第60話 カメヤツルギ
スタスタと廊下を歩く女性を、私はじっくりと少し離れた場所で観察している。
「ちょっと、お母さん! さっきの男の人と何してたの!?」
私には分かる。今私の目の前にいる女性はオンナになっている。
「ツ、ツルギ! な、何してたって…… 何もしてないけど」
「嘘つかないで! なんかすごく嬉しそう」
私の母、カメヤミサトはここの旅館を切り盛りする女社長だ。祖父の代から受け継いだこの旅館、そして女手一つで私を育ててくれた人。
近くで見てきた私にはその多忙さは十分に分かる。
そんな人が! そんなお母さんが! あんな男に恋心を抱いている!
最初は久しぶりのお客さんで、ウキウキしていたのかとも思っていたのだけど。
あれは違うと断言できる! 娘の私にはわかる!
「違うわよ! ちょっとからかっただけよ」
「へ~、大切なお客様をねぇ~」
ぐぬぬ! と、反論できない母を見て確信した。
「それに、あの男の人ちょっと危なくない?」
「こら! ツルギ! お客様をそのように言うんじゃありません!」
「いや、ロリコンとかじゃないよ。 なんか あの男の人といると変な感じになるというか……」
見た目は普通、言動も普通、特に変わったこところはない……
でも、なんか危ない気がする……
「ツルギ……あなた気になっているの?」
「ちがう! わたしはお母さんの事を思って……」
「まあ、わたしもお板が過ぎたわ。大事なお客様に対して……」
母はそう言うとキリっと切り替え、先ほどの少し抜けた顔を捨て再び歩き出した。
「ありがとう。ツルギ おかあさんどうかしていたわ」
「まあ、わかってくれたのならいいけど……。そうだ、お母さんは女性の方々をもてなして! 私はあの男を何とかするから」
「あの男とか言わないの! それよりもあなたにできるの? 人とのコミニケションの苦手なあなたが?」
母は私の事がかなり心配の様だ。私自身、自分がコミュ障だということは自覚している。しかし、母をあの男と一緒にしてしまうのは非常にマズい。何としても阻止しないといけないから
「お客様に失礼なことはできないわ! まだ駄目です」
「か、かわいい子には旅をさせよって言うじゃない! 私だって……」
そこから先言葉が出てこなかった。もぞもぞしている私を見て我が子可愛さに負けたのか、呆れたのか。
「わかったわ、まあ確かに人手が足りない今、あなたにも手伝って貰わないといけないし」
ヨシ!
「ぜっっったいにお客様に失礼のないようにね」
「もちろん! まかせてよ」
「ふ、不安しかないわ……」
私は従業員スペースにもどり、ちゃんとした着物に着替えた。
まずは形から入らねば、着物は母に教えてもらっているので卒なく着こなせた。
「さあ、奴の本性を暴くといきますか!」




