第52話
「スキャル、操縦室とこっちの私室前の戦闘ドローン配置完了よ」
オーレリア様との面会を終えてから一夜明け、俺達は人員受け入れの準備を整えていた。
「多人数用のフードプリンターも、問題なく稼働中なのです!」
「よし、じゃあ今回のお客さんについて最終確認だ。
ペトラ宜しく!」
「なのです!
今回のお客様は、オーレリア様なのです!
家名については、平民に明かされることもないし、知ったら知ったで、ルールが複雑だから…知らぬが吉なのです!」
そっかぁ…じゃあ知らないほうが良いなぁ…
「オーレリア様の御実家は、アン・ドゥ・トロワ星系を含むこの辺りを治める大領主で、オーレリア様自身は次期領主候補に入っているのです!」
えー、何々?貴族は、実力主義で領主を決めると…年間ポイント的なのが一定を超えると候補になるのか…
…あっ、コロニーの代官とかは貴族じゃないんだな…
「オーレリア様の目的は研修なのです!
これは、貴族として認められるための儀式の1つで、当主から出された課題を、平民の力を借りる形でこなす必要があるのです!」
ほえー、大変だなぁ…
「大体3分の1が、変なのを引いて酷い目にあうのです!
死亡事故が多かったのもあって、年々規制が緩くなり、今では形骸化し始めているのです!」
規制が緩くなりってことは、初めは貴族1人で…とかだったのかな?
「…今回の目的地は開拓が始まって間もない、ドゥズ星系の第1居住惑星なのです。
使用人の最高年齢も、明らかに低いのです」
…おっとぉ?
「警戒は…すべきなのです。
最悪、生活ユニットと射出して、逃亡を図ることも頭に入れておくべきなのです」
嫌だなぁ…
「勿論、この手の儀式を襲撃した貴族に未来は無いのです。
ただ、それでもやって来る貴族は証拠を残さないようにやるのです。
逆に言えば、少しでも証拠を出せば、道連れまでは持っていけるのです」
「…よし!暗い話はここまで!
ペトラの情報を参考に、逃げる準備は常にしつつ、判断早めに、出来ることはしていこう!」
「「了解!」なのです!」
「それじゃあ俺は、積込が終わり次第発進だな!」
「私は、護衛長と話を詰めてくるわ」
「チューは従者長となのです!」
「よし!じゃあ各々頑張ろう!」
「「オー!」なのです!」
「…よし!一旦は良いかな!
受け入れも想定より遥かに短く終わったし、中々順調だな」
ジャンプ開始から1時間、キャッチャーを行いやすい、加速期間を終えた俺は、一息付くためにリビングへと向かっていた。
「次の減速期間までは15日か…襲撃を起こしやすいポイントはマークしてあるから、そこを通過する時も操縦室に居ないとな」
廊下を抜け、リビングの中へ入る。
「あれ?2人とも居な…ペトラからヘルプ?…と、オーレリア様からもメールが…」
まずペトラから…
「…うげっ、若い従僕って貴族なのか。
あー、それで生活レベルが落ちすぎて文句を言ってると…」
事前説明はしたんだけどなぁ…
「それで、オーレリア様の方は………また面倒臭い依頼を…」
いや…ね?一応船の中では《船長》って役職が一番偉くなるんだ。
だからこそ、貴族の乗る船は、位がもっとも高い貴族が《船長》として登録すると。
ただ、今回は傭兵の船だからそこら辺の登録変更は無しで、乗船者への絶対命令権と、非常時の追放権やその他諸々を《船長》の俺が握っていると。
「だからって鼻っ柱を折るのは無理ですって…
船内で何か起きても、我が家の責任でなんとかするって…結局逆恨みがこっちに向くだけなのでは?」
ただまぁ…クルーが困っている以上、その助けに行かないわけにもなぁ…
「はぁ…俺のティータイム…」
せめてもの足掻きとして、お茶と茶菓子をフードプリンターで作成した俺は、ハコベル君と共に、ペトラの元へ向かうのだった。
「どうも、議論が白熱しているようで…フードプリンター製の粗茶なのですが、熱を冷ますには丁度良い不味さだと思い、お持ちしました」
やってきた場所は遊戯室…と言うのも、会議室を用意するのを完全に忘れてたんだよな…俺達の会議はリビングでやってたし…因にローズはトレーニングルームで会議中だ。
ペトラと相対する従者長は、金髪のエルフっぽい女性だ。
この世界、長寿命化処理のせいで、見た目と年齢が乖離してる人が多すぎるんだよな…まぁ、この人は見た目も若いけど…
「やっと来ましたね!全く、この下等民では話にならないと言うのに、一体何を…」
「………」
「なっ、何ですか!」
「警告は1度だけだ。
現在この船の船長は俺だ。
…つまりは、今この船において、オーレリア様より権限を持っているということになる」
「それは…オーレリア様より聞いております」
「その俺が、全権大使として派遣したクルーに対して…今何と言った?」
「一体何の問題が?」
「おかしいな…俺は今回の仕事を研修として聞いている。
つまりは練習…今後、オーレリア様より位が上の…他の貴族の方の船に乗るための経験を積む場所であると、そう認識していたのだが…違うのか?」
「違いますね。
これはあくまで貴族としての体裁を保つための通過儀礼…この程度の木っ端傭兵に気を遣う必要など無いでしょう」
あー、なるほど…オーレリア様はこれを知っていたわけか…ローズ曰く、貴族の中には身分を偽って出方を見るタイプが山程居るらしいからな…
「通過儀礼か…本当にそれだけが理由であれば、精鋭の従者と護衛だけで十分な筈だがな」
「…我等が精鋭でないと?」
「長にも副官にも経験豊富なベテランが居ない隊が、どのようにして不測の事態に対応するんだ?」
これは、ローズの言葉。
ベテランの居ない隊には、絶対に付いていってはいけないらしい。
「何を言うかと思えば…その程度我々で対応できます」
「では、今回の事態は?
私はオーレリア様から〔あのコロニーの部屋のグレードはしっている〕とお聞きしております。
貴女は全権大使のクルーに、部屋の環境について糾弾していた用だが…
何かな?話が主は情報共有も出来ない無能であるとひけらかしに来たのか?」
「なっ!?」
「それとも、従者が自ら聞きに行くという、オーレリア様自らが設定なされた練習項目を見逃した挙げ句、それにすら気付けない無能であるとひけらかしに来たのか?」
「貴様!」
「いい加減に気付け!今回の貴女の行動で、オーレリア様の生活の質がどれだけ悪化したと考えている!」
これは、ペトラに対してこの人が言ったセリフ。
「それはそちらの責任です!」
「寝具、食料、家具…これが何かわかるか?」
「この船の質が悪いものでしょう?」
「我々が受け入れ可能リストに記載していたものだ」
「…それが何か?」
「家のクルーには貴族の受け入れ経験が複数有る者が居てな?
これは、大抵の貴族受け入れの際に持ち込まれる物品だそうだ」
「………」
「おかしいと思わなかったのか?予定時間より3時間近く早く出発したんだぞ?」
「…それは」
「改めて言うが、我々は事前に〔あのコロニーの部屋のグレードはしっている〕と、オーレリア様からお聞きしている」
「………失礼しました。
我々の瑕疵であると認めます」
「良いさ、これは練習だ。
本番で失敗をしなければ良い。
さて、もう一度初めから練習だ。
相手は船長の全権大使…しっかり話し合うと良い」
「畏まりました」
あー、ペトラがかなりゲンナリしてるな…ゴメン!後で秘蔵のホタテあげるから!
一応、ローズの方も見とかないとな…




