第56話
『スキャル、悪い知らせなのです』
シップチェイスを始めてもうすぐ20分は経とうと言う時、それはやって来た。
『スキャル情報が賞金首のジャンプアウトを…感知したのです』
「そっちが先か…」
『大型船が2隻、中型船が5隻感知されているのです』
「金かけてるなぁ…」
まぁ、最短予想時間よりはだいぶ遅い…標準時間位の到着か…
『取り敢えず、敵方に通信室を持った船がいないことと、この星系は一般通信が存在しないことは確実なのです』
「わーい、通信事業で稼げるぞー」
「生き残れればね」
通信関係はもう少し早めに知れてれば…全力で逃げに徹する手も無くは無かったんだが…
まぁ、誰もその分野詳しくないから仕方ないね!
「よし!あれやるぞ!」
敵方の情報伝達は、想定する限り1択…オープンチャンネルだ!
オープンチャンネルは、通信設備が整っていなくても使える通信技術で、船同士を近付ける事によって利用できる。
勿論、通信設備が整っている場合でも利用でき、その場合は広範囲での通信が可能になる。
チャンネルが1つしかなかったり、防諜が欠片も出来なかったりと、問題も山積みだが、便利なことには間違いない。
…そう、"チャンネルが1つしかない"のだ。
『船内及び警戒隊に警告!今すぐオープンチャンネルを閉じるのです!
当艦はこれより、古典的通信妨害作戦を実行するのです!
開始は通信終了より3秒後!終了は態勢が決するまでなのです!』
「カウント!」
『3!2!1!起動なのです!』
通信室を通常電源に切り替え、宙域一帯に不快を詰め込んだ音が流れる。
「あー、警告を無視した奴が何人か居るわね。
戦闘ドローンのカメラに、倒れてる人が映ってるわ」
「うわぁ…耳が良いと気絶するって本当だったんだな…」
『ジョークグッズも使いようなのです!』
これは、一応俺の作戦だ。
通信したくても、ずっと黒板引っ掻く音は耐えられないだろうという考えで、そういう音源を探してみたんだが…
「一番酷いのは、これのクラスが複数種類あることよね」
『それを混ぜ合わせてるローズも大概なのです』
なんか、各コロニーに2・3種類は存在してた…俺は恐怖した…
そんな俺を横に置き、悪乗りで弄くり回されたこの音源は、別の種類の音源が、強弱も変え、一番効くだろう形式にされてランダムに再生されている。
「敵小型船の内何隻かが、小惑星に突っ込んでロストしたわ。
効果抜群ね!」
『敵増援のジャンプアウト確認なのです!』
「…来たか」
と言っても、こちらからは目視できない。
小惑星帯に突っ込んで身を隠しているのだから当たり前『敵大型船、衝突の可能性アリなのです!』…おっと?
「これは…やったか?」
「やったわね」
『貴族系のパイロットは耳が良い人材が重宝されるのです。
…貴族の無茶振りに対応するためなのです…物凄く仇になってるのです…』
これは酷い。
『こちら警戒隊解析班!
敵方の内線の周波数を解析した!
そちらの船に通信の専門家はおられるか!』
『いないのです!』
「こっちは嫌がらせが限界ね」
『そうか…こちらは人がいるのだが機器がな…
仕方ない、周波数を伝えるから、そちらにも嫌がらせを頼む!
もしも敵方がオープンチャンネルにコンバーターを着けてるタイプなら、効果がある筈だ!』
『わかったのです!』
「それじゃあ始めるわよ!」
ローズがボタンを押し、不快の詰め合わせがさらにばら蒔かれる。
『敵大型・中型船!動きを止めたのです!』
「うわぁ…」
「中々効果的ね」
この船のオープンチャンネル…開けないように凍結しとこう…
「これで1分は稼げた筈よ!
この間に推進機の修理をするわ!」
「これで1分か…」
「まともな軍には緊急対応部隊がいるのよ。
今頃指揮権が移ってる所ね」
「指揮権が委譲しきると…」
「再起動するわ」
それで1分か…
「こっちもその間になるべく万全にするわよ」
『防衛軍関連のチャンネル設定が完了したのです!
これで、今後のこっち側での通信は万全なのです!』
俺の仕事は…あぁ、変わらないんですね、了解!
あれから、5分が経った。
「バリケード構築まで終わったわね。
次は設置型兵装の準備を終わらせるわ」
「こっちはかなり深くまで小惑星帯に潜れたな」
『通信網は非常用まで含めて設定完了なのです!』
前の5分はなんだったのかという平和さで、この5分が過ぎていく。
追ってきている小型船も、最早数えるほどしかなく、その船ももう間も無く警戒隊に鎮圧されそうな所まで来ている。
「このままなんと『敵方、動き出したのです!』…か、なってくれたらよかったのになぁ…」
『緊急回避起動』
「くっ…早速か『緊急回避起動』っぐっ、退避『緊急回避起動』うぐっ…」
「シールド残量82%…整備の効果が出てるわね」
「退避!退避!退避!」
『通信による連携も取れてなさそうなのです!』
「スキャル、改めて言っておくけど、今回避出来てるのは、敵がレーダー頼りのお祈り撃ちをしてるからよ。
絶対に敵から見える状態で撃たれちゃ駄目!頑張りなさい!」
「了解!サポートは頼んだ!」
「任せなさい!」『任せるのです!』
さあ!第3幕の始まりだ!




