、全くわからなかった。


 もしかしたら、本人もまだ自覚が無い可能性もある。


 取扱いが難しい情報だった。

 レイナはハールと目が合う。

 

「ハール、他言無用でお願いするわ」

「勿論でございますとも」


 有能な侍女に感謝を述べながら、レイナもお茶を口に含んだ。

 口の中は、からからだった。


「ねえ、ハール。どうしたら良いと思う?」


 誰かに相談しなければと思った。

 王妃の生命がかかっている事案である。


 誰になら、話しても良いか。


 レイナは頭を巡らせた。


 アトラスは潔斎の為に大神殿に籠もってしまった。

 アウルムやネブラに直接話すわけにも行かない。王という立場を持つレイナが、おいそれと口にして良い話題では無い。


「レイナ様。マイヤさま——『巫覡』が視た場面は、何も策を講じないと、訪れてしまうということですよね?」

「そういう認識よ」


 ウェスペルの件が証明している。

 

 話す相手は慎重に選ばなければいけない。

 間違っても、疑われるようなことになってはいけない。


 いくらアトラスが王配であろうと、叛意を疑われたら、簡単に取り潰されるほどに立場が弱いのが、竜護星という国の現状である。


 それほどまでに、デリケートな話題だった。


「ならば、あの御方しかいないように思われます」


 ハールの視線を受けて、レイナは頷いた。

 冷静に、的確に、物事を計れる人間は他にいないだろう。 


「ハール、アリアンナに至急連絡を取って頂戴」


 レイナは王の妹であるアリアンナを招喚した。

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― 新着の感想 ―
マイヤの話を聞いたレイナ。 それは真実味があることを知っているレイナは行動する。 それはハールに相談する。 そしてアリアンナに連絡することに。 続きも楽しみです°・*:.。.☆
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