第50話
『セプト星系、第1コロニーに…ジャンプアウトしました』
あれから2週間…新たなトレーニングルームの影響で、テンションの上がったローズ大先生の熱の入った指導により、満身創痍となった俺達は、医療星系のコロニーへとやって来ていた。
「まっ、まさか風呂すらまともに使えないなんて…」
「体を洗うとか、湯船に浸かるとか、そんな余裕一切無かったのです…」
「わっ、悪かったとは思ってるのよ?ほっ、ほら!私もトレーニングルーム以外は、使ってないじゃない!」
『ドッキング申請が受理されました。
自動運転を開始します』
「それでも、1日くらい休みがあっても…」
「ふっ、2人とも、休み欲しいなんて言ってなかったじゃない!」
「疲れすぎて、まともに思考できてなかっただけなのです…」
ここでは、メディポッドの購入と、身体検査をする予定だ。
「まぁ、お陰で…地上戦闘はそれなりに出来るようになったから…」
「そう思わないとやってられないのです…」
「えっ?…まぁ…民兵よりはましかしら…」
『『ドサッ』』
あっ、後方でペトラの倒れる音がする…俺?勿論倒れてるよ?
「あっ、ちょっ!メディーック!」
「過労ですな」
俺は今、男女どちらとも言えない顔の、細いヴァンパイアの先生に診断を受けていた。
「さっき診断したネズミちゃんもでしたぞ?一体どんな訓練をされていたのやら…」
「あー、ローズは?」
「健康体そのものですな」
「俺達よりキツイ訓練併走してたんだけどなぁ…」
「まぁ、元軍人にはままいる存在ですな。
筋力増強もしていないのに、陸軍の兵士と殴り合える真性のバケモノと見ましたぞ」
「そうか…」
酷い言われようだが、否定しきれない俺がいる…
「そういえば、メディポッドも買う予定だと聞きましたが、そちらに医者や研究者のクルーは居るのですかな?」
「いや、居ないな」
「なるほど…であれば、その旨も記載しておきますぞ。
恐らく、重篤な怪我や病気、未知のウイルスに強い物を選んでくれるはず…もしもそこら辺に強くなければ、私に電話してくれれば、対応しますぞ」
「ありがとうございます!」
「それでは、今回はここまで、お大事にー!」
「失礼します」
自動ドアを潜り、待合室に戻る。
「あっ、スキャルお帰りなのです!」
「あれ?ローズは?先に戻ってはずじゃ…」
「ローズなら、元軍医って犬獣人の人に連れていかれたのです!結構しっかり目に説教食らってるのです!」
あぁ、受付の裏から聞こえてくるこれ説教なのか…
「あっ、戻ってきたのです」
「うぅ…久し振りに説教受けたわ…」
おぉ、ローズがしおしおしてる。
「珍しいのです」
「なー」
「うっ、まぁ…あれよ…軍人は医者と食事担当には逆らえないのよ…」
「軍人の掟ってやつなのです?」
「かもしれないな」
なんと言うか、ローズの意外な一面を見た俺達は、一路メディポッドの販売店へと移動するのだった。
「しゃーしゃーせー」
さて、所変わってメディポッドの販売店だ。
なんと言うか、やる気がなさそうな、ダウナーな感じのダークエルフが受付をしている。
スタイル抜群で黒髪な彼女は、こちらをチラリと見ると、フラリと揺れながらこちらへ近付いてくる。
「おっ、もしかしてスキャルさんとごいっこー?」
「あっ、ああ…そうだが…」
「おー、ネーはネーラ、オーレリア様の研修に同行するんだー」
オーレリア様っていうと…確か明日以降に合流する貴族のご令嬢だったはず…
「あら、珍しい。
ホムンクルスかしら?」
「なのです!?」
「おー、すごーい。
ネーはねー、試験管ベイビーの遺伝子情報を元に作られたって聞いてるー」
「ちょっ、ちょっと待つのです!
擬似的な出産である試験管ベイビー以外、国際法で禁止されているはずなのです!」
「そうだよー。
だからネーは、闇の組織出身ー」
「私の場合は戦時中によく見たのよ。
即席の指揮官でっち上げるのに便利らしくて、両国共使ってたわね」
「なっ、なんか戦争の闇を見た気分なのです…」
「でもでもー、一目で見破られたのは初めてー」
「そこはまぁ、慣れの部分が大きいわね。
原理的には、知識と行動の乖離になるんでしょうけど…それよりも慣れよね」
「へー、すごーい」
「ほえー」
なんと言うか…凄い世界だな…
「それじゃー、メディポッドの実物見ながら説明するよー」
何時ものゴンドラ移動を経て、メディポッドがズラリと並ぶエリアへとやって来た。
「えーっとねー、事前情報からのオススメはー、これー」
「…うん。見た目は全く変わらないな」
四角柱の、なんか脱出ポッドっぽい見た目の機械だ。
「同一規格みたいだから、そこは同じなんでしょうね」
「中身は違うよー。
これはねー、死にかけの人を治したり、病院まで生き永らえさせるのに強い機械ー」
「あー、軍の医療船で似たようなのを見たような気がするわね…」
「軍かー、このシリーズはよく積んでるよー」
「やっぱりそうなのね」
「オススメのこれはー、研究者泣かせってよく言われる型なんだー」
「研究者泣かせなのです?」
「そー、未知のウイルスとかねー、瞬時に解析しちゃって、対抗薬まで作っちゃうのー」
「それは凄いな…」
「スキャルさん紛れ人なんでしょー?
変なウイルスに感染するかもしれないし、特有の未知の病気もあるかもしれない…
そんな人にオススメの逸品なんだー」
「なるほど…」
「一応、他のオススメも聞かせてもらえるかしら?」
「うーん、そうだなぁ…
オススメしてもいーけど、未知のウイルスとか病気に対応できるのはこれだけだから…これは買った方がいーよ?」
「…お値段は?」
「なんとお値段500万エネー。
笑っちゃうよねー。
廉価版もあるから、そっち行くよー」
「…スキャル、出せるわね?」
「娯楽室で思ったより散財しなかったからな…まだいける」
「あの店の品揃えの悪さに感謝なのです」
「えーっ!買えるのー!?」
船の修理用に、ローズから常にプールするように言われてる金額を抜いても…まだいけるな。
「ここは出すべきだろ」
「すごーい!すごーい!」
「オプションとかあるのか?」
「そうだねー、これは高いやつだから、ある程度の機能を、他のメディポッドと共有できるのー。
だから、分析機能とかを外した廉価版のメディポッドを買うのがおすすめー」
「フムフムなるほど…」
「スキャル、廉価版の値段見るのです」
「うん?…10万か…分析機能高かったんだな」
「そうなのです…無茶苦茶高いはずなのに、安く感じるのです…恐ろしいのです…」
「たっ、確かに!」
そうだよ!ローズのインプラント代クラスだよこれ!
「他のオプションかー。
…あっ、部屋は入れた方がいいよー、タイプは色々あるけど、お金に余裕があるなら、研究者用のがおすすめー」
「値段は…50万…」
「4スロットの方にするのです?」
「1ブロックの方は…ね?」
「…値段10倍なのです!?」
「機能が色々付くんだよー?
でも、費用対効果は4スロットの方が良いと思うー」
「じゃあ、そっちで…」
「わかったー。
メディポッドの数はどうする?
ネー的には、合わせて5台がオススメかなー。
長期航海中に、故障が起きて、メンテナンスで1台使えなくて…ってなっても大丈夫な台数ー」
「どうする?」
「5台は買いすぎな気がするのです」
「医者の言うことはね…聞いておいた方が良いのよ…」
「…実感こもってるのです」
「じゃあ5台で」
「まいどありー。
今ならキャンペーンで、部屋とメディポッドを合わせて買った人には、緊急搬送ドローンをプレゼントー。
購入金額的に…上から2番目のグレードだよー」
「おお、それはありがたい」
「設置には1日かかるから、その間はホテルへどーぞー」
電子決済を終え、なんだか財布が軽くなった気のする俺達は、ホテルへ移動し、ゆったりと過ごすのだった。




