第83話 朝は必ず来る
「ツバキ! ツバキ! しっかりして」
「ダメだ! 血が止まらない……このままじゃ」
最悪の結果が頭をよぎった。カンダさんは非能力者、つまり普通の人間だ。そんな彼女が、これほどの大けがを負ってしまうとなると、直ぐにでも医者に診てもらわねばならない。しかし近くに病院はない。
「ああ、どうしたら……押さえても押さえても血が止まらない。いやぁ」
カンダさんの顔からみるみる生気が失われていくのが分かる。
「……ハイノメ、ミナを酒で叩き起こして」
「え?」
「さっきの部屋のゼノたちをここに運んできて」
「う、うん! わかったわ」
僕は大粒の涙を流す彼女を奮い立たせた後、眠っていたミナさんを無理やり起こさせた。ちょっとかわいそうだが緊急事態なんだ。
「ちょっと痛いが頑張れよ」
僕は自分に言い聞かせた後、口元をサメの様なモノへと変化させた。前に隅田川で仕留めたゼノの能力だ。その後僕は自分の右腕を食い千切った。あまりの痛みに気絶しそうになったが、堪えて彼女の切断された腕にくっ付けた。本当は彼女自身の腕を使いたかったが、その腕はあの女に持っていかれてしまったからしかたがない。その後はハイノメを治療した時の様に、細い血管のようなもので縫合したりした。何とか血は止まった。
「ショウ、持ってきたわ」
ハイノメ達が帰ってきた。ミナさんの火事場の馬鹿力で数体のゼノが一度に運ばれてきた。これだけあれば十分だろう……
「よし、これを全部喰う」
「え、これを?」
僕は無我夢中で喰いまくった。
喰って喰って喰って喰って……
「ショ、ショウ君……大丈夫?」
ミナさん達が途中、おぞましいモノでも見ている顔付で、僕のことを心配してくれたが、一切気にならなかった。ただひたすらに食べていた。
気が付いた時には大量にあったゼノの死骸は、どこか別の空間へと消え去ったのかすっかり消え去っていた。
「ふーよし、やるぞ」
僕はカンダさんに取り付けた元僕の腕をグッと、つぶれない程度に握りしめ、そこからエネルギーを分け与えるイメージで、血を流していった。
「う、ううん ここはいったい?」
白雪姫のように眠りについていた彼女が目を覚ました。
「あ、ああああ! 生き返った! 生き返りましたよ!」
「ツバキ! 無事なのね! これ分かる? 今、私の指何本?」
ミナさんとハイノメは、彼女の傍に駆け寄った。
「うわあああああああん、無事でなによりですぅぅぅぅぅ」
「ちょっと、ユズキさん! 鼻水つけないで下さい! あと、二本です」
「うう、正解……うわあああああああん、よかった~」
ハイノメも我慢できずに泣き始めた。
「ええい、アンタまで鼻水出すな……ご心配おかけしました皆さん。そういえば、トガさんは~って、あしたのジョーみたいに燃え尽きている?!」
「……無事でなにより……」
僕は能力を使い切った反動なのか、彼女が無事だと知ったからか、燃え尽きてしまった。
「……ありがとうございました。トガさん。そうだ、女将さんたちは?」
「それが、その……」
僕は彼女が気を失った後の事を伝えた……
「そうですか……娘さんは無事ですが……女将さんが……」
「今回は私たちの負けよ……でも、完全に負けたわけじゃない! 次あったらギタンギタンのボコボコにしてやろう!」
「ええ、本当に」
後ろばかり向いてはいけない、失敗しても、後悔しても、過去には戻れないのだから、朝日がそう僕たちにぬくもりで伝えてくれている気がした。




