表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滌葬草子  作者: 相宮祐紀
〈三〉 小庵
27/40

二十七 白湯

 真杭(まくい)又二郎(またじろう)はサクと目を合わせ、なにがおかしいのか笑いだす。幼子相手とは思えない。サクは気味わるそうな顔をしつつも、どこかまんざらでもなさそうだ。真杭又二郎は楽しげに続けた。

「わたしは長男でもなかったが、いろいろとあって家を継いだのだ。苦労はしたがなんとかやれておる。フミどのがおってくださるおかげだ」

「あれ、うれしいこと言ってくれますね」

「当然だ。だいじな母御ゆえ」

 さらりとそう告げてから、真杭又二郎は粥を啜った。そのへんのごろつきと変わらない、粗野な食いかたにもどこか品がある。妙なひとだとぼんやり思う。

「フミどのはほんとうに、よい母御なのでしょう」

 そう言ったのは宮だった。匙で粥をひと撫ですると、ほのかに笑みを浮かべてつぶやく。

「われらを拾ってくださいましたし、このお粥もおいしゅうございます」

「うまいよ」

 サクが便乗する。伏丸(ふせまる)も急いで頭をさげた。おや、とフミは目をまるめる。

「そんな褒めたってなんも出ないよ?」

「そうだ。ここにはまことになにも」

又二(またじ)さまちょっとお黙りなさい」

 フミが膝がしらを叩くと、ぱしん、とよい音がした。真杭又二郎が大仰に痛がり、みんなで笑いだしてしまう。宮も口もとに袖をあてがい、くすくすと肩をゆらしていた。なぜか、ずきりと奥底が疼く。

「ところで、ひとつお聞きしたいのだが」

 ひとしきり笑ったあとで、真杭又二郎が切り出した。まっすぐ見ているのは、宮だった。はい、と座り直した宮に、真杭又二郎はかろやかに問うた。

「あなたは、もしや滌宮(すすぎのみや)では」

 いかにもさようにございます、と、宮はすぐさまこたえを返した。





  **  **





 (やしろ)のある国だけあって、滌宮もよく知られている。一介の村びとだったとはいえ、ぜんぶつくりごとと決め込んでいた伏丸とはずいぶんなちがいだ。フミも、うすうす気づいていたと、少し申し訳なさそうにした。

「宮さまって呼ばれてたからね。あと、まわりの風がこう、なんとなくきれいな感じがしてね。言わないから聞かなかったけど、そうなんだろうと思ってたのさ」

 鍋から白湯を杓子で掬って碗に注ぐと、宮に手渡す。宮はうやうやしく受けとった。

「隠すべきことではありませんが、吹聴すべきことでもないのでいままで黙っておりました。おこころづかい、いたみいります」

 伏丸は黙っていたというより、それどころではなかったのだ。宮が倒れてしまったから。(すすぎ)をしすぎたせいでもあろう。餌袋(えぶくろ)にたかった(わざわい)までを、こまめにすすいでいたのである。しかし、それこそが宮のつとめだ。そして伏丸のつとめでもある。その先に待っているものが、ふと首をもたげ、ぞっとした。フミに渡された白湯の椀を、両手に包み、縋るようにする。

「それでは、禍をすすぎながら、旅を続けられてきたのか」

 宮が滌宮であっても、態度を変えることがない。真杭又二郎は、持参した酒を茶碗に注いで飲んでいた。宮は、静かに肯った。

「さようにございます。こちらのお社にも、先日まいりましたところです」

「さようか。休まれておったとのことだが、お身体のほうはだいじござらぬか」

 真杭又二郎がそうたずねるのは、宮の目もとが陰っているのに気づいているからなのだろう。伏丸は思わずうつむいた。話が、逃げたいほうばかり向く。白湯のぬくもりさえ疼痛を呼ぶ。宮は、ええとうなずいた。

「おかげさまで、だいじありません」

「それは、よかった。しかし滌宮は、道中、賊にも出くわされるのだな」

「そうだよ。もっと幾重にも、守られてるのかと思ってた」

 親子が口々に言った。それは伏丸も思ったことだ。おれもびっくりしたと、サクもこぼした。

「はい。いろいろとあるのですが、どうにかやってこられております」

 平然とこたえる宮を、茶碗をあおった真杭又二郎がのぞく。伏丸は腰を浮かせた。なにか、見定める視線に思えて。真杭又二郎は宮に呼びかけた。

「滌宮。旅のおわりまでは難いが、せめてこの国を出るまでは、是非にわれらがお守りいたそう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ