第87話 ドリアード
左目を隠したまま、長く続く廊下をアオバさんに手を引っ張られながら、進んでいった。まるでお母さんと子供のようだと、そう見られているんじゃないかと思うと、恥ずかしくなってきた。
「ア、アオバさん! じ、自分で歩けますので!」
「あら、そう! 左目を隠しているから上手く歩けないと思って……。というか、お花が咲いた目でも景色は見えているの!? どう見えるの? まつ毛とかないけど、ゴミとかは大丈夫なの?」
「ちょっと! 静かにしてください! 研究所に着いてから伝えますので」
相変わらず油断すると、暴走するんですから……。
「あ、お帰りなさいアオバさん……。カンダさんどうしたのですか!?」
研究所に着くや否や、同僚たちが一斉に心配してきた。いつもは研究だけにしか興味ない人達なのに。
皆さん……
「すみません。朝はご心配をおかけしました。実は……」
「はいはい、仕事に戻って。私のときめく結果待っているわよ」
私が事情を説明しようとしたら、割って入るようにアオバさんが止めてきた。
「さあ、ツバキちゃん。先生と一緒にお検査しに行きましょうね~」
「子ども扱いしないで下さい……」
いつものガラスで囲われた部屋ではなく、周りがちゃんとした白い壁で覆われている部屋へと連れてこられた。病院の診察室みたいだ。部屋にある椅子に腰を掛けたアオバさんは、私にも余っている椅子を差し出してそこに座るように促した。白衣姿の彼女がそのようなことをすると、本当に病院の先生みたいだ。
「ツバキ、あなたは能力者になったのよ」
「はい、私自身そうだと思っていましたので今更驚きはしません」
私は冷静に今の自分の心理状況をお伝えした。
「まあ、ここで働いているあなたが気付かないはずないわよね……」
「……先程からどうかしたのですか? そんなにショックなのですか?」
「とりあえず、もう一度検査しましょう……」
彼女は少し寂しそうに伝えると、私を昨日と同じ検査を受けさせた。それ以外にも特殊な検査も受けることになった。検査は半日ほどかかり、結果は明日になるらしい……。
「あの、アオバさん……この左目に出来た花を消すと言いますか、能力を解除? する方法とかはないのでしょうか? このままだと日常生活にも支障が……」
私がアオバさんに聞いても、彼女は言葉を濁すだけだった。
まあ、明日になればわかりますよね?
私はそう自分に思い聞かせ、社宅へと戻った。
帰りの道中もアオバさんと一緒だった。
そこまで心配にならなくてもいいのに……
朝日が差し込み、そのタイミングで身体が起き始める。今日もいい天気だ。
気持ちよく背伸びをしようとしたその時だった。右手に異様な花のつぼみが付いていたのだ。いや、正しくは咲いている……。それだけじゃない、身体のあっちこっちに、木の枝の様なモノが血管みたいに浮き出ている。何が何だかわからなかった。私は顔を真っ青にして、洗面所の鏡に向かった。そこに映っていたのは、全身に木の枝が浮き出ているモンスターの姿だった。




