表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/75

第四十五話:由来

朝が来た。

広場に、火の燃え残りがあった。樽が転がっていた。昨夜の街の形が、そのまま残っていた。


ギルドの前に、人を集めた。

冒険者、新人、漁師衆、組合の面々。眠そうな顔が並んでいた。まだ昨夜の続きの顔だった。


ガドが前に立った。


「川向こうに本隊がいる」


それだけで、眠気が消えた。


「数、二百。重装だ。数日で来る」


誰も喋らなかった。

昨夜あれだけ騒がしかった広場が、音を失っていた。


新人の一人が、小さく言った。

「……勝ったんじゃ、なかったんですか」


誰も答えなかった。


ゲッツが答えた。

「勝った。昨日はな」



ギルドの中に戻った。

カウンターに、いつもの顔が集まっていた。

誰も、いつもの顔ではなかった。


ティナが言った。

「ケンジさん、どうするんですか」


帳面は、懐にあった。

閉じたままだった。


「……考えています」


嘘ではなかった。

考えて、考えて、足りなかった。それだけだった。


マーサが何か言いかけて、やめた。

ミーデルが帳面を開いて、閉じた。

書くことが、なかったのだと思う。


その時だった。

ジンが、顔を上げた。



「……馬」


「ジン?」


「馬が来ます。北から」


北。

川は南だ。敵じゃない。


「四頭。速い」


ジンが少し首を傾げた。

「でも、変です」


「何がですか」


「一頭だけ、音が違う」


ジンが自分の耳を疑う顔をした。初めて見る顔だった。

「馬の音じゃない。蹄の音はしてるのに、その奥が——」


少し止まった。


「……魔獣の音がします」


全員が固まった。


魔獣が、馬の中に。

ベルタの北。北の森。

足が、勝手に動いていた。



門に着いた時には、もう見えていた。

街道を、4頭が来る。


速かった。


土煙が、まっすぐこちらに伸びてくる。


門番が槍を構えかけて、止まった。


先頭の馬が、おかしかった。

大きい。普通の馬の一回り上。目の色が、遠目でもわかるほど赤い。たてがみが逆立っている。

荒れた馬の特徴だった。1頭でも街道に出れば討伐依頼が出る類の。


なのに。

歩様が、一番静かだった。


四頭が門の前で止まった。


先頭の赤い目の馬から、老人が降りた。


ジャウだった。


その後ろで、ソルが降りた。ルウが降りた。ポウが飛び降りた。

ポウが先頭の馬の首を叩いた。

「ヴェタ、はやかったねー!」


止まった。


「……ヴェタ?」


ポウがにこにこした。

「うん! ヴェタ!」


馬が、鼻を鳴らした。


ヴェタ家の、ヴェタ。


ソルが横に来た。馬を見て、それからこちらを見た。

「家の名は、こいつからもらった」

それだけ言った。


ガドが、馬を見ていた。

何も言わなかった。

レイモンドが、一度だけガドを見た。

それも、すぐに逸れた。


赤い目の馬を、もう一度見た。

魔力にあてられた馬。荒れて、討伐されるはずだった馬。

殺さず、馴らさず、育てた。

家の名前を、もらうほどに。

この一家は——


「ケンジ」

ジャウが前に立った。


「ルウから聞いた」

短かった。


「ベルタに、戦が来るそうだな」


「……はい。本隊が、二百。数日で来ます」


「うむ」


ジャウが街を見た。門を、塀を、その向こうの屋根を、ゆっくり見た。

それから言った。


「いい街だ」


「ありがとうございます」


「ジンのババアもいる。アンもいる。炭の客もいる」

指を折っていた。


「客人の街だ」


ジャウがこちらに向き直った。


「儂らも混ぜろ」



執務室に、人が入りきらなかった。

ガド、レイモンド、ゴルド、ケンジ。それとヴェタ家の四人。


ガドとジャウが、向かい合った。

ガドが先に頭を下げた。

深かった。

ガドが頭を下げるところを、初めて見た。


「助かる」


ジャウが「うむ」と言った。

それで終わりだった。


岩と森の交渉は、三秒で済んだ。


レイモンドが何か手続きの話をしかけて、やめた。ペコペコもしなかった。する相手ではないと、わかったらしかった。


その時、ゴルドが口を開いた。

「一ついいですか」


ジャウがゴルドを見た。

「ルウとポウも、戦うんですか」


部屋が静かになった。


ゴルドが続けた。

「……子供を、前に出すんですか」


責める声ではなかった。

ただ、聞かずにいられない声だった。


ジャウは、怒らなかった。

少し笑った気さえした。


「森では、狼は歳を聞かん」


ゴルドが止まった。


「狼に襲われる日に、子供だから休みということはない。あの二人は、生まれた日からそういう場所で生きてきた」


ジャウがルウとポウを見た。


「街の子と、儂らの子は、別の生き物だ。お前さんの心配は、街の正しさだ。それは受け取っておく」


ゴルドがしばらく黙っていた。


それから、頭を下げた。


「……失礼しました」


「いや」


ジャウが言った。


「聞いてくれる街だから、来た」



地図を広げた。


帳面を、懐から出した。

開いた。


昨夜から書けなかった帳面に、手が動き始めた。

ヴェタ家、四人。ジャウ、ソル、ルウ、ポウ。騎馬四。うち魔馬一。

書きながら、数字が組み変わっていくのがわかった。


昨日まで、足りなかった。

正面を厚くすれば横が空く。横を守れば街が薄くなる。どこを削っても穴が開く、その計算が——

森が、丸ごと味方になった。


ルウとポウは、知らない南の森で、先遣隊の十五人を誰にも気づかれずに数えてきた。

二人で、それができた。


四人なら。

しかも今度は、ジャウとソルがいる。

敵は、森を通って来る。

ペンが、止まらなかった。


「ケンジ」

ガドが言った。


「顔が変わったな」


顔を上げた。


部屋の全員が、こちらを見ていた。

「……数えられるようになりました」


帳面を、机に置いた。


開いたままで。


「作戦を、組み直します」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ