第106話 狂気と人の弱さ
僕達が事件の捜査をしていると、どこからともなくあの団体が現れた……
「みなさーん、これは神の裁きなのです。ここの区画長は神の怒りに触れたため、このような無残な姿へと変わってしまったのです。」
樹神教のヤマノウチが信者達を従えながら、ここぞとばかりに布教をし始めた。
「ちょっと、ヤマノウチさん! マコトさんが……ご遺族の方がおられる場でなんてことを言うのですか!」
見かねたトオガタさんが、ヤマノウチに近づき怒鳴った。
「私はここの皆様に本当の事を言っているだけです。信じていれば救われます。この者は世界樹の事を良く思わなかったからこうなったのです。前回、世界樹の根を駆除と言う名の神殺しを行った結果、こうなったのです。みなさーんよく聞いてください! ここ数日の裁きもこのことが原因なのです。」
女はここに集まっている人達に聞こえるようにわざと大きな声で喋った。
「おいおいこの話本当か?」
「でも、確かにそうかも……」
「最初の被害者も世界樹の根に対して悪く言っていたらしいし……」
「私、死にたくない!」
恐怖は電波していく……
一気にここに集まっていたギャラリーはこの女の味方へと変わっていった。恐怖はすぐに怒りへと変わり、その矛先はジンエイさん親子へと向けられてしまった。
「おい、アンタの親父さんのせいでこっちはとんだ迷惑だ!」
「何とかしてくれよ!」
「私は死にたくない……」
「死んで償ってくれ!」
そこには人間のどす黒い闇しかなかった。
「みなさん、父はただ……」
マコトさんの声は虚しく消え去ってしまった……
「申し訳ございません……」
ずっと顔を隠していた母親が民衆に深く頭を下げた。
「か、母さん……何も母さんが謝る必要は……」
「いいえ、あなた方は謝らなければなりません。家族の罪は家族に受け継がれてしまいます。このままでは更に犠牲者が増えることでしょう!」
ヤマノウチが追い打ちをかける様に民衆に恐怖を与えていく
「嘘だろ!」
「いやあああ」
「早くここから逃げよう!」
「そうだ、政府とかそんなもんあてにしちゃダメだ」
「まずは……」
周りの人たちの視線……いや、憎しみは親子に向けられた。
「まず、こいつらを殺して神の怒りを鎮めないと!」
「そうだ、少しでも誠意を伝えないと……」
「どうせ、ロクな奴じゃないんだ!」
ど、どうかしている……
人の奥底にある闇の部分に触れたような感じだ……
吐きたくなるほど気持ちの悪い空気が辺りに充満していく……
「申し訳ございません! 申し訳ございません!」
「皆さん、正気に戻ってください!」
ジンエイさん親子の抵抗は区画の人たちには効かなかった。
「これ以上はマズいわね……ショウ! アンタ悪者になる覚悟ある?」
「何するんだ?」
「私たちの能力者が持つ人外の力をこの人達に見せつけるの!」
「そんなことで大丈夫なのか?」
「まあ、とりあえずジンエイさん親子に向けられているヘイトは、こっちに来るでしょう。その後、私たち対策課がやっていることも伝えたら効果は抜群よ!」
ハイノメ提案はやけくそに聞こえた。
が、今は考えている暇はない!
しかし、怒りを鎮めたのは他でもないこの場を作ったヤマノウチだった……
「みなさーん、お静かに……この親子にも懺悔する権利はあります。神に祈りを捧げれば、お許しを頂けるかもしれません……」
「おお、そうなのか!」
「よかった……てっきり殺さなきゃいけないかと……」
「神のためとはいえ、人を殺めるのは抵抗があったから」
「なんでもいいから私を助けて!」
民衆のジンエイさん親子に向けた怒りは一度治まった。
「あああ、私も祈りを捧げれば救われるのですか? 命を助けてくれるのですか?」
「おい、母さん! こんな奴らに負けんじゃねえよ」
母親の方はもう限界の様だった……
「奥様……さあ、立ち上がってください……ご一緒に祈りを捧げるのです。そうすれば、必ず神は許してくださります。」
女は先ほどまでのガミガミとした口調ではなく、天の使いの様な優しい口調でジンエイさんの奥さんの手を取った。ニッコリと笑顔を作ってはいたが、僕にはただただ気味が悪く感じた。




