第112話 天使の赴くままに
朝日が昇り、暖かいぬくもりが地上に降り注ぐ。
そのまま二度寝をしたくなるぐらい気持ちのいい暖かさだ。
隣にいるレモンちゃんも一度起きた後、また眠ってしまった。
「ん? パパ?」
「おや、起きたんだね。おはよう……」
「うん! おはよう! パパ」
レモンちゃんの純粋無垢な笑顔に心が締め付けられる。
「どうしたの?」
僕の顔を見て何かを察したのか、不安そうな顔を浮かべて心配してきた。
「いいかいレモン……パパはね、別のお仕事をすることになったんだ。それで、この区画から離れることになるんだ。」
「そうなんだ……うん! わかった引っ越しの準備しなくちゃね」
レモンちゃんはそう言うと、慣れた手つきで引っ越しの準備をし始めた。僕はボーっとその光景をただ見つめていた。
「どうしたの? もしかして準備早かった?」
「そのことなんだけどね……」
太陽が丁度中心に昇った所だろうか……
僕達世界樹対策課日本支部御一行は、荷物を整理し終え、支部へ帰るところだった。後ろでは僕たちの事を毛嫌いしている樹神教の人たちが集まっていた。そんな中、トオガタさんの手をぎゅっと握りしめ、大粒の涙をポロポロとこぼれ落としているレモンちゃんの姿があった。あの子を連れて行く訳にはいかない。可哀そうだがここでお別れだ。僕はミドリカワ、父親の姿のままあの子の顔を見ながら手を振った。僕のことを父親だと思っている彼女は我慢の限界を迎えたのか、大きな声で泣き叫んだ。
胸が張り裂けそうだ。
小さな子を騙して、泣かせて……
「これでよかったのショウ?」
ハイノメが僕のことを気にかけてくれた
「ああ、父親がこの事件の犯人だったなんて知りたくないだろ。そもそも、本当の父親はすでに死んでいて、父親だと思っていたのはゼノと言う化け物だったなんて……」
「アンタからこの作戦聞いた時は正直驚いた。まさか、、ミドリカワさんの姿になれるなんてね」
「僕もびっくりしたよ、あのゼノの能力なんだろうけど……」
「どうしたの?」
「いや、僕って人間なのかなーて」
「……なに今更! アンタが何であれトガショウ! 世界樹対策課日本支部戦闘係のショウ、あたしの後輩君でしょ」
ハイノメはいつもと変わらない感じで、疑心暗鬼になっている僕を励ましてくれた。
「遅くなりました。これで出発できますね!」
ミナさんに腕を掴まれて運ばれていたのは、樹神教の教えに飲み込めれていたヤタ君だった。そういえばすっかり忘れていた。
「は、放してください! 僕、ヤタレオンは世界樹の教えを……」
完全に洗脳されていた……
「もう放っておいた方がいいのかもしれマセンネ」
エマは半分諦めかけている様だ。
「ダメですよ! 帰ったらなんて言われるか!」
カラスマ君は険しい顔でエマの提案を否定した。
「皆さん! 目に焼き付けてください! 彼らの愚かな姿を! 彼らは我が信者を連れ去り、ああやって洗脳しているのです。そして意志を持たない兵士に仕上げ、神々を殺すだけの奴隷に仕上げるのです。」
僕たちの事を見ている樹神教のヤマノウチが、信者に向かって、説教を解いている様だ。
「そうだそうだ」
「悪魔の使いめ!」
「いずれ天罰が下る」
その中にはジンエイさんの奥さんの姿もあった。
奥さんにとっては救いの場なのかもしれない、あのまま夫を失った苦しみで潰れるよりはマシだったのかもしれない、だが複雑な気持ちだ。
「なあ、マコトさんは……」
ジンエイさんの息子マコトさんの姿が見当たらなかった。どうやら彼は、母親がああなってしまい、気まずくて来れなかったらしい。そもそも、まだ体調が優れないのでベットの上で横になっている様だ。
「レモン……大丈夫かな」
何も考えずに言葉がでた……
「ねえ、アンタ本当にショウ?」
ハイノメが不安な表情で訪ねてきたが、僕の耳には入らなかった。
「ん? どうしたんだハイノメ?」
何を言ったのか聞き返したが、うんうん何でもないと言われた。
「あと、ミドリカワさんの姿だったとしても、幼い子と一夜を共にするのはどうかと思う!」
「言い方! まあ、気を付けるよ……」
夕焼けがこの日の終りまで数刻だと知らせる。
「ああ、天使様……」
今、私の前にまた天使様が降臨なさった。
「ヤマノウチに何卒神のご加護を!」
全身を白を基調とした姿、大きな羽を広げ、私の前に現れたお姿は天使以外の何者でもなかった。
「種はまきました。時期に実るでしょう。ヤマノウチ……もう一つお願いをきいてくれますか?」
「はい、ワタクシにできることでしたらなんでも!」
「ミドリカワレモンという少女を連れてきて下さい。その後褒美として、サクヤ様に謁見できるチャンスを与えましょう」
「ああ、ありがとうございます。 平和な鳩様……」
私の返事は、はい意外にあり得なかった。




