第56話 女将さん
駅から離れた所の人気のない場所に、ドンと構えている旅館。とても立派な造りで、日本人は勿論、海外の日本文化の好きそうな方にもお勧めできる旅館だ。だが、人の気配は全くと言っていいほどなかった。
「着きました。ここが今回私たちが宿泊する場所です」
カンダさんはそう言って、意外と重くなさそうなリュックを降ろした。
「おお、ここが私たちの泊まる旅館ね! すごいじゃない!」
ハイノメが目を輝かせている。確かにいつも避難区域で寝泊まりするから、こんなちゃんとした場所で泊まれるとなると、テンションが上がるのもおかしくはない……
僕自身もかなりワクワクしている。本当に旅行しに来たみたいだ。
「は、早く部屋に入りましょう……。もう、足がへとへとで……」
両手にお土産を抱えながら、ヘロヘロなミナさんを見て、ハイノメが一言
「も~お土産買いすぎよ! 楽しむ前に疲れちゃってどうするの!」
「いや、ハイノメ、僕たち仕事で来ているからな」
旅館の入口の前で笑顔で出迎えてくれる優しそうな人が、立っていた。まさにおもてなしの心の象徴ともいうべき存在、旅館の女将さんだ。年齢は30代半ばくらいで、ベテランの雰囲気を出しつつも、エネルギッシュなパワーも放っている。きちっと着こなした着物がまた、すごく妖艶に感じる。
「ちょっと、ショウくん何鼻の下伸ばしてるんですか!」
「いやいや違う違う」
危ないところだった。ミナさんに気付かれるところだった。
いや、気付かれてるか……
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。世界樹対策課日本支部御一行様」
女将さんは優しい言葉遣いで、僕たちのことをもてなしてくれた。僕たちが来ることは知っていたようだ。
災害から結構月日が流れた、被害の少ない地域や県では、電話など使えるようになっている。
「お、流石対策課 ちゃんと予約してるじゃん」
「はい、今日はお客様の貸し切りでございますから」
「えぇ! そこまでしてくれたんですか!」
僕はびっくりして思わず声を荒げてしまった。
「流石、世界樹対策課 ブラックだけどこういうところは、しっかりとしているのね」
隣のカンダさんも驚いている
「いえ、申し訳ございません。恥ずかしいことながら、お客様以外のご要約がございませんもので……」
どうやら違ったようだ。少し気まずい雰囲気になってしまった。
カンダさんも申し訳なさそうな顔をしている。
「お気になさらずに、災害後ぱったりと客足が途絶えてしまっていたところ、お客様が、来てくださったのですから。その分、今回精一杯おもてなしさせてくださいね。」
女将さんはそういって優しい笑みで僕たちを和ませると、旅館の中へ案内した。




