第89話 笑顔の花
トントン……
扉の前に立った僕は、不安な気持ちで一杯だった。ドアのノックの音が今の気持ちを上手く奏でているとわかるくらいに……。一体今回はどんな実験をされるのやら……、いくら再生する身体とはいえ、あの人たちは人権を無視したこと普通にやるからだ。特にアオバサユリ! あの人は要注意だ。
ガチャリ
ドアから出てきた人物は、まさにそのアオバサユリだった。
最悪だ……
「トガ君、よかった来てくれたのね」
「そりゃ来ますよ一応……、今日は何の御用で?」
何か深刻そうな顔をしていいるのは初めてかもしれない。いつもなら来た瞬間、ニヤニヤしながら直ぐに研究室に連れていくはずなのに……。
「まあ、中に入ってくれるかな? あ、変に驚かないでね……」
どうやら廊下では聞かれたくない様だ。どんな実験してるんだか……、しっかりと周りから中の様子が見えない部屋をわざわざ選んでいる時点で、如何わしい実験に違いない!
「わかりました。でも、あまりにもひどかったら今度こそ支部長に報告しますからね!」
「ちょっと、何変なこと考えてんのよ! 今回は身体検査とか人体実験じゃないの! 自意識過剰もほどほどにしなさい!」
どうやら実験じゃないらしい、僕は安心よりも先に驚きが勝ってしまった。
「いいから、ボ~っとしてないで早くこっちに来なさい!」
僕の腕を強引に引っ張って、彼女は部屋に連れ込んだ。
部屋の中にはいつもの危険な器具などは無く、病院の診察室みたいだ。そして、何より驚いたのが、意外過ぎる人物がこの場所にいたのだ。
「し、支部長!」
そう、オオモリトウヤ支部長が居たのだ! なぜこの人がこんな場所に……
「やあ、トガ君! 仕事は順調そうですね。キラ君から聞いていますよ、よく働いてくれていると。 能力もアオバ君達と協力して強くなっているそうじゃないですか! まあ、やり方とか実験に関しては聞きたい部分がありますが……」
「ちょっと~支部長、今回は違うでしょ♡」
急に彼女は、社長と知るや否や態度をガラリと変えた合コン女子みたいになった。
「まあ、そうですね。それに関しては後々……。トガ君、今日あなたが来ていただいたのは、カンダツバキ君に関しての事なんです。彼女の異変……、能力についての事で君が知っていることを教えてほしい……」
能力? 異変?
「まさか! 彼女も能力者になったのですか?」
「ええ」
支部長は何故か苦い顔をしながら一言だけ返答を返した。
何故ここまで難しい顔をするのか、この時の僕にはわからなかった。
だが、その疑問の答えはすぐに発表されることになった。
「アオバ君、彼女をこちらに……」
「いえ、自分で行けます……」
カーテンの奥から、カンダさんの声が聞こえた。少し元気がないように感じたが、いつもと何ら変わらない、聞き覚えのある声だった。しかし、奥から現れたのは見慣れない彼女の姿だったのだ。左目から大きな花が咲いている彼女の姿が……。
「か、カンダさん! そ、その左目……」
「ええ、気味悪いでしょう。これだけじゃないんです……」
「ツバキ?!」
「いいんです。ありがとうございますアオバさん……」
彼女はそう言った後、シャツのボタンをゆっくりと外し、上半身下着だけの状態になった。いつもの僕ならそんな彼女の格好を見てしまったら、顔を赤くして慌てている所だっただろう。しかし、そんなことにはならなかった。なぜなら彼女の身体を纏わりつくように出ている木の枝に目がいったから。僕は言葉を失ってしまった。
異形……そういう事か……
「……気味悪いですよね。こんな体」
沈黙を彼女自身が打ち破った。
「綺麗な花……」
「え?」
「あ、ごめんね。つい、綺麗だな~って思ってさ。何というか……ミロのヴィーナスのような……」
自分でも何を言っているのかわからなかった。そんな僕をアオバさんが眉間にしわを寄せて叱ってきた。常識がない、空気を読んで! と言わんばかりに……
「ご、ごめんなさい! カンダさん! その上手く伝えられなくて……」
「ふふふ、ありがとうございます。なんか元気出ました。」
光が差し込んだ花の様に彼女の笑顔が咲き始めた。




