第73話 違和感
朝露に濡れた虫の羽は黒くつやつやと輝いている。
「さあ、現場に向かいましょう!」
「カンダさん張り切っていますね!」
「当たり前です! そこの2人の見本になるようにね」
元気いっぱいな彼女の後ろで、死にかけの虫の様に頑張って歩く僕とハイノメ
昨日は結局眠れなかった……
それはハイノメも同じようだ。できる限り体力を温存するために、カンダさんのペースに合わせないようにしている。
「しっかりして下さい! よりにもよって、あなた達2人が体調不良だなんてどうするんですか! もしゼノが現れたら……」
「すみません、私も戦力になれるように努力します……」
「いえ、そういうわけで言ったんじゃなくて! ユズキさんは、その最終兵器ですよ! 奥の手ですよ!」
「アハハ……所詮、私は理性を失うバーサーカーですよ」
前で2人が何か話しているようだが耳に入らなかった。
あんなこと聞いた後だと、もう他の事は興味が湧かなかった。
「着きました。ここが目的地の現場です」
現場は写真で見た時と比べると、きれいに片づけてあり、特に証拠とかはなさそうに見えた。聞くと僕たちが来るよりも前に死骸などは回収したらしい。あとは、少しばかり残ってある血痕と、周りの木や、地面に残った戦いの痕跡ぐらいだ。
「ねえ、私たち来る必要あった?」
ハイノメがやる気なさそうにカンダさんに問いかけた。
「当たり前です! さあ、調査開始です!」
周辺の景色が赤くなり、とても幻想的な景色を作り出している。
ああ、地球に生まれてよかった
「ツバキ班長~何の証拠も出ませんでした!」
ハイノメの声がこの美しい景色をぶち壊してくる。
「世界樹の根も見られませんでしたか、ゼノの死骸があったので、もしかしたらと思っていたのですが……」
「まあ、良かったんじゃない? もしあったら大問題だし……」
その通りだ、今はまだ東京と大阪の2つの都市を中心に現れているものが、ここ静岡にも現れ始めたとなれば大問題だ! 現在、少ない戦力を東京と大阪に振り分けて押さえている状況なのに、これ以上増えてしまうのは困る。
「そうですね! 化け物たちもいなさそうですし、安心です」
「まだ気を緩めるのは早いですよユズキさん! なぜこんな離れた場所に、ゼノの死骸が現れたのか? わかるまでは気を引き締めないと」
「そ、そうですね」
カンダさんは僕達2人の顔を見て、ため息を挟んだ後に今日はここまでにしようと、僕たちに聞いてきた。真面目なカンダさんらしからぬ言葉に、3人ともポカーンとしてしまったが、2つ返事でOKを出した。
「トガさん、少しいいですか?」
帰り道、カンダさんは僕に昨日何があったのか聞いてきた。ミナさんも心配そうな顔をしながらこちらに来た。半分目を瞑ったハイノメを置いてきて。僕は教えるべきかどうか悩んだが、あったことすべて話すことにした。隠しきれないし、いずれわかってしまうことだと思ったからだ。
帰り道の途中、少しくつろげる場所が見つかったので、ハイノメを座らせた後、僕は昨日のことをミナさん達に教えた。
「そうなんですか……可哀そうに」
「だからあんなにもトガ君のことを拒否してたんですね……」
「まあ、あの拒絶反応見るにそんなことあったのかな?って思っていたけど、まさか実の父親から受けていたなんて思わなかった。 このことは言わないでね、もしあの子に知れちゃったら、今度こそ人を信じられなくなりそうだから……」
ぼくは完全に眠りについたハイノメを負ぶって、帰り道を歩き出した。
「ユミさん、子供みたい!」
ミナさんがニコニコしながら例えてきた。
「こんな手のかかる子、死んでもごめんだね!」
旅館に着くと同時にハイノメは起きた。
「おはよう、皆!」
「たく! おまえな~」
「しっかし、ショウはすごいね。眠くならなかったの?」
「この不死身の身体のおかげで大抵のことは大丈夫だよ」
「ショウ君すごいです。その身体ならどのブラック企業に勤めても大丈夫ですね!」
ミナさんが褒めながらいじってきた。あんまりうれしくない……
「ミナさん心の疲れはとれないのよ……」
「羨ましいです」
「カンダさん、ストレスも癒えるわけじゃないのよ……」
「いいじゃん! 24時間戦士じゃん! ヨシ、今日からアンタの二つ名は戦士よ」
「八倒すぞ!」
玄関先でガヤガヤ騒いでいる……のに
普通なら女将さんがお出迎えしてくれてもいいのに
何か手が離せない事でもしているのか?
「……なんかやけに静かじゃないですか?」
カンダさんも違和感に気付いたようだ。
「寝ているんじゃ……ほら、今女将さん御1人で頑張っていますし」
「だといいんだけど……、ほらミナ!」
ハイノメはミナさんに酒を渡した。
「ええ! 飲んでいいのですか!」
「ええ、アンタの眠っている赤鬼の力で匂いを嗅いでほしいの。アンタも結構能力コントロールできるようになったでしょ!」
ミナさんは覚悟を決めた顔立ちになり、手に持っている酒を飲みほした。




