第69話 嘔吐娘
怒りは一瞬で静まった。
ミナさんとあんなことや、こんなことをできるチャンスを潰されて、ムカムカしながら扉を開けたら、女将さんと問題児の娘が立っていた。難しい顔をしていたので、彼女たちがここに来た理由はすぐに分かった。
女将さんは僕の顔色を見ながら頭を下げた。後ろに隠れている娘も少し前に進み、僕の顔を見た。するとしばらくして彼女は蒼くなり、足元に嘔吐物をまき散らした……。
ど、どうしたんだ……
僕は理解が追いつかなかった。急に部屋を訪れたと思ったら、今度は盛大に部屋の前で吐かれるとは……
そ、そんなにトラウマになっているのか?
ちょっと口喧嘩しただけだったと思うんだが……
あまりの急な出来事で脳がフリーズしてしまった。女将さんは血相を変えて娘の様子を心配した。かなり慌てている……母親として当たり前のことなのだが、あの立派な女将さんの姿は何処にもなかった。
「だ、大丈夫ですか?」
脳が再起動した僕は彼女たちに声をかけた。
「も、申し訳ありません 申し訳ありません」
女将さんは涙を浮かべながら、必死に土下座しながら謝ってきた。
「ショ、ショウ君どうしたの? これってどういうこと?」
ミナさんも心配になってこちらに来た。
「いや、もう……」
こっちが聞きたいよ……
もう何が何だか……
「え、えーと、ツルギさん……だっけ大丈夫?」
ぼくは彼女に優しく手を差し伸べる様に声をかけた。
「い、いや……おぇ」
「……」
「申し訳ありません 今はそっとさせてあげてください」
「……」
もしかして、生理的に拒否られてる?
「ショウ君はとりあえず奥に隠れていて」
「う、うん」
ミナさんが険しい顔で僕に指示を仰いだ。僕はただ彼女の指示に従うしかなかった。
「女将さん手伝います。取り急ぎこの子をこの場所から出しましょう!」
「あ、ありがとうございます」
「この子を運び出した後、消毒液などお借りしますね」
ミナさんはそう言って、二人と一緒に遠くの方へ消えていった……
「もう、何が何だかわかんないよ!」
誰もいない部屋で、大声で溜まっていた不満をぶちまけていた。
これ、僕が悪いのか?
しばらくするとミナさんが帰ってきた。彼女は僕に消毒液とゴム手袋、モップやらタオルやらを渡し、『あとは出来るよね!』と、この吐しゃ物の掃除を命じた。彼女はその後、嘔吐娘の様子が気になると戻って行ってしまった。
……何しに来たんだろ僕は
「ちょっとショウ! 何かあったの? うわ!クサッ」
騒ぎを聴きつけたハイノメとカンダさんがやってきた。二人に事の事情を説明すると、二人共心配になったのか嘔吐娘の方へと向かっていった。
「一人くらい残ってくれてもいいのに……」
これ、ぼくがわるいのか?




