第110話 後悔と感謝
「……早い所終わらせないと」
ミドリカワは焦っていた。グズグズしていたら僕の仲間たちが集まってしまうからだ。だが、それ以外にも何かに焦っているようにも見える……
「……どうしてこんなことを?」
僕は皆が来る時間稼ぎにミドリカワに質問をした。
「ははは……時間稼ぎですか……」
ミドリカワにはバレバレだった。が、少しすると口を開いて答えてくれた。
「私はあの子の父親になりたいだけなんです。あの子を守りたい、あの子の傍に居たいだけなんです。」
「あの子ってレモンちゃんのことですか?」
「ええ、実は私自身よくわかってないんですよ」
よくわからない!? 聞いているこっちはもっとわからないんだが?
僕は続けて質問を投げた
「アンタは自我と言うか、他の奴と違って知性があるのに何故人を襲うんだ? 人を襲わずにひっそりと二人で静かに暮らせば良いのに……」
「仕方がないじゃないか!」
今まで冷静沈着なミドリカワからは想像できないような形相で怒鳴って返答した。その後、二呼吸おおきく息を吸い、落ち着きを取り戻した後その訳を話した。
「私の身体、なんとか人の形を保っているに過ぎないんです。もともとあなた方の言うゼノだから……。この肉体もレモンの父親を食った時に得た身体なんですよ。だから……許してくださいね……」
その言葉と同時にミドリカワの身体が90度曲がった。
いや……切られたのか?
不意を突かれたとは言え、一瞬の内にもう片方の腕も変化させて、僕の首から上をスパッと切り飛ばしたのだ。僕の頭はボトッと鈍い音を出し、そのまま視界がぼやけていった。
「なんとか、殺すことはできた。しかし、早くこの場から離れないと! 直ぐに仲間が集まってくる。ああ、だがなんてことだ。顔の維持がますます難しくなってきている。この男を取り込んで大丈夫だろうか? 能力者を食ったことは無い。でも、早くしないと私はレモンの父親じゃなくなってしまう。ただの化け物に戻ってしまう気がする……。」
ミドリカワの顔は酷い火傷を負ったかのように半分崩れかけていた。
そのせいなのか、それともゼノに戻りつつあるのか、言動が荒々しくなっていく……
「ええい、今は少しでも戻さないと!」
化け物は牙をむき出し、首のなくなった僕の身体に食らいつこうとした。しかし、その覚悟は無へと帰った。なぜなら僕が阻止したからだ。両手を変形させて、化け物の大きな口を押さえたからだ!
「な!? 何故、動けているんだ? 首がないのに……」
化け物が驚いている中、僕は首から上の再生を開始し、1分もしない内に元の状態戻った。
「ば、化け物ですね……」
化け物に化け物と言われる日がくるとは……
「で、ですが! 私にはまだこの腕がある!」
そう言い放った後、僕の胸に目掛けて突き刺した。
「こ、これなら……あがっ!」
化け物の抵抗は空しく去り、僕に喉元を食い千切られた。
そのまま後ろへと倒れ、同時に僕の胸に刺さった腕もすっぽりと抜けた。3分もしない内に何にもなかったかのように傷口は塞がった。切れる包丁で指を切ってしまっても治るのは早いと言うが、ここまで早いのは世界中探しても僕だけだろう……。
「ああ……」
首からドバドバと血の様なモノが流れている。もう死ぬのも時間の問題だ。
「首食い千切って言うのもなんだけど、何か言い残すことはありますか?」
「は、ハハハ……。見た目に反して……酷い人なんですね。優しいところはあるが、私たちと変わらない……。あ、アナタも化け物ですよ。自分の姿、鏡で見たことないんですか? そ、そうですね。レモンの事どうか守ってやってください……。お願いします。あの子は……、私の生きる理由でしたから……」
「実の父親をアンタは殺している」
「そ、そうなんですが、あの子の父親を喰ってから自我が生まれたんです。おそらく……、もしかしたらあの子の父親の意思が私に来たのかも……。あの子には悪いことをしてしまったと思っている。そして感謝もしている。ほんの少しの時間だったが楽しかった。そのお礼をしたかった……。」
ミドリカワはそう言った後動かなくなった。顔はぐしゃぐしゃに崩れていても、人の表情を残して死んでいった。




