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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
三章

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第四十六話:見せたいものだけ

朝のギルドに、人が集まっていた。

呼んだのは、ガドだった。


執務室に入りきらないので、酒場のフロアを使った。机を寄せて、地図を広げた。

ガド、レイモンド、カーラ、フィン。火喰鳥の四人。マルコ。ヴェタ家の四人。

アンばあさん、バッハ、エルミ、マレク、ルード、ゲオルク。

ベック、ティナ、ミーデル、ゲッツ、ジン、マーサ。


ベルタの全部が、そこにいた。


帳面を開いた。


「作戦を話します」



話は、昼までかかった。


誰かが頷いた。誰かが質問した。誰かが笑った。

ジャウが一度だけ「うむ」と言った。レイモンドのペコペコは、最初から最後までなかった。


昼過ぎ、人が散っていった。


それぞれの場所へ。

それぞれの仕事へ。


ティナが帳面を抱えて走っていった。ゲオルクとバッハが何か言い合いながら鍛冶場の方へ歩いていった。ルードが木材の寸法を指で測る仕草をしていた。


アンばあさんが最後に残った。


「ケンジさん」


「はい」


「うまくいくよ」


理由は言わなかった。


「……はい」


それで十分だった。



午後、街が動き始めた。

ゲッツが新人たちを集めていた。

「旗を持て。一人二本だ」


新人の一人が手を挙げた。

「二本もですか? 槍の方が……」


「旗だ」


「なんで旗なんですか」


「いいから持て」


新人たちが顔を見合わせた。誰もわからないまま、旗を担いだ。


街道沿いの防柵に、旗が立ち始めた。


多かった。


人の数より、旗の数の方が多かった。



昼下がり、南の門が騒がしくなった。

荷車の列だった。

老人、子供、鍋を抱えた女たち。ラルタの村人だった。

先頭に、ラルがいた。


「ケンジさん!」


息が上がっていた。


「勝手に来ました! 橋が落ちたって聞いて、次はうちか、ベルタだって……どっちにしても、村にいたら駄目だと思って!」


「……全員ですか」


「全員っす! ベルナーさんが、村は建て直せるって!」



ギルドの裏で、ルウとポウが荷を積んでいた。

縄が、束で積まれていた。それと、ゲオルクの鍛冶場から運ばれてきた、布をかけた何か。


トールが通りかかって、覗き込んだ。

「それ、何ですか」


「ひみつー!」

ポウが言った。


「えっ」


「ひみつだよー! アハハ」


ルウが荷を縛りながら言った。

「聞くな」


「……はい」


トールが少ししょんぼりして去った。

荷車が、東へ出ていった。


森の方へ。



カウンターの奥で、ミーデルが名簿を作っていた。


捕虜の名簿だった。

名前、年齢、出身の村、家族の有無。一人ずつ、聞き取った内容が並んでいた。


マーサが覗いた。

「なんでそんなものを?」


「ケンジさんに頼まれました」


「捕虜の名簿なんて、何に使うんだい」


ミーデルがペンを止めなかった。

「わかりません。でも」


一行、書き足した。


「ケンジさんが意味のないことを頼んだことは、ないので」


アンばあさんの食堂からは、鍋が二つ増えた、という話が聞こえてきた。

捕虜の数は、変わっていないのに。



夕方、執務室にガドと二人になった。

地図の上の駒は、もう並べ終わっていた。


ガドが言った。

「数えたか」


「数えました」

帳面を見た。


「敵の仮橋、完成まであと三日から四日。妨害しないので、向こうは急ぎません。丁寧に作ります」


「援軍は」


「早くて六日。間に合いません」


声が、思ったより平らに出た。

「間に合わない前提で、組みました。時間はあります。足りるようには、ないですが」


ガドがしばらく地図を見ていた。

「足りない分は」


「向こうに、出してもらいます」


ガドが目だけ上げた。

「賢い指揮官ほど、こちらの思う道を選びます。そういう形にしました」


ガドが少し黙った。


それから、別のことを聞いた。

「お前、まだ何か持ってるな」


手が、止まった。

「……最後の手は、あります」


「言え」


「使いたくないので、言いません」


ガドがこちらを見ていた。


長かった。


「使う時は」


「報告します。使った後に」


ガドが息を吐いた。

「……順番が逆だ」


「逆じゃないと、止められるので」


ガドが何か言いかけて、やめた。


代わりに、短く言った。


「死ぬな」


「死にません。私は戦えないので、戦場に立ちません」


「そういう意味じゃない」


それ以上は、言わなかった。



夜、一人でカウンターに残った。


帳面を開いた。


配置は決まった。旗も、縄も、名簿も、鍋も、動き始めた。


最後のページに、書いていない計算が一つある。


書かない計算だった。


書けば、誰かが読む。読めば、止められる。


ペンを持って、止めて、置いた。


帳面を閉じた。


懐に仕舞った。

重さは、変わらないはずだった。

少しだけ、重かった。



同じ夜、川の向こうで、槌の音がしていた。

規則正しい音だった。急いでいない音だった。

丁寧に、確実に、橋が組まれていく音。

南の森の見張り台から、その音を聞いている者たちがいた。


紙に、書いていた。


ベルタ、防柵構築。街道に旗多数。主力は街道に集中している模様。森側、動きなし。

妨害なし。士気は低いと思われる。


伝令が、夜の川を渡った。


紙は、読まれる。


読まれるために、書かれた絵を。


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