第36話
「…こんなもんかな?」
ジュワーという音と、バターと醤油の香りが辺りに漂う。
ここは、第8ステーションに設置された調理ユニットだ。
調理で発生する様々な不具合から船を守るユニットで、現在は半ば強引に設置されている。
今の船だと料理が出来ない現実に打ちひしがれつつも、見るからに美味しそうなこれを皿に盛り、テーブルに置いていく。
「今回はバター醤油焼きと刺身の2種類だ。
どうぞ、食べてくれ」
いやぁ、高級調味料プリンターが化け物性能で助かった。
リストに存在しない調味料を、その場で作ってくるんだもんな…未来を感じたぜ…
「いただきます。
っと、まずは刺身からかな?」
「じゃあ、私もそうしようかしら」
「料理人に従うのです」
ホタテと言えば貝柱!異論は山程あるかも知れないが、俺は貝柱の刺身が好きだ!
…あと、楽しみは後に取っておく派閥だ!
「…あむっ…モグモグ…」
………
「なっ、なんじゃこりゃぁ!?」
うま!うっま!何これ!?
「美味しい!
これがオーガニックの手料理なのね…貴族連中が高い金を出す意味が少しわかった気がするわ…」
「こっこれは!旨味の暴力なのです!
元の味が良いのは勿論、醤油によってそれが更に引き立っていて…最高なのです!」
つっ、次は…バター醤油を…
「あむっ…モグモグ…」
こっ、これは…
「旨すぎるだろ…」
なんだろう…なんか涙でそう…
「私…もうあのフードプリンターで満足できる気がしないのだけど…」
「素晴らしいのです…
焼くことによって、身がホクッとして、ホロッとほぐれて…
バターもフワッと香って、醤油のパンチも効いていて…でもホタテの味もしっかり主張していて…最高なのです…」
これは…これは…
「間違いなく売れるな」
「私、手持ちのお金全部投げ出す自信があるわ」
「チューは、借金まで視野に入るのです」
…そうだ。
「今日帰港してくる全員に、これを少しづつ振る舞おうか」
「すっ、スキャル!なんて事を!?」
「駄目なのです!そんなことしたらとんでもないことになるのです!」
フッフッフッ…
「なぁに、タダのお裾分けさ!
器具とか用意してくれてありがとうってな!」
その後、謎のハイテンションになった俺は、その日帰港していた132隻、331人分の1口セットを作成し、傭兵ギルド経由でプレゼントするのであった。
「ハッハッハッ!美味しいものは皆で食べないとね!」
勿論、オークションへのリンクも送り済みだ!
翌日
今日は朝から仕込みだ。
オークションは夕方らしくて余裕はかなりあるんだが…デカイブロックから柵にする作業がね…柵から刺身にする作業も…
機械君…そこまで対応してくれても良かったんですよ?
「よーし、やるかぁ!」
今日は漬けとかも試してみようかな…調理者の特権ってことで。
お昼
「つっ、疲れた…」
腕が…包丁を握ってた右腕がヤバイ…
左腕もプルプルするけど、まだましな気がする…
取り敢えず、これで100人分の柵が出来た。
「料理人用補助アームなんて要るのか疑問だったが…要るわ!絶対要るわ!」
筋力補助のアームを付けてこれだもんな…素の状態でやれる気がしないわ…
「と言うか、ここから刺身にして、半分は焼くのか…朝から始めて良かったな…」
明日は…量減らそう…
「さて、昼食べたら続きするか…」
これで昨日の稼ぎ下回ったら、絶対辞めてやる!
夕方
「つ゛か゛れ゛た゛」
完全に力尽きた俺は、3人分のホタテを持って船に帰還していた。
「今日は…今日は漬け丼…真ん中に卵黄乗せるやつ…食べるまでは寝…な……い………」
その後、俺は朝まで寝ていたらしい。
…寝てしまっていたらしい。
そう…俺は、最後の止めるチャンスを逸してしまったのだ。
翌朝
しっかりと俺の分の漬け丼を食べ尽くした2人にジト目を向けつつ、俺は調理場へと向かう。
昨日のオークションの落札額は聞いていない。
ローズは〔人生、知らない方がいいこともあるのよ〕って言ってたし、ペトラは〔8割!8割なのです!8割なのです!〕って言ってた。
なんかテンションおかしかったし…不安だ…
後、護衛としてバトルドローンを持ち込むように言われた。
そして、俺の行く道を護衛する謎の集団が現れた…なんと言うか…見るからに装備の質が良い…
後…なんか視線を感じる…
「なんだろう…凄く…凄く…嫌な予感がする」




