第117話 殺意と芋けんぴ
部屋の奥の間仕切りビニールカーテンの中で、彼女は掛布団に身を包んだ状態で待っていた。
「遅かったじゃない」
意外だった。父親は樹神教の良いように使われていて、母親も連れ去られてしまった彼女は、もっと自暴自棄になっているんじゃないかと思っていたからだ。あの事件から時間が経ったとは言え、まだ心の傷が癒えておらず、拒否反応されるとおもっていたから。
「もう、大丈夫なの?」
「体は平気、お母さんが連れて行かれちゃったのはショックだけど……」
彼女の顔を見るに平気そうではない、まだ結構無理をしている顔だ。
「でも、ここでずっと籠っているのはイヤ! 私はお母さんを助ける。そしてあの男を殺す。」
あの男、おそらく実の父親のカメヤゲンドウの事だろう。彼女の瞳の奥は冗談を言っている様には見えなかった。
本気だ……
「だから、アンタたちの仲間になるわ!」
彼女は僕に熱く想いを伝えた。しかし、彼女は無能力者、仲間になるとしても、カラスマ君みたいに僕達戦闘係のサポート係とかだろう。たぶん彼女は納得はしないだろう。現場に出向いて、時期が来れば母親を助ける目的と同時に、父親も殺すつもりだから……
「わ、わかったよ……一応、上司に言っておくよ」
「お願いね、あと、勢い余ってアイツ殺すとか言ってたけど忘れて!」
無理がある
「あのな、いくら何でも殺すのは……」
僕がその後のセリフを言おうとした瞬間、彼女の獰猛な目つきでかき消されてしまった。
「あと、能力者になる方法教えて」
「知らん!」
「は?」
「いや、なんで能力者になれたのかわからないんだよ。まあ、この能力がなかったら今の自分はいないからなぁ」
「そ、そんな……」
「まあ、今後解明されていくんじゃないか?」
「それじゃあ遅いのよ! 私は今からでもお母さんを助けないといけないのに!」
彼女の大声に、危ないと判断したのかフタバさんが入ってきた。
というか復活していたのか!
「お、落ち着きましょう。ね、ツルギちゃん」
「うるさい、ホウキ女!」
「ほ、ほうき? ト、トガさん今日の所はここまででいいでしょうか? 彼女まだ混乱していて、私の事ホウキですって何を言ってるの!」
「だまれ、芋けんぴまだ頭に刺さってるぞ!」
「ああ、疲れた……」
治療部署を後にした僕は、トボトボと1人で戦闘係の部署へと戻っている最中だ。カンダさんの様子も見に行こうと思ったが、流石に結構な時間が過ぎ去ってしまったので、仕事が終わってから見舞いに行こうと思う。自分の家の隣だし
「戻りました」
「おかえりなさい、どうでした?」
帰るとミナさんが心配そうに聞いてきた。
「カンダさんにはまだ会ってなけど、ユイちゃんは元気だったよ、もうバッチリ! ツルギちゃんは闇落ちしています。」
「なんだってー! それは大変じゃないか」
急に大声を出すキラさん
「はい、大変でした。もう、色々と……」
「そうだったのですね、お疲れ様です。今温かいお茶作ってきますね。キラさんはおかわり如何ですか?」
「お、じゃあまた一杯貰おうかな」
僕が留守の間、何事もなく平和に過ごせていた様だ。
たまにはこういう日もないといけないよな……
あ、ハイノメ……
彼女は犠牲になったのだ。仕方のない犠牲なのだ。




