二十三 支度
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宮はほどなく目を覚ました。起きあがり、フミに礼を言うすがたは、見慣れた気丈な宮だった。けれども、フミに促され、もういちど横になると眠ってしまった。かなり疲れていたのだろう。今度はサクが横に張りつき、宮をまじまじと見守っていた。
フミは、こちらの事情については、とくに聞いてこなかった。そのかわり聞かされた話によると、この庵は恩人のものであり、そのひとのなくなったあとからフミが守っているのだという。フミはひとり暮らしだが、たびたび客が訪ねてくるので寂しくもなれないのだと語った。
庵は日暮れがすぐ来るらしい。木陰の中に守られるかわりに、光がうすらぐのもはやいのだ。部屋の薄暗さが濃くなって互いの顔に影が落ちると、フミは囲炉裏から灯台へ、つぎつぎに火を移していった。それからサクを連れて畑へ行き、青菜をたくさん引っこ抜いてきた。
「それじゃ夕餉の支度するからね。すぐできるから待っといで」
土間に置いてある笊の中から芋をいくつか見繕い、米櫃から黒い鉄鍋の中へ、じかにじゃらじゃらと米を入れる。サクが米を研いでくると言って、フミから鍋を受けとった。
「サクは働き者だねえ。うちの子になるかい?」
「ならないよ」
フミのおおらかな申し出に、サクはそっけない調子でこたえてさっとおもてへ出ていった。ぼんやりしていた伏丸は、ようやくわれに返り、土間におりた。
「わたしも、なにかお手伝いします」
「そうかい? じゃあ、芋でも剥いとくれ。できる?」
「はい。やらせてください」
食事をつくるのには慣れている。幼いころからやっていた。フミはくるりと目をまるくして、なぜだか顔をのぞきこんでくる。どうしたのだろうと笑ってみせると、わけありだねとつぶやいた。はい、とかなんとかこたえたが、わけがないひとはいないのだし、己のわけなら己でつくった。
伏丸は、フミから刀子を受けとり、ひっくり返した桶に座って芋の厚い皮を剥きはじめた。黒っぽい布に似ている皮と、やわく粘りのある実のあいだ、するりと刀子を滑らせていく。皮を取り去ると、おどろくほど白い。指先で土を拭ってやる。
「うまいじゃないか、半分の半分にしとくれ。米と一緒に煮込んじまうから」
板敷に置いた俎板の上で、青菜を刻みつつフミが言う。わかりましたとこたえたとき、サクが外からもどってきた。
「ありがとねサク、ん、どうしたんだい? おばけでも見たかい? 日暮れだからねえ」
フミがサクのそばにかがんでたずねる。伏丸も顔をあげてみると、確かにサクはこわばっていた。
「どうした────」
「だれか、だれか、来るよ」
声をひそめて、サクは告げた。
「なんか、へんかも。まずいやつかも。おれ勘がいい、わかるんだ」
真剣なことばに身構えたとき、がらり、耳障りな音が響いた。入り口の戸が開けられたのだ。ずいぶんと荒っぽい手つき。とっさに、伏丸は立ちあがった。戸口には大きな影があった。男。刀を帯びた三人。毛皮を肩や腰にさげ、なにやら香ばしい風味である。盗人に狙い打ちにされたか。ここはまわりにひとがおらず、不用心なところでもある。
伏丸は、刀子を握っている手をさりげなく背のうしろへやった。ほぼ同時、三人のうちのひとりがすらりと刀を抜き放つ。そばにいるフミに突きつける。フミは、怯える動作をし、こちらへサクを突き飛ばした。吹っ飛んできた軽い身体を、伏丸はしかと受けとめた。
「金目のもん、出してきな」
唸るように、男が命じる。フミをかばおうと踏み出して、伏丸はその目に制された。フミは一瞬こちらを睨み、まだ動くなと言うようだった。




