第68話 恐怖
夜9時過ぎ、まだ就寝するには早い時間帯だ。お風呂に入って気分が良くなったところ申し訳ないが、この機会を逃すと二度とあの男に謝ることは無いと思うから。正直、私自身やり過ぎてしまったと思っているし……、いや本来やっちゃいけないことだったと思っている。
でも、お母さんを守りたかった
それに私にとって、男という生き物は恐怖でしかないから。
お父さん……いや、あの男だってそうだったんだから。
あの男のドアの前に立ち止まる。私は母の一歩後ろに立ち、顔を下に向けていた。母が私の顔色を窺い大丈夫だと判断したのか、コンコンとドアをノックした。
その瞬間帰りたい気持ちと、後悔が一気に駆け巡った。
ドアはガチャリと力強く開けられ、中から男が現れた……
なんか、怒ってる?
男の顔は心なしか険しそうな表情? いや、この顔はすごく楽しんでいたところを邪魔されたときの顔だ。映画のクライマックス中に邪魔されたときの様な……
母も男の状態に気付いたのか申し訳ありませんと、今回は引き下がろうとした。しかし、それを止めたのは奥からきた一人の女性、同じ宿泊客の人だ。来た時からこの男と距離が近かった人だ。まあ、そういう仲なんだろう。で、いまからお楽しみの時間だった、もしくはお楽しみの最中だったというわけだ。それを邪魔されて気が立っているというわけね。
ほら、やっぱり男なんて皆こんなもんよ
ヤルことしか考えていない、しかも邪魔が入ったらキレるし、女をなんだと思っているの……
「おえぇぇぇぇぇ」
私は盛大に吐いてしまった。つい頭のなかであの時の光景がよみがえってしまった。母がお得意さんと、弱みを握ったきもい奴と……
それに対して何もできない父が腹いせなのか、寂しさなのか、私に対して人として、親としてやって話いけない行為……
私にとって男と女の関係はそれしかわからない……
小さいころ絵本や映画で見た王子様と幸せなキスとかそういうのはない。ただ目の前に映っていたのは、もう誰にも盗られまいと必死になって腰を振り続ける男の姿だった。優しかったはずの父の記憶はもうどこにもない……
記憶喪失といってもいいほどに思い出せない……
もう、大丈夫だと思っていた。母に心配かけまいと、母を守らないと
でも、ダメだった。
私にとって男は恐怖の塊でしかなかった。




