共同作業?
当初の契約のお仕事は、無事に……いろいろあったけど何とか無事に終わった。
そして新たなオシゴトです。今度は最初っから契約ちゃんと読もう。絶対。
いつも先生と二人のリビングに、今日は藤埜サンもいる。ちょっと違和感。
先生は、今度は一冊読みきりじゃなくてシリーズを計画中だということ。最初っからキャラクターデザイン織り込んで話を創りたいんだって。キャラ原案くらいの位置づけであたしも参加する。……責任重大とか、プレッシャーとか。いやいや、前のめりをモットーに!!
なので、そのための企画です。
「前の4冊で高評価を得ていますから、数年がかりのシリーズも大丈夫です」
おお。藤埜サン大きく出たな。
「やはり主人公の成長を書きたい。語り手は高校生の少年、メインのキャラクター数人の群像劇。学校が舞台」
先生が、眉間にしわ寄せてます。
ふむ。学校が舞台か。部活動かな。
「熱血スポ魂とか?」
あんまり熱血なのはどうかなー、と聞いてみたら、先生は首を振った。
「いえ。打ち込むものが見つからずにフラストレーションを抱えている」
ほうほう。
スケッチブックを広げて、鉛筆を取る。
「んー。優等生じゃない。ゲーセンとかで時間つぶしちゃう。でも普通を逸脱するほどの度胸もない?」
ちょっと悪ぶってる感じに書いてみる。服装とか少しだらしない。でも見るからに不良!ってほどでもない。
「ああ。雰囲気はこんな感じです。語り手役には観察者の意味合いで、……」
先生が横に来てスケッチブック覗きこむ。膝に広げてるから、覗き込まれると……顔近い。慣れたけど。
「冷静に見届ける役割なら、メガネ?」
「冷静、ではないですね。古典劇などではしばしば道化が進行役になります。そんな役回りで、一歩引いた所から皮肉にアレコレ言う……、しかし否応なしに巻き込まれて、気付けば主人公の一人になっている、進行するにつれて、自分が動かざるを得なくなる」
うん。その姿勢だとあたしの耳元でしゃべっちゃうことになるんですよ先生サマ。気が付いてくれないかな。
「あ、じゃあ糸目だ。いっつも笑ってるような、でも実は笑ってない細目で、それでいざって時開眼しちゃうんだ」
オレはそんなキャラじゃないってボヤきながら窮地で友達助けちゃうんだよ。ありがとうって言われたら二度としないって顔背けるツンデレ。
「……な感じ?」
斜に構えて片手はポケット。背は高いから周り良く見えるよー、でも足元の石に躓きそう。
そのまま、主人公たちについてあれこれ聞きながら何枚も描いて、気が付いたら藤埜サンがいなくなってた。
「あれ?」
はた、と顔を上げた。
「とっくに帰りました。キャラクターが決まったら連絡することになっています」
「あ、はい」
先生がコーヒー淹れてくれた。……先生サマの淹れるコーヒーはおいしい。何でだろう。
「今回は男の子ばっかりなんですか。女の子のキャラはなし?」
描いたのは全部高校生の少年だ。友情、努力、勝利! …な話だろうか。
「一応考えてはいるんですが……恋愛要素をどうするかが決まっていないので……」
キタよ、恋愛! 前は期待だけさせといて発展しなかったし!
「ラブ! 胸キュン!! ときめき!! ゼヒやりましょう!!!」
そしたらヒロイン思いっきり可愛く描くよ!
「どうしよっかなー、守ってあげたい小動物系? 小悪魔ちゃんもいいなー」
ワクワクと、スケッチブックに向き直った。やっぱ華のあるおんにゃのこは描いてても楽しいし。
主人公複数なんだから、ヒロインも複数でよくない? いろんなタイプいたら嬉しいよね!
うきうきと女の子描いてたら、先生が隣に座った。
「……今、恋愛をうまく書ける自信がないのですが……」
先生が、マグカップテーブルに置くと、ふかーく息を吐いた。
「え? なんでですか。先生なら大丈夫ですよ!」
藤埜サンに勧められて、今、苦手なハードカバーを読んでいたりするわけですが。
純文学ってエグイ話ばっかり、という先入観を、見事ひっくり返された。先生の書くものは、やっぱり尊敬できる。
「……あなたに協力してもらえたら、書けそうな気がするんです」
頭抱えなくてもいいじゃん、協力ならいくらでもするし。っつか、ちゃんとお仕事なんだから、あたしの仕事でもあるんだから最大限やるよ? 前のめりをモットーに!
「いくらでも協力します! 頑張って恋愛書きましょう!!」
鉛筆握って宣言したら。
先生サマが、フ、と笑った。
……あれれ? 久しぶりに見る逝け面だな~……?
「恋愛は、一人ではできないんです」
え?
「この指輪の意味、忘れてはいませんよね?」
そろ、と首にかかるチェーンを撫で上げられて。
うひゃあ! ゾワってなった、ぞわ!
鉛筆とスケッチブック落っことした。
「そろそろ、忍耐も限界です」
え? か、顔近い! ちょ、密着してない?
あれ? なんかデジャヴ?
「協力してくれると言うなら、私と、恋愛、してください」
耳元でささやかれて。
……唇に、何かが。
『萌え絵師への道』ENDです!!
ありがとうございました!!!